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2023/5/11 18:00

質実剛健がウリだったけど大丈夫? 3代目「ルノー カングー」乗って試す

フランスのルノー「カングー」と言えば、質実剛健な造りが日本でも人気を呼び、多くのファンを生み出したクルマです。そのカングーが2020年11月に3代目としてフルモデルチェンジを果たし、それから3年を経て日本での販売をスタート。サイズアップして乗用車としての乗り心地や使い勝手を高めた新型カングーをご紹介します。

 

■今回紹介するクルマ

ルノー/カングー

※試乗グレード:インテンス(ガソリンモデル)

価格:384万円〜424万5000円(税込)

↑1.3Lガソリンターボエンジンを搭載した「インテンス」。より乗用車ライクな外観を特徴とする

 

人気の秘密は質実剛健なコンセプト。3代目で「豪華になった」のは大丈夫?

カングーは高い実用性を持つ“乗用車”として、日本でも人気を集めているフランス車。わざわざ乗用車を“”で囲ったのには理由があって、もともとカングーは商用車として登場しているクルマだったからです。

 

カングーが誕生したのは1997年のことです。商用車らしく背を高くして十分なカーゴスペースを確保しながら、直進安定性やハンドリングなどが乗用車並みに優れていると高い評価を獲得。加えて当時の商用車としては数少ないABSや4つのエアバッグを標準搭載するなど、高い安全性も確保したことで、日本だけでなく世界中で人気モデルとなりました。

 

日本で初代が発売されたのは2002年。最初はバックドアを跳ね上げ式のみとしていましたが、翌年に実施されたマイナーチェンジを機に観音開き式のダブルバックドアが選択可能となりました。以降、カングーは使い勝手の良さから一躍人気モデルとなったのです。

 

そのカングーが今回のモデルチェンジで3代目となり、より大きく豪華なクルマへと進化を遂げました。ただ、“豪華になった”と聞けば、質実剛健さがウリだったカングーにとって果たして良いことなのか? そんな心配をする声も当然出てくるでしょう。ですが、その心配は基本無用と私は感じました。むしろ、走行中の安全性や使い勝手が進化したことで、実用車としての能力が一段と高められたのではないかと思ったのです。

 

全長が210mm長くなり、スタイリングにも余裕が生まれた

今回試乗したカングーは、カラードバンパーを採用し、より乗用車らしさを追求したグレード「インテンス」です。外観は、フロントグリルが従来のカングーとは大きく違ったデザインになり、以前よりも一段とルノーっぽさを感じさせます。ボディは前モデルに比べて全長が210mm長くなり、それによりAピラーを大きく傾斜させています。室内空間を狭めることなく伸びやかさを感じるデザインです。

 

一方でキャビンから後ろ方向を見ると、サイドのグラスエリアを細めにして、相対的にルーフ部分の厚みが増しています。これは商用車として荷物の積載に配慮したものですが、ここに本来のカングーっぽさを感じ取ることができます。

↑ガラスエリアを狭めたことから商用車としての基本構造が伝わってくるが、乗用車としても十分納得がいくデザインだ

 

さらに、3代目のラインナップには、フロントとリアがブラックバンパーになっている「クレアティフ」も用意されました。ホイールをセンターキャップのみともしており、よりカングーらしい質実剛健さを求めたいユーザーには格好のグレードと言えるでしょう。

↑ブラックバンパーやホイールが特徴的なグレード「クレアティフ」

 

全長が210mm伸びたことで、実感できたのが室内空間の広さです。特に「広いなぁ」と感じるのが後席で、一人ずつ専用シートが割り当てられている3座独立タイプとなっており、身長168cmの筆者が座っても十分なゆとりを感じます。フロアもフラットであるため、ゆったりと座ることができました。

↑シートサイズもたっぷりとしたサイズで、乗用車としての質感も申し分ないレベルに仕上がっていた

 

↑リアシートは3人分を専用シートで区切ってあるうえに、足元が広いために大人3人がゆったりと座れる

 

ただ、リアスライドドアは左右ともに完全な手動式で、国産なら今どき軽自動車でも電動化を実現していることを踏まえると残念に思うかもしれません。しかし、これがカングーだと思えば許せちゃうところが不思議です。

 

運転席に座って、変わりように驚いたのがインパネのデザインです。ダッシュボードは水平基調でデザインされ、中央にはフローティングされた8インチのディスプレイを配置。その下にはクロームで縁取られた空調用ダイヤルをはじめ、シフトレバーと電動パーキングブレーキがすっきりとまとめられています。

 

【運転席まわりのフォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

 

商用で使うならパーキングブレーキは引き上げるタイプの機械式が良かったのではないかと思いますが、時代の流れなのでしょう。もちろん、乗用として使うならより使いやすいと感じるはずです。

 

ダッシュボード中央の「8インチ・マルチメディア EASY LINK」は、カーナビこそ装備されていませんが、スマートフォンを接続することで、iPhoneならCarPlayで、AndroidならAndroid Autoによってさまざまなアプリが使えます。なので、iPhoneならGoogle マップやYahoo!カーナビが使え、AndroidならGoogle マップがメインとなるでしょうか。

↑カーナビは搭載していないため、スマホにインストールしてあるカーナビアプリを使うことになる。写真はアップルのCarPlay

カングーならではの圧倒的な収納力と使い勝手の良さ

そして、カングーならではの真骨頂が優れた収納力です。ダッシュボードのアッパーには開閉式の収納ボックスが用意され、ここにはUSB端子2基とシガーライターソケットを装備。また、おなじみのオーバーヘッドコンソールも引き継がれ、その手前には巨大なアシストグリップが装備されました。これまで親しまれてきたチャイルドミラーはくるりと回転すると現れるようになり、これまた使いやすさを高めています。

 

【フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

 

一方で、後席用のオーバーヘッドコンソールはなくなり、代わりに前席背後に使い勝手が良い折り畳み式テーブルが装備されました。

↑前席シート背後には新たに折りたたみ式テーブルが備えられた。後席に座った人には重宝する装備だ

 

ラゲッジスペースは当然の広さ。その容量は5名乗車時でも先代モデル比で115Lプラスとなる775Lを実現。後席は6:4分割で折りたたむことができ、すべてをたためば先代モデル比で132Lプラスの2800Lにもなります。しかもフロアは出っ張りがほとんどないフルフラット状態。フロアの地上高も低いために、重い荷物でも楽に積み込めそうです。

 

さらに、カングーの美点でもある観音開きのダブルバックドア。左右のドアは右が小さく、左が大きく左右非対称となっており、片方ずつ開いて荷物の出し入れができるのです。ドアの開閉は90度まで開き、必要ならロックを外すことで180度のフルオープンにすることもできます。状況に応じてさまざまなスタイルでドアの開閉ができるのは、いざというときに役立つでしょう。

 

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エンジンは2モデル用意。ガソリンモデルは走りが軽やかで、乗り心地も◎

最後に、新型カングーの走りを検証したいと思います。エンジンは従来の1.2リッターから1.3リッターへ排気量アップしたガソリンターボを搭載しています。インテンスではほかに1.5リッターのディーゼルターボも選択可能。トランスミッションはどちらも湿式7速となったデュアルクラッチを備えるEDC(エフィシエントデュアルクラッチ)を採用。従来の乾式6速より機能面も耐久性も大幅にアップしたということです。

↑1.3L直4・ガソリンターボエンジンは最高出力96kW(131ps)/5000rpmを発揮する

 

ガソリンである試乗車は、想像以上に軽やかに発進し、そのまま滑らかに加速。ボディが大きくなったことなど、まるで感じさせない余裕を体感できます。高速域に入っても力不足を感じることはなく、安定した走りっぷりです。これなら定員乗車してたっぷり荷物を積んでも不満は感じないでしょう。

↑試乗したのはガソリン車。軽やかに発進し、そのまま滑らかに加速していく様はスムーズそのものだった

 

なかでも感心したのが市街地での走行フィールで、加減速が滑らかであるためにギクシャクする様子などまったく見せません。コーナリング中のロールもしっかりと抑えられており、これなら同乗者にも歓迎されるでしょう。

 

乗り心地も大幅に向上しました。これまでは道路の継ぎ目などをしっかり拾っていたものですが、新型ではそれを上手にいなしてくれ、高速走行時の安定した走りとも相まって格段に乗り心地がレベルアップしたことを実感させてくれます。静粛性も十分に高く、全ガラスの厚みを増したこともあり、同乗者の音声も1割ほど聞きやすくなったということです。そのためか、運転中は生い立ちが商用車であることなどすっかり忘れてしまうほど快適に走ることができました。

↑道路の継ぎ目も上手にいなすことで乗り心地は大幅に向上した。写真は.3Lガソリンターボエンジンを搭載したインテンス

 

素晴らしい仕上がりを見せた、ACCなどの先進安全装備

また、さまざまな先進安全装備の搭載も見逃せないポイントです。

 

アダプティブクルーズコントロール(ACC)とレーンセンタリングアシストを組み合わせることで、ステアリングに手を添えているだけで高速道路のコーナーを曲がっていってくれます。渋滞で停止しても電動パーキングブレーキが停止を自動的にホールド。再発進はクルコンのスイッチを押すか、アクセルを軽く踏むだけで設定はすぐに復帰されます。この一連の使いやすさはカングー初の装備とは思えない素晴らしい仕上がりでした。

↑多彩な運転アシストによりロングドライブをしっかりサポート。ACC制御も自然で違和感を覚えることはほとんどなかった

 

↑新たに搭載されたブラインドスポットモニター。隣接する車線に車両がいるとミラーでその存在を知らせてくれる

 

今回はディーゼル車の試乗は間に合いませんでしたが、低速域の力強さはガソリン車を上回るものがあると聞いています。ディーゼルということでノイズこそ高まる可能性はありますが、長距離を走ることが多い人ならこちらの選択を考えても良いのではないでしょうか。

 

とはいえ、前述したようにガソリン車でも走りで不満は感じません。新型は今までのカングーに愛着がある人も、乗用車的な使い方をしたかった人にとっても満足度が高い選択となることを実感した次第です。

 

SPEC【ルノー カングー インテンス(ガソリン)】●全長×全幅×全高:4490×1860×1810mm●車両重量:1560㎏●パワーユニット:1333Lターボチャージャー付き筒内直接噴射 直列4気筒 DOHC16バルブ●最高出力:131PS/5000rpm●最大トルク:240Nm/1600rpm●WLTCモード燃費:15.3km/L

 

撮影/松川 忍

 

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