先週、病院の敷地内で高齢者が運転するクルマが歩行者をはね死亡させる事故が相次いだ。いずれもオートマチック車のセレクターをDレンジに入れたまま、駐車場の料金を支払おうとして姿勢が崩れ、ブレーキペダルとアクセルペダルを踏み間違えてしまったことが原因だという。
筆者が駐車料金を支払う際は、オートマチック車では必ずPレンジに入れ、パーキングブレーキを引くことにしている。こうした操作を怠ったことが重大事故を引き起こしてしまったわけだが、それ以外の場面でもペダル踏み間違いによる事故はあとを断たない。
この2件の事故を機に、日本では再び、高齢者ドライバーの安全性について議論が高まっている。そんな最中、自動運転の研究を早くから進めてきたIT企業DeNAが、秋田県の過疎地域の公道で12人乗りの無人運転バスを走らせる実証実験を行った。ソフトバンクグループのSBドライブも、自動運転の小型バスを走らせる実証事業を始めると表明した。
高齢者にステアリングを握るなと言うのは簡単だ。しかし公共交通が発達している東京23区ならともかく、地方はクルマがない生活が成り立たない地域が多い。その対策として、DeNAなどでは自動運転バスによる地域輸送を考えているのだ。しかしながら、すべての高齢者が自動運転バスやタクシーで移動できるようになるまでには時間がかかる。高齢者のペダル踏み間違い事故増加は喫緊の課題であり、自動運転が実用化されるまで待っているわけにはいかない。
■アクセルとブレーキが似たような形状で左右に並んでいる危険性
ではどうすべきか。筆者はペダルを2つからひとつに減らしてはどうかと考えている。クルマはもともと、マニュアルトランスミッションが一般的だった。 アクセル、ブレーキ、クラッチの3つのペダルがあり、 アクセルとクラッチをうまく連携操作しないと発進できなかった。だからマニュアル車では踏み間違い事故は基本的に起こらない。ゆえに高齢者にはマニュアル車の運転のみを許可してはどうかという声も聞かれる。それも一理ある。でもオートマチック車に慣れてしまった人たちが乗れる、より安全なクルマを考えても良いかもしれない。
そこで思い出したのが、世界初の量産車であり、世界初のオートマチック車とも言われるフォードT型だ。T型もまた3つのペダルを持つが、その内容はブレーキ、リバース、そして前進2段変速だった。アクセルはステアリングから生えたレバーだった。
昨今のペダル踏み間違い事故は、マニュアル車をオートマチック車に変える際に、単純にクラッチペダルを取り去り、2ペダルとしてしまったことに問題があると考えている。片や加速、片や減速という、まったく異なる機能を司る操作系が、似たような形状で左右に並んでいるというのは、他の乗り物では考えられないことだ。ブレーキペダルを踏むという動作は何よりも大事なのでそのまま残し、アクセルをT型などのように、ペダルではなくレバーに変えて、手で操るようにすれば、両者の操作を間違えることはなくなるはずである。
いまさら新しい運転方法など覚えられないという高齢者がいるかもしれない。しかしT型が約1500万台という、単一車種で世界第2位の生産台数を記録できた理由のひとつにイージードライブがあったというから、難しいとは言えない。この運転方法に慣れることができない人は、マニュアル車に乗るか、申し訳ないが運転を諦めてもらったほうが良いだろう。
とにかくこのままでは、スマートフォン見ながら運転とペダル踏み間違いによって、昨年15年ぶりに増加した交通事故死者数が、さらに増えていく可能性もある。いまある知恵と技術でより安全なクルマを提供しなければいけない時期にきていると考えている。
【著者プロフィール】
森口将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・講演などで発表するとともに、モビリティ問題解決のリサーチやコンサルティングも担当。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本デザイン機構理事、日本自動車ジャーナリスト協会・日仏メディア交流協会・日本福祉のまちづくり学会会員。著書に『パリ流環境社会への挑戦(鹿島出版会)』『富山から拡がる交通革命(交通新聞社)』『これでいいのか東京の交通(モビリシティ)』など。
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