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2018/7/15 21:00

一見、イロモノ製品と思いきや、違った。フランスのクラウドから生まれた「石畳のスピーカー」

フランスのクラウドファンディングプラットホーム 「KissKissBankBank」において32日間で159%を超える支持を得た、コンクリート・ファミリー社の「ル・パヴェ・パリジャン(Le Pavé Parisien)」。「パヴェ」には石畳に使われる”敷石”の意味がありますが、その名の通り、まるでパリの石畳から抜け出してきたかのようなキューブ状が特徴的なコンクリートでできたスピーカーです。このスピーカーが支持を得られた理由とは? その謎を解明していきます。

 

10cm角で1.3kg。小型ながらもハイスペックなスピーカー

ル・パヴェ・パリジャン(以下パヴェ・パリジャン)は、10cm角の大きさで、重量1.3kgの片手で持てるサイズのコンパクトスピーカー。小さいけど、その実力はなかなかのものです。

 

10cm角という大きさにもかかわらず、バランスの取れたパワフルで正確なサウンドを実現。これにはエンクロージャー(スピーカー周りの枠)として使われている、新世代の素材と呼ばれる「超高機能繊維コンクリート(以下UHPC)」に秘密があるようです。

 

UHPCは密で抵抗に強い素材で、オーディオスピーカーの素材には最適と言われています。エンクロージャーの材質が重ければ重いほど、また変形を最小限に抑えられることでインパルス応答に直接反映されるようになり、元の信号に近い音を返すことが可能になるのです。

音響以外の機能面も優れています。パヴェ・パリジャンは、スマートフォンとのペアリングが簡単にできるBluetoothや、エネルギー管理システム(EMS)を備えたリチウムイオンバッテリー(LiPo)を搭載。このバッテリーで6時間から8時間の再生ができるのです。

 

また、超高性能デジタルアンプ(20 WワットでRMS出力のD級アンプ)を搭載した同スピーカーは、スマホなどの充電器に搭載されているマイクロUSBの充電ケーブルを使用しています。このおかげで、世界中あらゆるところで充電可能。出入力用のミニジャックでステレオ機器と接続もできます。

 

スピーカーが劣化した場合は、エンクロージャーの枠から外して内側の部品を交換できます。修理サービスだけではなく拡張性もあり、外のコンクリート枠は残したまま、中のスピーカーをバージョンアップさせるなどのカスタマイズも可能となっています。

4兄弟によるスタートアップ企業「コンクリート・ファミリー」

パヴェ・パリジャンという製品名は、パリによくある石畳の敷石から着想を得たもの。日常的に目にするものにもっと注目してほしいとの思いから、パリ発のスタートアップ企業「コンクリート・ファミリー」創立者の4兄弟によって名付けられました。

 

「コンクリート・ファミリー」の「コンクリート」には、2つの意味があります。まずひとつは「素材」としてのコンクリート。もうひとつは、フランス人音響技師ピエール・シェフェールが提案した電子音楽のジャンルである「ミュージック・コンクレート(具体的な音楽)」へのオマージュでもあるのです。

 

ミュージック・コンクレートは、「音楽は音と時間の編成である」ことを考察した運動。通常の音楽が抽象的な構想を基に具体的な作品へと昇華することに対し、ミュージック・コンクレートは、日常的に聞いている音を抽象的な表現へと導くことを試みたもの。ミュージック・コンクレートの理念は、コンクリート・ファミリー社が持つ価値感のひとつでもあると言います。

ベルギーのモンスにある王立音楽アカデミーで電子音響学を研究しながら、コンクリートを使ったスピーカーに関する設計開発のアイデアを温めていたという創立者4兄弟の長兄であるピエール=アクセル。実の弟であり「コンクリート製カヌー」の研究をしていたエンジニアのスタニスラスとともに、実家の庭で製品開発を始めたのが同社創立のきっかけです。

 

最初の注文仕事はスイスの演劇カンパニーに依頼された、野外劇場に12個のオーディオスピーカーを設置するというもの。このスピーカーが機能的にも美観的にも屋外の劇場にマッチし、プロや専門家たちの厳しい要求へ見事に応えた形となりました。

 

クラウドファンディングを成功させた実績

クラウドファンディングでは、パヴェ・パリジャンの支援者先着100名に、希望販売価格350ユーロの40%オフ、つまり210ユーロで同製品を提供していました。260ユーロ以上の支援者には、ストリート・アーティストのペイントによるカスタマイズを頼むことができます。

 

支援は10ユーロから可能で、すべての支援者名は「コンクリート・ファミリー」社内の壁に名前が刻まれます。2018年4月に始まったクラウドファンディングでは先述した実績への評価も得られ、複数の企業から大口の寄付も集まり、約1か月間で目標金額の3万ユーロに達成。同年11月からの一般販売開始を目指しています。

 

音響学の世界において、コンクリートという素材は、ダイナミックなサウンドを正確に復元するのに適した材料として認識されています。1980年代には、重量が30kg以上もあるコンクリート製のスピーカーがすでに「LEEDH」というフランスのメーカーから開発されていました。同メーカーのファンでもあったコンクリート・ファミリー社の4兄弟は、コンクリートの特質を活かしながらもミニマルで軽量、高性能なスピーカーを仕立て上げたのです。