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2018/9/5 18:30

仏版「HEMS」が誕生! スタートアップが盛り上げるフランスの「環境プロダクト」

今年の夏は北半球の多くの国で猛暑を記録しました。この高温は気候変動(温暖化)の影響とされていますが、二酸化炭素の排出量の削減に向けて、フランスではスタートアップが様々なグリーンプロダクツを作っています。そこで本稿では、同国のクラウドファンディングで最近大きな注目を集めたテクノロジーをご紹介。フランス人の環境に対する意識や同国のエネルギー政策などの背景にも迫ります。

 

フランス人の環境意識

2017年にパリのマーケティングリサーチ会社オピニオンウェイが行った調査によると、72%の調査対象者が「大統領候補のエネルギー公約を投票時の考慮にする」と答えました。また「エネルギー問題を考慮しない」と回答したのは27%で、そのうち「まったく考慮しない」と答えたのは全体の6%だったとのことです。

 

エネルギー問題に関心を寄せる傾向は富裕層ほど高い傾向がありますが、フランスでは庶民層でも半数以上69%の回答者が、この問題について意識をしているということもわかっています。

 

また、関連して、毎年7月に開催されるツール・ド・フランスは、フランス人たちの環境に対する意識の高さ(と誇り)が表れていることが分かりました。フランス人は、レースだけでなく、自国の景観の美しさも大いに楽しんでいるのです(詳しくは「【ツール・ド・フランス】フランス人視聴者の半分はレースではなく、違うものも見ていた」)。

 

クラウドファンディングで目標金額の661%を集めたテクノロジー

そこで、いま注目を浴びている製品があります。その名も「エコジョコ」。これはフランス版「HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)」ともいうべきテクノロジーです。

 

エコジョコは、家庭の電気メーターに専用機器を取り付けるだけで、何にどれだけ電力を消費しているかを分析してくれます。これだけで25%の電力カットができると言われており、今後フランス人の生活に欠かせないアイテムとなるかもしれません。クラウドファンディングでは、10日足らずで600万円を超える支援を集めました(キャンペーンは目標金額の661%を獲得して終了)。

 

エコジョコの操作は非常に簡単。まず、家庭にあるブレーカーにセンサーを設置。この設置には特別な電気工事もいらず、購入者自身で簡単に取り付けられます。

 

そしてリビングなどに機器を置いておくと、消費電力量をワット数とユーロ(電気代)でリアルタイムに表示。このデータはスマホのアプリで細かく視覚化、各家庭における消費電力の改善点など、具体的なヒントもアドバイスしてくれます。このアドバイスをもとに、エネルギー消費の仕組みを理解し、節電への行動も可能になってくるのです。

フランスCNRS(国立科学センター)の研究によると、家庭の電力消費量は25%削減することが可能であるとのこと。 しかし、そのためにはエネルギー支出をリアルタイムで観察し、それに応じた節電行動を行わなくてはなりません。

 

25%削減すると、年間で約500ユーロ相当の電気代節約につながると言われています。この節電は10年や20年という長いスパンで考えると、壁の断熱やサーモスタット、または換気扇の取り付けなど、エネルギー対策工事から得られる結果と同じ。エコジョコなら簡単に始められて、そのうえ25%の節電も可能になります。

環境・エネルギー分野でイノベーションをリード?

エコジョコ誕生の大きな背景の1つは、フランスのエネルギー政策の変化。温暖化の原因とされる二酸化炭素の排出量を削減するために、同国は「Energy Transition(エネルギー供給体制の移行)」に取り組んでいます。かつて同国の電力は原子力に頼っていました。しかし、2011年の福島第一原子力発電所事故で原発を取り巻く環境が変わり、フランスも脱原子力にゆっくりシフト。原子力発電への依存を下げながら、風力や太陽、水力、地熱といった再生可能エネルギーの割合を増やそうと官民一体で取り組んでいます(最近では環境相が突然辞任し、温暖化政策への影響が懸念されますが)。2016年の電力の供給量割合は、原子力が72%、風力が4%と太陽光が2%ですが、フランス政府は2030年までに再生可能エネルギーの割合を40%にまで増やすことを目標に掲げています。

 

それと同時に、エネルギー業界ではデジタル革命も起きています。民間の大企業やスタートアップは、電気をよりスマートに使うことで節電するためのテクノロジーを次々に開発。政府も再生可能エネルギーに関するプロジェクトを積極的に生み出すために、クラウドファンディングを奨励したり、開発者に助成金を与えたり、R&Dに年間10億ユーロを投資したりするなどしています。このような背景のなかで、本製品も誕生したと言えるでしょう。

エコジョコ以外にも、フランスのスタートアップは様々な環境プロダクトを作っています。今年のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)では、スタートアップ向けのエリアのEureka Parkでアメリカに次ぎ最も多くの企業が出展して注目を集めましたが(アメリカは280社でフランスは274社)、そのなかの一社である「Lancey Energy Storage」はスマートな電気ヒーターを開発してイノベーションアワードを受賞しています。エコジョコをはじめ、フランス製の環境プロダクトが日本だけでなく、世界に広まるかもしれません。