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2020/5/8 18:30

有名シェフのレシピをSNS公開! イタリアが外出自粛生活で見せる「食文化」の底力

310日に始まったイタリア全土封鎖から2か月近くが経ちました。厳しいロックダウン(都市封鎖)は少し緩和されたものの、依然として国中で外出自粛生活が続いています。そんななかでイタリア人たちが勤しんでいるのが料理。行政が食材デリバリーのサポートに取り組むのをはじめ、一流シェフたちがSNSでレシピを発信したり、最前線で調理ボランティアとして活躍したりという動きも活発化しました。厳しい状況下にありながら“食”への情熱を持ち続けるイタリア人の逞しさを、現地からお伝えします。

 

自宅待機で料理のバリエーションが増えた

↑イタリア中で小麦粉をこねる現象が起きている

 

封鎖が宣言されても、イタリアはそれほど混乱に陥りませんでした。物流は止まっていないため、食べ物の確保は問題ないと首相も太鼓判を押したためです。

 

当初、イタリア北部を封鎖するという噂が流れたときにだけ、人々はトイレットペーパーやパスタを買うために奔走しました。その後は、スーパーや食料品店で入場制限をしているため列はできるものの、トイレットペーパーもパスタも問題なく購入できるのでパニックは起きていません。

 

唯一、欠品が続いているのが小麦粉です。家に閉じ込められて暇を持て余している人たちが小麦粉を使ってお菓子やピッツァを焼き始めたためで、パンやパスタを作るという強者も多いようです。小麦粉をはじめイースト菌や砂糖の消費も急上昇し、小麦粉にいたっては平常時に比べ8割増の売れ行きになっています。

 

こうして作られた料理の数々は、次々にFacebookやTwitterにアップされ、レシピの交換も活発に行われています。非常事態宣言下のイタリアであっても、身近に感染者がいない人たちは、料理をすることでストレスを解消したり精神の均衡を保ったりしているのかもしれません。

 

小麦粉やイースト菌が入手しにくいという状況から、とうもろこしの粉で作るパンや少なめのイースト菌でできるピッツァのレシピなどが、多くのレシピサイトで毎日のように紹介されています。

 

一方で、魚介類やフレッシュチーズ、野菜や果物など、鮮度が命の食材は消費が低下したという報告があります。筆者が住む地域では、毎週農家直営の市場が開催されていました。イタリア全土封鎖に伴い一時期は中断したのですが、人と人との間隔を一定に保つなどの条件をクリアし、現在は再開しています。

↑都市封鎖で一時中止になったマーケットも社会的距離を確保することなどを条件に再開している

 

人気のフードデリバリーを高齢者や感染者にも

これまでの平常時でも、イタリアの大手スーパーにはデリバリーサービスが存在していました。しかし、イタリア全土に外出制限がなされるとこのサービスもパンク状態になってしまい、オンライン予約しても配達は1か月後になるということも珍しくなくなりました。

 

そのため、筆者が住む人口2万人弱の小さな町は高齢者も多いことから、市がイニシアティブをとってフードデリバリーのサービスを展開。対象は高齢者家庭と、新型コロナウイルスが陽性となり自宅で療養中の家庭です。イタリア全土封鎖とともに同サービスに対応する店のリストが市民に公開され、市民保護局のボランティアが自宅まで運んでくれることになりました。

 

デリバリーサービスに対応しているのはスーパーばかりではありません。普段は青空市場に出店していた農家やパン屋も、宅配の広告をいっせいに出し始めました。

 

さらにローマやミラノの高名なレストランがケータリングを開始したのをはじめ、小麦粉やイーストが入手できない事情を考慮して「ピザ作りセット」を販売するピッツェリアも登場しています。また、イタリアでは大切な宗教行事である復活祭を控え、家族で祝うための料理を届けると宣伝するレストランも増えています。

 

イタリア人が日常的に消費するワインも、オンラインでの購入が急増しました。ただし、ワインの売れ筋も、来客用のブランド物から、家庭で消費する庶民的なタイプへと移行しています。

人気シェフたちがSNSでボランティア

↑人気シェフたちが家庭で気軽に楽しめるレシピを公開

 

新型コロナ蔓延後にイタリアで目立っているのは、自分のレストランを持ちメディアへの露出度も多い人気シェフたちの活躍です。現在本業のレストランは休業中のため、家にこもるイタリア人に向けて、それぞれのシェフがソーシャルメディアでレシピを公開し始めたのです。

 

グッチのレストランの料理を手掛けるマッシモ・ボットゥーラ氏は「外出制限中の料理レッスン」と銘打ち、シンプルで実践的なレシピをソーシャルメディアにアップしています。ミシュランの3つ星シェフらしい贅を尽くしたものではなく、家庭で気軽に楽しめる料理というところが好感を持たれているようです。

 

また、テレビ出演が多く名前を広く知られているアントニオ・カンナヴァッチュオーロ氏も同様に、高尚な料理ではなく、自身の幼少期にルーツがある家庭的な料理をソーシャルメディアで発信中。

 

ミシュランの星付きシェフのカルロ・クラッコ氏は、感染の被害が大きい北イタリアで医療の最前線で働く人々のために料理を提供しています。ミラノでは見本市会場を臨時の病院として改装しましたが、そこで働く工事従事者や病院関係者のために、レストランのスタッフとともにボランティアとして食事を作り続けているのです。

 

料理分野以外でも、イタリアを代表するブランド各社が新型コロナ撲滅のための取り組みに乗り出しています。ブルガリは香水の代わりに消毒液を、アルマーニは防護服をはじめとする医療関係製品を、フェラーリはボローニャの医療関係企業と協力して人工呼吸器を生産しています。

 

長期化した都市封鎖に疲れ切っているイタリア人にとって、料理をはじめ各分野においてメイド・イン・イタリーの底力を目の当たりすることは、前を向く勇気をもらえるきっかけになるのではないでしょうか?