焚き火が嫌いだという人に会ったことがない。夕闇のなかでチロチロと燃える炎を前に、人はいろいろな想いを馳せ、寡黙になって火を見つめる。そんな時間が人生には必要だと思うのなら、庭にファイヤープレイスを作ろう。都会じゃできない。里山暮らしの特権だ。
小さな焚き火の思い出
ファイヤープレイスというと懐かしい思い出がある。ずいぶん昔、若い人類学者とふたりで、東アフリカのサバンナの1本道を果てしなく歩いたことがある。疲れ果て、やがて荒野にポツンと棘の木が1本だけ立っている場所にたどり着き、ここでひと休みすることにした。小さな焚き火の跡があり、我らも石を集めて火床を作り、小枝を集めて、肉を焼いた。そのとき石の下に吸いかけのタバコを発見したのだ。
人類学者が言うには「これは数日前にここを通った人からのプレゼントだ」と。つまりそれは、厳しい自然を生きる旅人同士の連帯の挨拶だという。
我らは暮れゆく光のなかでその吸い殻に火をつけ、スワヒリ語の古い言い伝え「山と山は出会えないが人と人は出会える」(ミリマハイクタニ ラキニビナダムフクタナ)を地でいく体験を楽しんだ。小さな炎にまつわる、アフリカの旅の思い出だ。
そんな炎を庭で楽しむために、ファイヤープレイスを作りたい。アフリカでは3個並べた石の上にコッヘルを置き、小さな火をおこすだけだが、庭で灯りを楽しみ、暖を取り、焚き火料理をするなら、やはりある程度大きなファイヤープレイスを作りたい。
いろいろなパターンがある。石、レンガ、枕木、砂利、モルタルなどを組み合わせて、好みのデザインにすればいい。ここでは、たまたま実家の庭で池の代わりに使っていた、大きな古い鉄鍋を掘り出し、焚き火台として使ってみることにした。直径約90cm、深さ約40cm、4~5人が火を囲むにはちょうどいいサイズなのだ。
鉄鍋でファイヤープレイスを作った
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まず地面にくぼみを掘り、鉄鍋をどすんと置く。次に、周りに石(タフステンストーン)を置いた。鉄鍋だけよりも、このほうがデザイン的に落ち着くし、足置きや食器や食材などを置く場所にもなる。次にエキスパンドメタルを丸くカットし、鉄鍋のなかにはめた。すき間が下にでき、この上に置いた薪がよく燃える。まずは成功だ。
後日、雨が降った。雨を避け、屋根つきのデッキで焚き火ができないか?そこで目に入ったのが輪切りにしたドラム缶の残骸。これをデッキに運び、その上に鉄鍋を載せてみた。火を使わないときは板を載せてテーブルにもなりそうだ。これはいい。
夜、雨音を聞きながら、鉄鍋に小さな火をおこし、遠きアフリカを旅した日々を思い出す。どうやら焚き火は記憶を喚起する装置でもあるらしい。そういえば誰かが言っていたな。年を重ねたとき、語るべき旅がない人生なんてつまらない…。DIYer諸君、一度作る手を休めて、旅をしよう。
取材・文◎脇野修平
*掲載データは2016年6月時のものです。
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