人口が世界4位のインドネシアは、日本よりも学歴主義が強いといわれています。平均年齢が約29歳の同国では、将来を背負う子どもたちの教育に政府も力を入れており、国家予算の20%を教育関連に配分。一方、「教育は将来への投資」と考える親が多く、できるだけ良い学校に進学することが競争社会を生き抜く術と考えているのです。教育熱心なインドネシアの政策や子育て事情を紹介しましょう。
インドネシア版ゆとり教育?
インドネシアの学校制度は日本と同じで、義務教育である9年間の小学校と中学校を修了後、高校、大学といった高等教育へ進みます。しかし日本との大きな違いは、2019年まで小学校でも国による「全国統一試験」が卒業前に行われていたことで、各教科の基準点を下回ると卒業できないケースがありました。
ところが、インドネシア教育文化省は2020年2月、中期戦略計画の新ビジョンである「ムルデカ・ブラジャール」を発表。インドネシア語で「ムルデカ」は「自立」や「解放」、「ブラジャール」は「勉強」を意味しており、自由で自立した学びの実現に向けて教育制度を変えていくことを目指すとしました。
その柱の1つが、1981年から長期間にわたり実施されていた「全国統一試験」の廃止。1回の試験で卒業の可否を決めることについては以前から批判が多く、「子どもたちが卒業試験の合否を心配せずに楽しく学ぶ」「学校も独立性を保ちながら授業や学校運営を行う」という狙いからこの試験は撤廃されました。
「全国統一試験」は廃止されたものの、現在も多くの学校は小学1年生から学期ごとの定期試験を実施。そのため、就学前には読み書きや簡単な計算、英会話などの幼児教室に通わせ、就学後には学習塾や家庭教師を利用する家庭が目立ちます。
「学校外学習サービス」を積極利用
このような学校外の学習サービスには、インドネシア国内の企業だけでなく、公文教育研究会やベネッセコーポレーション、サカモトセミナー、立志舘ゼミナールなどの日本企業も参入しています。
費用については、例えば、公文は地域により価格が異なりますが、ジャワ島中部のジョグジャカルタ特別州では登録費が25万ルピア(約2125円※)です。一教科あたりの月謝が幼稚園生と小学生は36万ルピア(約3060円)、中学生と高校生は41万ルピア(約3485円)かかります。
※1ルピア=約0.0085円で換算(2022年12月23日現在)
ジョグジャカルタ特別州の平均月収は240万ルピア(約2万400円)なので、一般的な家庭にとって決して安い金額ではありません。それでも学校外学習サービスを利用する理由は、経済成長と人口増加が続く競争社会のインドネシアにおいて、「教育こそが我が子のより良い将来への一番の投資」と考えているからです。
コロナ禍以降はオンライン学習の需要が高まり、新たなサービスが次々と展開されています。2020年3月には学校が休校となり、子どもたちは自宅でオンライン学習や家庭学習をすることになりました。それに伴い、学校外学習についても自宅でオンラインを通じて受ける需要が増大したのです。
また、オンライン学習の浸透によって、それまで通えなかった遠くの教室の授業にも参加できるようになるなど、新たな選択肢が増加。オンライン学習はスタンダードな学習スタイルとして定着し、事業者にとっても大きな商機となりました。
地域間における経済格差と教育格差
インドネシアは日本の約5倍の国土に、2億7000万もの人々が暮らしています。ただ、人口の半数以上が首都ジャカルタのあるジャワ島に集中しているため、以前から地域間での経済格差や教育格差が課題として指摘されていました。そして、こういった格差は、コロナ禍を背景にさらに広がったのです。
オンライン学習を実施する学校に通い、インターネットに接続できるデバイスを保有する子どもと、そうでない子どもの間で、受けられる教育の機会と質の差が拡大。この格差を是正するために、政府も国営テレビ局と協力して学習番組を放送したり、自宅学習向けにスマホの学習アプリを無料利用できるようにしたりしました。スマホのデータ通信料についても、補助金を支給しています。
政府主導の「ムルデカ・ブラジャール」により「全国統一試験」はなくなりましたが、現在も小学1年生から学期末定期試験が実施されるなど、競争はいまだに厳しいと言えるでしょう。従来型の塾や家庭教師に加え、オンライン授業といったサービスは今後も増加すると思われ、インドネシアの教育熱はこれからも下がることはなさそうです。
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