薪ストーブで暖を取ることが小さいころからの夢だったけれど、既製品はとてもじゃないけど手が出せない…そんなときにネットでロケットストーブの存在を知ったTさん。これなら工夫次第で安く、かつ燃費のいい暖房を作ることができそうと製作にトライ!
とはいえ、Tさんはストーブに関しては素人。まずは屋外でロケットストーブ本体のみを試作し、何度も点火実験を実施。燃焼の具合や煙突の温度、各パーツの耐久性を調べ、その都度改良。都合5回の改良を経て、現在の形に落ち着いた。
そんなTさんのロケットストーブの特長は室内に長く延ばされた煙突。シングル煙突に黒い耐火塗料を塗ることにより、燃焼筒で生まれた熱を余すところなく、室内に取り込むことに成功している(後述の温度分布図参照)。
また「誰でも簡単に安く製作できる」をコンセプトにしたTさんのストーブは、部材をすべてホームセンターで調達可能。U字溝やステンレス煙突をはじめ、耐火セメント、パーライトなど、弊誌読者ならおなじみの材料で、低燃費の実用的なストーブを作ることができるのが魅力だ。
<T邸のストーブ構造図>*単位はmm
<DATA>
Tさん(31歳)/自営業/DIY歴…4年
製作費用…約6万円
製作期間…約2年
焚き口…Y字の送風ダクト
燃焼筒…耐火モルタルとパーライトを詰めたU字溝
メンテナンスの頻度…2カ月に一度、煙突を分解して掃除する
【ストーブ燃焼中の表面温度分布図】
ロケットストーブ本体
薪ストーブの本体は300℃まで温度が上がるが、Tさんの場合、ストーブ本体温度は120~130℃ほど。そのため、薪ストーブほどは壁との距離もあけず、がっちりした炉壁も取り付けていない。暖房のメインは煙突からの輻射熱となる。
室内の煙突
室内に延ばした煙突から排熱され、室内を暖める。温度分布を見ると、いかに薪の熱を利用できているかがわかる。またエアコンの送風を併用すると、より効率よく熱を足元まで届けることが可能だ。
気になるのは、自作のストーブを設置した際の事故や火災だが、Tさんの場合、ストーブ本体および、煙突の温度を入念にチェック。それに合わせて、炉床や炉壁を自作している。また消耗したストーブのパーツをチェックし、自分で交換するのはもちろんのこと、2カ月に一度は、煙突をオーバーホールしてメンテナンスすることも忘れない。自身でストーブ導入の基準を作り、常にチェックしているそうだ。
テストと運用を繰り返し、2年。今では冬に石油ストーブやエアコンを使うことはほとんどなし。ストーブの燃料は海岸から拾ってきた薪なので、暖房費が大幅にダウンしたとのこと。最初はロケットストーブ導入に反対していた奥さんも、冬になると「早くつけて」とせがむようになったとか。
「今ではエアコンをつけると、違和感を覚えるんです。ストーブは部屋が暖まる過程がきちんと見える。薪を拾って、着火して、部屋がじわじわと暖まってくる。“生活してる”って感じるんですよね」(Tさん)
煙突の壁出し口に外気導入口を取り付ける
ストーブは室内の空気を吸い込み、室外に排出するため、室内は負圧状態(室内側の気圧が外気より下がった状態)になりがち。室内に十分な給気ができない状態になると、最悪、煙突から煙の逆流が起こることも。そのため、Tさんのストーブでは、壁出し口にあえて径の大きい煙突を取り付け、外気導入口を作ることで、室内の負圧を解消している。
<煙突の壁出し構造図>
写真◎清水良太郎、製作者提供
*掲載データは2015年10月時のものです。