里山の自然薯(じねんじょ)掘りにハマって3年、すでに関東だけで500カ所のポイントを押さえているという自然薯掘り名人に出会った。つい、同行させていただけないかと頼んだのがいけなかったのか…?
今回は、房総の山林で経験した地獄のヤマイモ掘りの顛末。
自然薯とは?
山野に自生しているツル性のヤマイモ。栽培されているナガイモより細く、長い。葉は先が尖り、根元がハート形になっていて、夏には葉の付け根に花が咲き、葉のわきにムカゴができる。ナガイモよりも粘りがあり、トロロにすると美味。栽培されている自然薯も出回っているが、野生のものは珍重され、採集が難しいことから、価格も高い。
パソコンに500カ所、登録
今回の師匠、自然薯掘り名人を紹介したい。A・Kさん、64歳。電子回路設計の仕事に携わりながら、オフの日は神出鬼没に里山を駆け回るという野生の男だが、小学校のころから、真空管ラジオやワイヤレスマイクを組み立てていたという真正の理工系DIYerでもある。したがって、自然薯掘りのアプローチもやや理系。まずインターネットでグーグルマップとストリートビューを駆使し、自然薯ポイントのあたりをつける。後日、現場に行って確認し、自然薯の葉っぱや花、ツルなどを発見するとマーキングし、地中に持参の磁石を埋め込んでおく。次回ここに来たとき、コンパスが反応するので、迷うことはない。こうして確認した自然薯ポイントは、現在500カ所。ツルの太さを見て、それぞれ「ちょい大物」「かなり大物」「大物」と分類して自身のパソコンに登録している。
今回、出かけたのはそんなポイントのひとつ。場所はいえないが、房総の住宅地の裏手に広がる人けのない山林。もちろん土地オーナーの許可を取って入り込んだ。同行したのは名人とその友人親子。それに私の4人。全員、長靴に作業服、手袋に首タオルという〝闘う自然薯ファッション〟だ。
ちょっと触るとすぐポッキリ
場に着いて広げたのは、名人手作りの自然薯スコップ。柄が分割式で、穴の深さに応じて、長さを調整できるし、先端部もいろいろあって、状況によって使い分ける。これを使って、いよいよ地面を掘り下げる。自然薯は大きなものだと地下1.5~2m以上に達する。これを折らないように掘り下げるわけで、自然薯の位置を見当しつつ、周りの土を取り除く。つまり2m近く掘るのだが、これだけでかなりの体力を消耗する。
ツール
磁石&コンパス
自転車
自転車の荷台には…
斜面で足場を確保する苦しい姿勢で、穴倉に顔を突っ込み、わけのわからない根や地中の茎を鎌でぶったぎり、指を伸ばして手を差し込み、曲りくねって伸びている自然薯を探るのだが、ちょっと触るとすぐ折れる。ミスを連発し、ポッキリと折れて4分割になった自然薯を手に、「採れた…」とよろよろと立ち上がったのは、穴掘りを始めてから2時間後だったが、私の頭の上で、「次、いきましょか…」の声が…。
その「次」がすごかった。今度は平地だったが、視界ほぼゼロの藪の中での穴掘りが続く。ここでも名人の手ほどきを受けながら、2m近く穴を掘るが、自然薯の先端が出てくるまで、ひたすら忍の一字。穴の入口にマグライトを吊るし、穴の中を照らしながら、ほぼ垂直に穴を掘る。穴の径が細くて、思うように土が持ち出せない。疲れ果て、手が震え、息が切れ、腹が減り、腰が立たず、もうダメ!と叫ぶ寸前、約1時間半後、ついに作業の終わりを示す自然薯の先端を捉えたのだった。
最後に名人にマジでいわれたことを伝えておこう。
私有地で掘るときは、必ず許可を取ること。また、現場を立ち去るときは、必ず穴を埋め戻しておくこと。そのとき、そこで根づくように自然薯の先端部分を埋めておくこと。あなたが自然薯掘りに挑戦するときは、この3つは守ってほしい。
取材・文◎脇野修平
*掲載データは2017年4月時のものです。
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