欧米諸国では傘だけでなくステッキを立てかける場所としても使われていたそう。柱と前板・背板にデザインカット、底板はモールディングビットで飾り面取りを施し、ヴィンテージ感を演出した収納家具で玄関をおしゃれに彩ろう。
村上英敏 Hidetoshi Murakami 正統派パイン家具にこだわる家具職人。アメリカで家具作りを学んだ経験から、さまざまな工具を合理的に活用する技術は折り紙つき。千葉県柏市にオーダー家具ショップ「ポプリローカルファニチャー」を構える。トライトンスーパーマイスターとして、さまざまなイベントでトライトン製品の講習も行なっている。YouTubeチャンネル「Triton Super Meister村上英敏の家具作り教室」でプロのテクニックを発信中! https://www.popurri.co.jp/
ポイントとなるトリマー&ルーターテクニックはこの3つ!
今回は、アパートやマンションなどの狭小玄関でも使いやすいようにスリムなサイズ感で製作。通常の長傘なら、一列に約6本立てられる。手持ちの傘の数や、玄関の空きスペースなど住環境に合わせて設計してほしい。
前板・背板と幕板の接合は20番のビスケット、柱と幕板の接合には0番のビスケットを使用した。ただ、幕板の幅は60mmと、ビスケットを入れるための溝彫りを行なうにはギリギリのサイズで、精細な作業が求められるため、ビスケットジョイナーの扱いに慣れていない場合はダボ継ぎで接合してもいいだろう。
底板、脚の固定は裏側から28mmビスで行なった。なお、今回は補強材には端材を使用したので、最低限必要な長さで細かく木取りしたが、脚の内側全周に行き渡るように長く木取りしてもOKだ。
また、底板の上に置く受け皿(水受け)は、2種類の工作材を瞬間接着剤で組み立てて製作。メンテナンス性を考えて本体には固定せず着脱式にし、中心にアイアン製の取っ手を取りつけて取り出しやすくしてある。今回は自作することにしたが、ちょうどいい大きさのトレーがあればそれで代用したり、トレーのサイズを基準にして設計してもいい。
<アンブレラスタンドの構造図> *単位はmm
<主な使用道具> テーブルソー、インパクトドライバー(ドライバービット、4mm径ドリルビット、皿取り錐つき2.8㎜径ドリルビット)、ビスケットジョイナー、トリマー、トリマー用平行定規、tritonオービタルサンダー(サンディングパッド100番/180番/240番)、スピンドルサンダー、9mm厚合板(テンプレート用)、サンドペーパー(180番)、耐水ペーパー(1500番)、メジャー、留めスコヤ、クランプ、ハタガネ、ノギス、直定規、筆、ウエス、ハケ
<その他の材料> ビスケット(0番/20番)、アイアン製取っ手、木工用接着剤、瞬間接着剤
<用意した塗料> 油性ステイン(ウォルナット)、水性ウレタン塗料(クリア)
<使用したトリマービット>
Step1 柱の加工
01-1 柱材を木取りしたら上部に溝を彫る。クラシカルラウンドビットをトリマーにセット。出幅は9mm、平行定規はビットの端から40mmに設定 01-2 なお、平行定規には真っすぐな角材や板材を取りつけて延長すると使い勝手がよくなる 02 クランプで押さえながら4本まとめて削る。ずれないようにゆっくり動かそう 03 1面を削り終えた 04 柱材を回転させながら繰り返し削る 05 全周を削り終えたらバリを取り除いておく 06 柱の頂点を丸くする。R9.0コロつきボーズ面3分ビットをトリマーにセット。ビットの出幅は刃のアール部分を基準に決める。材を回転させながら1個1個慎重に削ろう。材の幅が狭く、ベアリングを沿わせるのが難しいので、ビットはR6.0やR4.5など角度のゆるいものを使ってもいい 07 サンドペーパーなどでサンディングして表面を整えたら完了 08 幕板との接合部にビスケットジョイナーで溝を彫る。使用ビスケットは0番。高さは柱材の半分の14mmに設定。位置は後述の図を参照 09 R3.0コロつきボーズ面1分ビットで全体を飾り面取り。ビットの出幅は刃のアール部分を基準に決める。これで加工が完了
<ビスケットの溝、前板・背板と幕板の固定位置> *単位はmm
Step2 幕板、前板・背板の加工と組み立て
01-1 幕板の木取り後、木口の両側中心に墨つけし、ビスケットジョイナーで溝を彫る 01-2 。使用ビスケットは0番。高さは幕板材の半分の9mmに設定 02 前板・背板の加工用のテンプレートを作る。前板・背板と同じサイズの合板を用意し、雲形定規などで曲線を墨つけしたらジグソーで切り出す 03 前板・背板にテンプレートをあてがって墨線を引く 04 墨つけができた 05 先に前板・背板の中央にデザインの溝を彫る。6.4mm径U溝ビットをトリマーにセット。高さは3mm。平行定規の位置はビットの中心から42mmに設定 06 トリマーを上から下ろしてから…… 06-2 彫り進める。溝の長さは今回130mmにした(前板・背板の長さの1/3) 07 デザインの溝が彫れた。なお、穴をあけてしまうと強度的にもろくなるのでおすすめしない 08-1 手順03で引いた墨線よりも1mm程度大きめにジグソーでカットする 08-2 このぐらいカット 09 10mm径フラッシュトリムビットをトリマーにセット。ベアリングがテンプレートの側面に沿うように高さを合わせる 10 墨線の位置にテンプレートを固定し、テンプレートに沿ってトリマーで削る 11 切り口をサンディングして整える。今回はスピンドルサンダーを使用した 12 前板・背板の木口、幕板の木端にビスケットジョイナーで溝を彫る。使用ビスケットは20番。高さは材の半分の9mmに設定。位置は前述の図を参照 13 R3.0コロつきボーズ面1分ビットで全体を飾り面取り。ビットの出幅は刃のアール部分を基準に決める。材同士の接合部分は面取りしないでおくと、接合した際に段差が生じず、仕上がりが美しくなる 14 溝に木工用接着剤を入れ、ビスケット(20番)を埋めたら接合部に木工用接着剤を塗る 15 ビスケットを介して前板・背板と幕板を組む。当て木を挟んで上下両面からハタガネで圧着。はみ出た接着剤は拭き取っておこう
Step3 底板の加工
01-1 底板を木取りしたらモールディングビットで飾り面取りをする。刃の出幅は今回は9mmにした 01-2 木目と直交する木口を削るときは、材が欠けるのを防止するために削り終わりに端材をセットして先に削っておく 02-1 ビットのベアリングを材に沿わせながら、少しずつ削り進めよう 02-2 削り終えた 03 同様の手順で底板の全周を削る。なお、木目に沿って木端を削るときは欠ける心配がないので、手順01の作業は必要ない 04 削り終えた。少しずつゆっくりと削るようにすると角のエッジがきれいに出る
Step4 脚の加工と組み立て
01 脚材を木取りしたら、曲線カットのための墨線を引く。角のアール部分はマスキングテープの台紙を型にした 02-1 ジグソーでカットする。脚Eの直線部分は1mm程度大きめにカット 02-2 脚Fは墨線どおりにカット 03 真っすぐの合板をテンプレートとして使い、脚Eの直線部分を削って整える。Step2の手順09~10と同様に作業する 04 脚材の両端を45度にカット。今回はテーブルソーを使用した 05 補強材を木取りする。18mm角の材を長さ260mm、50mm、20mmにカットした 06-1 補強材に皿取り錐つきドリルビットで、底板固定用の下穴をあけておく。さらに同じ位置に4mm径ドリルビットで下穴をあける 06-2 下穴があいた 07-1 補強材と脚の接合面(45度カットした部分)に瞬間接着剤を塗って固定する 07-2 補強材は脚の上端から1mm程度下げた位置に固定するのがポイント。これにより、底板を裏側から固定する際、ビスで引き寄せられて底板がぴったり接合される 08 これで土台部分が完成。写真は裏面から見た様子
Step5 各部材の組み立てと塗装&受け皿の加工
01 各部材を水拭きしてサンディングする 02 ビスケット(0番)を介して前板・背板パネルと柱を組む。当て木を挟んで上下両面からハタガネで圧着 03 同様に前板・背板パネルと幕板Cを組む 04 組んだパネルを底板にあてがって取りつけ位置を決めて印をつけておく。位置は後述の図を参照 05 4mm径ドリルビットで底板に幕板との固定用の下穴をあける 06 下穴の位置に裏側から皿取り錐つきドリルビットで皿取りをする 07 この時点で各部材を油性ステインで塗装する。余分な塗料はウエスで拭き取る。今回は2回塗りした 08 塗料が乾いたら水性ウレタン塗料を塗る。乾いたら耐水ペーパー(1500番)で研磨し、水で薄めた水性ウレタン塗料で重ね塗りする。この作業を2回ほど繰り返す 09 底板、脚の順に固定する。下穴をあけた位置に28mmビスを打ち込む。脚の固定位置は後述の図を参照 10 受け皿を製作。6×60mmの板材、8mm角の細材を木取り表どおりにカットしたら、瞬間接着剤を使いクランプで圧着 11 取っ手固定用の下穴をあける 12 手順07~08と同様に塗装し、取っ手を取りつける。底板の上に載せたら完成
写真◎佐藤弘樹
*掲載データは2021年4月時のものです。