べべ、マリリン、オードリー、ナタリー、イングリッド…。かつて、銀幕をにぎわせた名女優たちの名前がつけられた5羽の雌鶏(メンドリ)たちが元気に庭を走り回っている。「かわいいでしょ…」と目を細めるのは里山新住民のログビルダー、Hさん。そんなHさんに教えてもらった鶏小屋の作り方。
ドゥーパ!のガーデンスタジオがある千葉県いすみ市には、都会からの移住者が多く住んでおり、DIY熱も実に高い。その中でもトップクラスのDIYerがHさん(70歳)だ。2年半かけ、独力で本格的な丸太小屋を自作し、さらに怒濤の勢いで物置、薪小屋、露天風呂などを建てた。先日、ふと気がつくと、いつ作ったのか、立派な鶏小屋ができていて、小屋の周りで若い雌鶏が走り回っていた。近づくと、一見コワモテのHさんが、猫なで声で「マリリンちゃん、おいで…」などとつぶやいているのだ。聞けば、3カ月前、ホームセンターで生後2日のヒヨコを5羽購入し、往年の名女優たちの名前をつけて溺愛中だという。両手に雌鶏を抱え、「だって、かわいいよ…」と、ニタニタと笑っているHさんを前に、「マ、タシカニ…」などと若干ヒキ気味に答えるしかないのだが、それにしても、ニワトリ愛に目覚めたログビルダーか…。間違っても「ツブして、鶏鍋にしますか!」などと言っちゃいけない。
でも確かに、全国の新・里山住人には、できればニワトリを飼ってみたいと思う方が相当いるんじゃないか。そんな気持ちもあって、さっそくHさんに鶏小屋の建て方を教えてもらった。この鶏小屋は、朝日があたるように東向きに建てられ、幅2300×奥行1200×最大高さ1500mm。
基本的な建て方は通常の物置や小屋と同じ。基礎石を並べ、根太を組み、柱や桁を組んでから、床、壁、垂木、屋根、金網、建具(ドアやニワトリの出入口)を作る。最後に小屋内部の寝床や止まり木、エサ箱などを作ってやる。最後に外まわりの塗装をしてもいい。
<Hさんの鶏小屋平面図>*単位はmm
外敵に備え、コーキング剤を使ってすき間をなくす
ポイントは、いくつかある。まず、イタチやハクビシン、ヘビなどの外敵の侵入を防ぐために絶対にすき間を作らないこと。骨組み(柱や桁)の接合部をすべて相欠きにしたのは、金網を張るときにぴったり張って、すき間ができないようにするためだ。金網もしっかりしたものを選びたい。イタチは金網を破って侵入することがあるし、壁の下の地面を掘って侵入してくることもある。ヘビは高いところも平気で上ってくるので、屋根の下地の垂木の間のすき間もコーキング剤などを使って、バッチリ塞ぐこと。
また、ニワトリは暑さに弱いので、風通しをよくすることもポイント。屋根はブリキやトタンではなく、断熱性の高いガルバリウム鋼板にしたのはそのためだ。
その他、小屋内部のレイアウトや設備。これは先ほどのイラストや後述の施工手順写真を見てもらえばわかるように、寝床と止まり木を用意してやればいい。
また、ニワトリ自身が自由に出入りするための出入口をドアとは別に用意した。ニワトリを自由に運動させることも大切だからだ。
購入した資材は、金網、ガルバリウム鋼板、コンパネ、基礎石くらいで、骨組みの木材の多くは、建築現場からもらってきたもの。鶏小屋は小さな構築物だし、こう作らねばならないというものではないから自由度も高い。廃材や端材をうまく利用するのも鶏小屋作りの醍醐味なのだ。
某日某朝。もうすぐ食べられる美味しい生みたて卵を楽しみに、今日もニワトリ愛を貫くHさんの朝が始まった。「べべちゃん、ご飯だよ…。オードリー、こっちこっち…」。
<Hさん流・鶏小屋の作り方>
文・写真◎脇野修平
*掲載データは2018年8月時のものです。
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