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外国人材雇用の「見えない抵抗」とは? 在留外国人支援の実態を聞いた

2022/5/31

現在、日本に住む在留外国人の数は288万人以上。しかしその中には、在留資格や日本語能力などの問題から仕事に就けず、なかなか支援を受けられていない人が多くいます。この課題に対してシャンティ国際ボランティア会では、2020年5月から国内で在留外国人や外国にルーツを持つ人々を支援する事業を開始しました。今回は同会の村松清玄氏に、事業の内容や、在留外国人が抱えている課題、そして外国人材を活用したいと考えている企業と連携していくためのアイデアなどをお聞きしました。

 

村松清玄氏●シャンティ国際ボランティア会職員。同会が2020年5月から始めた、在留外国人支援事業では計画立案、ファンドレイズなどを担当し、現在も事業全体の管理・運営を行っている。

 

さまざまな課題を抱える在留外国人一人一人に寄り添い、解決の道を探す

――シャンティ国際ボランティア会が在留外国人支援事業を始めたきっかけと、現在の取り組みについて教えてください。

 

村松 私たちはもともとアジアの国々を中心に、教育文化支援や緊急人道支援を行ってきました。しかし途上国で国際協力に取り組む中で、足元を見てみると、日本国内にいる外国人もさまざまな課題を抱えていることに気が付いたんです。そこで、私たちがこれまで培ってきた経験を活かし、国内の問題にも向き合っていこうと、2020年5月から在留外国人支援事業に取り組むことになりました。

まずは私たちが以前から注力していた「教育」「子ども」に焦点を当てた活動から始めようと、外国ルーツを持つ子どもたちの居場所づくり事業を始めました。具体的には、認定NPO法人「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」と連携し、日本でマイノリティとして暮らす外国ルーツの子どもたちが、肩肘張らずに過ごせる場をつくろうと取り組んでいます。事業を始めた時期がちょうどコロナ禍と重なってしまったこともあり、対面での実施はできていませんが、オンラインツールを使ってスタッフが考案したゲームをするなど、楽しみながら現在も交流を続けています。

そして2021年5月からは、豊島区に住む在留外国人を対象に、コロナ禍での緊急支援として休眠預金を活用し「包括的生活安定支援」も始めました。この取り組みでは、弁護士法人東京パブリック法律事務所、社会福祉法人豊島区民社会福祉協議会と連携しながら、食料配布や生活相談などを実施。日常の小さな困りごとから法的解決が必要な課題まで相談できる場をつくり、その後の支援につなげることで、在留外国人の生活基盤の底上げを図っています。

在留外国人の包括的生活安定支援事業の様子(c)Shanti Volunteer Association

――相談に来られる在留外国人の方は、具体的にどのような課題を抱えているのでしょうか?

 

村松 さまざまな相談を受けますが、最終的には仕事とお金に関する問題に集約されるという印象です。外国人労働者は「最後に雇われて最初に解雇される」ことが多く、仕事をなかなか得られないのが現状だと思います。そして、仕事が得られない理由は、日本語ができない、在留資格的にできる仕事が限られているなど、人によってさまざまです。また職に就いている人でも、非正規雇用や低賃金労働などの課題を抱えています。

こうした一人一人の課題に対応するべく、相談会では最初に弁護士や社会福祉協議会などの専門家が在留外国人に対してヒアリングを実施します。そこでまずは支援が必要かどうかを判断し、その後、取りまとめたヒアリング内容を確認しながら、どこでどのような支援が必要なのかをあらためて運営側で議論します。話し合いの後、法的解決が必要であれば弁護士、地域の生活相談的なことであれば社会福祉協議会が対応し、私たちで解決できない問題であれば相談先を探すなどして、個別支援を行っています。

 

――事業を実施してみて、在留外国人の方からはどのようなリアクションがありましたか?

 

村松 私たちの相談会に来る人は、そもそも「助けて」と言えない環境にいる人がとても多いんです。なかなか相談できる相手もいないし、誰に何を相談したらいいのかもわからない。そのため、「話を聞いてもらえる人がいる」ということに涙を流される方もいて、心の支えにもなっているのではと感じています。

(c)Shanti Volunteer Association

村松 そして私たちの支援の特徴の一つは、こちらからリーチアウトしていくということ。社会福祉協議会が持っている名簿を活用して案内を発送するなど、さまざまな方法で主体的に在留外国人にアプローチをしています。今後もただ機会を設定するだけでなく、こちらから手を差し伸べることを意識しながら、継続的に支援を行っていきたいと考えています。

 

さまざまな団体と連携するためには、事業を発信・継続することが大切

――在留外国人支援事業では、さまざまな団体と連携して取り組んでいますが、仲間を集めて巻き込んでいくために工夫されていることはありますか?

 

村松 実は今回の支援事業は、弁護士の方々や豊島区内の団体から声をかけていただいて始まったものなので、私たちは「巻き込まれた側」です。豊島区では民間の支援がかなり充実していて、地域の中で声を掛け合ったりしながら、取り組みの輪をどんどん広げようという雰囲気があるんですよね。専門性の高い団体同士が手を取り合って、“点”が“面”になっていくことで、支援の力が最大化できる仕組みができていると感じています。

その中でも、輪を広げていくために私が大切だと感じているのは、自分たちの取り組みを知ってもらうために積極的に発信していくこと。そして、事業を継続することも重要だと考えています。例えば在留外国人支援事業で相談会を単発で開催したとしても、すぐには行きづらかったり、最初は話しづらかったりすることもあると思うんです。しかし、回数を重ねていけば、相談に来る外国人の方々と関係性を築き、信頼を得ることができます。そうなれば事業自体も次第に大きくなっていき、さまざまな団体と連携することにもつながっていくと考えています。

 

――今後、在留外国人への支援を進めていく中で新たに取り組んでいきたいことや、連携したいと考えているところなどを教えてください。

 

村松 これまでも何度か実施したのですが、「在留資格」をテーマにしたイベントなどは、今後さらに力を入れていきたいと考えています。というのも、私たちのもとに相談に来る人の多くは、安定した在留資格を持っていません。新型コロナウイルスや母国のクーデターの影響で帰国困難者になり、何とか日本に居続けているという人がとても多いんです。そのため、安定した在留資格を取ってもらうために、サポートをする取り組みを始めています。

特定技能セミナーの様子(c)Shanti Volunteer Association

村松 例えば以前、在留資格に関連したイベントの一つとして実施したのが、「特定技能セミナー」です。このイベントではまず、在留資格の一つである「特定技能」についてあらためて説明し、資格を取得するための方法や、就職できる仕事の種類についてレクチャーしました。さらに、日本語試験の受け方や申請書の書き方などもコーディネーターたちが個々でサポートしました。今後は、資格取得のためのより実践的な支援を行っていく予定です。しかし、せっかく資格を取ることができても仕事に就けなければ意味がありません。そのため現在、企業と連携して就職につなげられるような取り組みができないか、模索をしているところです。

 

「根拠のない抵抗」を持つ人たちが、外国人と関わり、活動できる機会をつくっていきたい

――現在、日本では外国人を雇用したいと考えている企業も多いと思います。そのような企業と働きたい外国人材をうまく結び付けるためにはどうすれば良いでしょうか。

 

村松 例えば多くの企業が集まる場で、私たちの活動を紹介したり、現場の声を伝えたりする機会があればいいなと考えています。しかし実際にそのような場は前にもあったのですが、参加した企業の中にはあまり熱意が感じられないところもあって……。本気で外国人材を雇いたいと考える企業が集まる場、率直な意見を言い合える場が必要だと感じています。また、最近はCSRやSDGsの活動で、国際協力や社会課題に取り組む企業も多いため、そこが一つの入り口となればいいなとも感じています。

もちろん企業側も、自分たちに何らかのメリットがなければ外国人の雇用や活用を続けていくことはできません。そのため私たち支援団体側も、企業が本当に必要としているのは何かを考えていかなければと感じています。私たちの強みは、これまでの活動の中で多くの外国人と関わり、さまざまな情報を得てきたこと。この強みを、企業のニーズとうまくつなげていくような仕組みをつくっていきたいと思います。

 

――企業側が外国人を雇用する際に、どのようなことがハードルになっているのでしょうか?

 

村松 日本企業の中には、外国人に対して一歩身を引いてしまうような、根拠のない抵抗を抱いているところが多いと感じています。心理的な部分ですが、これが意外と馬鹿にできない大きな壁になっているのではないでしょうか。そのためまずは、モデルケースとして1人、2人雇ってみることが大切だと考えています。1人、2人と雇って、その人たちと実際に一緒に仕事をしていくことで、企業の中でも少しずつ理解が深まっていくはずです。

いずれにしても、これから日本の労働人口が減ることは目に見えています。そのため企業にとっても、早めに社内の文化をグローバルに変えていくことは、非常に重要です。外国人を雇用することをただ負担だと考えるのではなく、自分たちの働き方をより良くしたり、視野が広がったりするチャンスだと、ぜひポジティブに捉えてほしいと思います。

外国人に対する心理的なハードルを下げるためには、とにかく「知り合うこと」に尽きます。例えばネガティブな印象を抱いている国でも、実際に行ってみて現地の人と話すことで、イメージが変わることはよくありますよね。そのため私たちはこれからも、外国人と関われたり、一緒に活動できたりするような機会をつくっていきたいと考えています。そして、コロナ禍では難しいところもありますが、地域住民たちが対面で参加できるような活動も増やしていきたいです。外国人と知り合う機会を得て、まずは挨拶や雑談といった些細なコミュニケーションから始める。これがお互いを理解していくための第一歩になると思います。

 

 

シャンティは、子どもたちが厳しい環境の中でも安心して学べる機会をつくる活動を行っています。より多くの方に活動にご参加いただけるよう、さまざまな支援方法をご用意しています。シャンティと一緒に子どもたちの学びを支えてください。

「シャンティ国際ボランティア会」HP https://sva.or.jp/personal-donation/

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