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アフリカでもっとも有名な日本企業ビィ・フォア―ド社長が語る、アフリカビジネスの最前線

2022/6/13

アフリカで独自の物流ルートを構築し、ラストワンマイルの課題を解消

井上 知名度を上げ、事業を拡大させていったビィ・フォアードは、その後アフリカで独自の物流ルートを構築しました。これは他の会社にはなかなかできないことだと思うのですが、そもそもなぜ物流ルートをつくろうと思われたのでしょうか?

 

山川 もともと私たちの事業では、中古車を港まで運び、そこからはお客さんに引き取ってもらうというシステムが基本でした。しかし引き渡しまでにトラブルが起こることも多々あったんです。例えばあるとき、タンザニアのダルエスサラーム港に到着した車を、そこから2000キロ離れたザンビア共和国の首都・ルサカまで運ぼうとしたお客さんがいました。しかしその車のエンジンが壊れてしまい……。私たちで補償しようと思ったのですが、現地では手に入らず、日本から取り寄せることになりました。

その後、エンジンを日本からダルエスサラーム港まで船で運びましたが、かかった船賃は約9万円。これは想定内の金額でした。しかしダルエスサラーム港からルサカまで陸地で運ぶのに、なんと約85万円もかかることが分かったんです。2000キロ走るとなるとドライバーが2、3人必要でしょうし、帰り道は空荷になるので、コストが高くなることは理解できます。それでも日本で2000キロと言うと、せいぜい札幌から博多くらいまでの距離。4、5万程度で運べるはずです。アフリカではエンジン一基を運ぶのにとんでもないコストがかかると痛感し、アフリカで物流ルートがつくれたらと考えるようになりました。

 

井上 そこにビジネスチャンスがあると思われたのですね。

 

山川 はい。そしてもう一つ、南アフリカのエージェントからアフリカの物流網について話を聞いたこともきっかけになりました。その彼から、南アフリカの中ではキャリアカーで車を運べるけれど、国を出た瞬間から道が整備されていないため自走させなくてはならないという話を聞いたんです。同じ大陸でも国によってインフラの整備状況は異なり、アフリカ全体の物流網はまだまだ弱いとあらためて感じました。例えば南アフリカ、ケニアはいろいろなモノが手に入ったり、生活していく上でのサービスも充実している、だけど、ちょっと隣の国に行ってモノを運ぶだけでも不便でしょうがない。こうした背景もあって、物流ルートを構築していこうと決意しました。

 

井上 アフリカは貿易港がない内陸国も多いですし、そういった国に陸送するルートは当時整備されていなかったと思います。インフラだけでなく、ドライバーの質や、通関の煩雑さといった課題もあると思うので、1つひとつ物流ルートを開拓していくのは苦労の連続だったんじゃないでしょうか。

 

山川 苦労に鈍感みたいであまり感じませんでした。ただ毎日何かしらトラブルは起きました。それもあって慣れっこになっています(笑)。

 

井上 アフリカでは事業拡大に苦戦している会社も多いイメージがあります。ビィ・フォア―ドのように事業をスケールする上で、成功のポイントはあったのでしょうか。

 

山川 やっぱりお客さんが欲しているかどうかじゃないですかね。それぞれの会社も需要があると思って起業していると思いますので。リスクを取ってというような経営をしているつもりはありません。ただ事業計画を立ててからとやっているうちに他社に取られてしまいますからスピード重視ではあります。

雇用につながるビジネスという考えに大きく同意

 

信用できる現地エージェントと共に、さらなる事業拡大を目指す

井上 途上国ビジネスにおいては、現地のパートナー選びも非常に重要なことだと思います。信頼できる会社をエージェントとして選ぶために、山川社長が意識されていることを教えてください。

 

山川 私たちの場合は、通関業務ができる会社、つまり国から許可をもらっている会社を基本的にはエージェントにしているため、その時点である程度は信用できる会社が集まります。もちろん、トラブルになることが全くないわけではありませんが……。その上で、私が大切だと考えているのは、その会社がお金を持っているかどうか。ビジネスの世界でお金は、信用度をはかる重要な判断基準です。さらに、ビジネスに対する真面目さも必要だと感じています。

 

井上 途中でエージェントを変えることもあるのでしょうか?

 

山川 もちろんありますよ。ビジネスですから、私たちもシビアに判断しています。例えばタンザニアには数社のエージェントがいるのですが、タンザニアにあるダルエスサラーム港には毎月5000~6000台の車を輸出しています。大手のエージェントには1000~2000台の通関をやってもらうのですが、1台につきいくらかの日銭が入るんです。現地の人たちにとってはそれが大きな収入になります。しかし例えば、ある会社に毎月500台の通関をお願いしていたとしても、その会社のサービスが悪く、お客さんからクレームなどを受けたりすると、「サービスを向上させないと、300台に減らします」などと交渉することもあります。

 

井上 「ビィ・フォアードがいないと経営が成り立たない」という状況だからこそ、そのような交渉をすることができるんですね。現地で雇用を生んでいるところも、ビィ・フォアードのすごいところです。途上国での雇用創出は、社会貢献としてとても大きなことだと思います。

 

山川 彼らに給料をきちんと払えるか、彼らの家族をちゃんと養えるかというのは重要だと思います。それによってタンザニアでもビィ・フォア―ドへの就職がかなり人気だと聞きます。

 

井上  SDGsでは17の目標が設定されていますが、現金がないことが原因となっている課題は多いです。給料を支払えば、貧困削減につながるだけでなく、そのお金が教育や医療などにも使われるでしょうし、国の発展に大きく寄与していると思います。

雇用を生み出すといえば、現在は事業として「車のパーツ」の越境ECをされていますね。

 

山川 これまでとは違うビジネスモデルをつくれたこともあり、パーツ販売事業は今、売り上げが毎月10パーセントずつ伸びる勢いです。なぜ日本の中古車とそのパーツが人気かというと、とても高品質なうえ、日本は国土が狭い上に鉄道なども発達しているので、そこまでの長距離を走っている車は少なく、道路も整備されているので傷みにくい。さらに車検制度もあるため、修理や整備もきちんとなされています。

高品質な日本の中古車パーツはアフリカでも人気があり、これまでにも日本からパーツを輸出するビジネスは行われていました。その一つが、日本に住む外国人などが、日本の中古車パーツをコンテナに雑多に詰めてアフリカへ輸出するというBtoBのビジネスです。そうしたパーツは現地の小売商が仕入れますが、実際に販売されるのは小規模な店舗がほとんど。どこにどのような部品が置いてあるのかが分からず、なかなか目当ての部品を探すことができませんでした。それに対して私たちは、お客さんたちが欲しい商品を自分で探して購入することができる、300万点以上の部品を扱うECサイトになります。しかも商品は、私たちがこれまで自社で築いてきた輸送ルートを使うことで、低コストでお客さんの元に届けることが可能です。さらにタンザニアでは、書類などをお客さんの家やオフィスに配達する「BE FORWARD EXPRESS」という事業も行っています。

2016年4月1日からタンザニアのダルエスサラームで「BE FORWARD EXPRESS」の運用を開始

 

井上 アフリカも都市部は渋滞がひどいですし、バイク便のようなサービスはニーズがありそうですね。今後、「物流」の強さや、アフリカとのネットワークをさらに活かして、新たに展開したいと考えている事業はありますか?

 

山川 2022年4月に、ケニアで中古車ファイナンス事業を手掛けているHAKKI AFRICA(ハッキアフリカ)と業務提携を行いました。これにより、車両価格の40%を頭金として支払えばビィ・フォアードから車が発送され、車を保有しながら返済を行うことが可能になりました。今後はケニアだけでなく、私たちが得意とするアフリカの他の地域でも取り組んでいきたいと思っています。

 

井上 消費意欲が高いアフリカですが、まとまったお金が用意できない人も多いので、ローン返済ができるようになると顧客はさらに増えそうですね。

「BE FORWARD EXPRESS」や「HAKKI AFRICAと業務提携」といった新規事業も積極的に進めている

 

(次ページへ続く)

 

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