現在、日本国内の配線器具分野などで大きなシェアを占めているパナソニック エレクトリックワークス社(以下、EW社)。その好調ぶりは国内だけでなく、ASEAN諸国をはじめとする海外にも波及しています。
EW社が注力している国のひとつがベトナムです。同国では、コロナ禍のなかでも人口増加が続いているため、国民の平均年齢が30歳程度と若く、ASEAN諸国のなかでも、継続的かつ大きな経済成長が見込まれています。それにあわせて、都市部では戸建て住宅やビルなどの新築着工件数が着々と増加しており、配線器具や換気送風機器、照明といった、建築に紐づく電材のニーズが急速に拡大中です。
ベトナムの住宅着工数(1000戸)
そんなベトナムにおいてEW社は、新工場建設などの大胆な展開を行うことをこの夏に発表。現地での展示会「Panasonic SMART LIFE SOLUTIONS 2022」も開催し、ベトナム国内のデベロッパーや工務店など、パートナーとなりうる企業を探っています。
EW社が着々と開拓を進めるベトナムの電材市場。ベトナムという国の独自性や、マーケットの現在と今後の可能性、そのなかでEW社がとっていく戦略について、現地法人であるパナソニック エレクトリックワークス ベトナム有限会社の社長・竹宇治一浩さんにお話を伺いました。
竹宇治一浩さん●2012年にパナソニック株式会社 エコソリューションズ社(現:エレクトリックワークス社)に配属。インドでの海外赴任経験後、2019年4月より現職(当時社名はパナソニック エコソリューションズ ベトナム社)。
ブレーカー、シーリングファンなどの商材で、ベトナム国内シェア1位を達成
EW社がベトナムに注力する最大の理由は、その高い経済成長の余地です。IMFが予測する同国のGDP成長率は、2022年で前年比6.0%、23年には7.2%、24年は7.0%と高い水準で安定。新型コロナウイルスが猛威を振るった2020年から2021年にかけては前年比2%台に成長が落ち込みましたが、その後はしっかり持ち直すという予測が出ています。ベトナム市場には成長国らしいニーズが溢れていると竹宇治さんは言います。
ベトナムの実質GDP成長率
「急速な都市化の進行、コロナ禍の影響などにより、ベトナム国内の建築市場にも多彩なニーズが発生してきました。具体的には、電化率の高まりを支えるより安心安全・高品質な配線器具、排気ガスによる大気汚染やウイルスへの対策をした快適で安全な空間を作る換気送風機器といったものです。EW社では、ブレーカーやコンセントなどの配線器具、換気扇などの換気送風機器、照明機材の3点の商材を通して、そういったニーズを満たし、ベトナム社会に貢献できるような事業を展開しています」(竹宇治さん)
EW社とベトナムの関係は古く、その歴史は1994年にまで遡ります。最初に扱った分野は配線器具で、その後2000年代にかけて、ポンプ、シーリングファン、換気扇、扇風機などの水・換気送風機器でもベトナム市場に進出。これらの分野ではすでに大きな成功を収めており、配線器具、ブレーカー、シーリングファン、換気扇、ポンプといった商材で、同国内シェアトップを達成しています。同社のベトナム国内での売上は、2007年から2020年にかけて約10倍に伸長しており、それらの商材が成長を牽引してきました。
一方で、2019年に遅れて参入したジャンルが照明機材。EW社では、参入したのが最近であることに加え、都市部の建築ラッシュなど急速に需要が高まっていることから市場開拓の余地が大きいと考え、この照明機材分野を今後最も成長が見込めるジャンルとして注力しています。
開発拠点をベトナムに置き、ローカライズを徹底
すでにベトナム市場で成功を収め、今後さらに勢いを拡大していこうとするEW社。成功の秘訣には、徹底したローカライズへのこだわりがありました。
「実は、ベトナムよりも先に、同じ東南アジアのタイに進出していて、ある程度、ASEANの方々の嗜好やニーズは掴めていました。そのため、配線器具の分野でベトナムに進出した際は、タイ市場からの水平展開を最初に行い、その後ローカライズを推進。とはいえ、これは進出当初の話で、現在はニーズをベトナム国内で吸い上げ、それを開発・生産に反映していくことに力を入れています。特に、配線器具・換気送風機器の分野では、ベトナム南部のビンズオン省で新工場を建設している最中です。2023年の生産開始を予定しているこの工場には開発部隊も配置する予定で、ベトナム市場オリジナルの製品を作れる体制を整えようとしています」(竹宇治さん)
このビンズオン新工場の特徴は、日本国内の工場と同様の生産ラインを導入しているという点です。これは、パナソニックグループの最大の強みである、高品質と高い供給力をベトナム市場でも活かすため。先述した通り、急速な発展が進むベトナムの都市部では、安全性の高い電材が大量に求められており、EW社が国内で培ってきた地力が、東南アジアの地でも活かされていることになります。
また竹宇治さんによれば、IAQの新工場では、中東など、その他アジアの国に輸出する製品の開発・製造も行うとのこと。ベトナムだけでなく、アジア・中東にシェアを広げるための拠点がまもなく誕生します。
一方で、これからの新規開拓が急がれる照明機材の分野では、現地メーカーとのOEM(委託生産)契約によって生産を行うとしています。これは、EW社がこれまで蓄積した製造技術やノウハウをパートナーとなるベトナム国内のサプライヤーに提供して、現地で自社生産のものと同品質の商品を製造するという方式です。
「配線器具・換気送風機器の分野は、いままさに多くの需要が発生しており、これを満たせるだけの供給体制を構築することが、メーカーとして最も大切なことだと考えています。新工場の建設に踏み切ったのは、それが理由です。一方で、照明機材はこれから成長していく・させていく分野なので、OEMで体制を整え、いずれは“地産地消”を目指していく、ということになります」(竹宇治さん)
OEMだと、ローカライズの質が落ちることはないのかと思われる読者もいるでしょう。EW社では、その質をしっかり担保するため、ベトナム現地に照明機材の研究開発を担うエンジニアリングセンターを開設。商品の生産こそOEMですが、その開発はしっかり自社の手で行っています。EW社の照明機材は、日本国内なら阪神甲子園球場や新国立競技場、ASEAN地域ではインドネシアの世界遺産・プランバナン寺院、マレーシアのイオンモール Nilaiなど、有名・大型施設への導入事例が多くあります。ベトナムでも、スポーツや景観、あるいはインフラなど、現場のニーズに沿った提案と商品開発をしていくため、開発拠点を現地に置くことにこだわっているというわけです。
困難も多いが、魅力あふれる市場
ベトナムという異国の地でビジネスを展開するのは、簡単なことばかりではないといいます。新工場の建設にあたっても、予測のできない苦労があったそうです。
「工場建設に関して、現地の政府の規制があるのですが、それがしょっちゅう、しかも急に変わるんです。なので、計画の練り直しを複数回行うことになり、工場の建設認可もなかなか取得できず、とても大変でした。そういった苦労はありますが、ベトナムという市場は魅力にあふれていると私は思います。単純に成長市場だというのはありますが、現地の人々はとても勤勉で、仕事熱心。それに、コロナ禍があって競合の海外企業にも撤退するところが出たため、いまはシェアを拡大するチャンスなんです」(竹宇治さん)
また、竹宇治さんの元で働くスタッフの安田 竜さんはこう語ります。
「私はインドネシアからの転勤でベトナムにきたのですが、この地には、日系企業がビジネスを展開しやすい土壌があると肌で感じています。まずは、食品、医療、リテールなどの分野で、多くの日系企業がすでに進出しているため、日本の製品に対する信頼感が元から高いということ。また、親日的な人が多く、現地の企業とパートナーシップを結ぶ際にも、信頼関係を構築しやすいように思います。ベトナム人の社員は、日本人に似て真面目で勤勉な人多く、その点でもやりやすいですね」(安田さん)
今後も継続した成長が見込まれる市場であるとともに、日本に対する信頼感の高さや勤勉な国民性など、日本企業が事業を展開する上でも非常に魅力あるベトナム。住宅設備関連事業はもちろん、さまざまな業種において、同国の経済発展をビジネス面でサポートするチャンスが今後も増えそうです。
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