人口削減が加速する日本社会で、外国人材は日本の重要な働き手となっています。 法制度のもとでは、外国人材を受け入れる体制が整わず、技能実習制度が実質的な労働力の2019年、この状況に変化が生じました。新たな在留資格「特定技能」制度が開始されたことにより、日本は労働力として外国人材を受け入れる方針に踏み切りました。
2021年度には100社以上の日本企業への採用支援を実施し、400名以上の外国人材の採用を支援している、PERSOL Global Workforceの代表取締役社長・多田盛弘氏に変革期にある日本の外国人材採用の最前線について、前後編にわたりお話を伺いました。日本の外国人材市場の変化をお話いただいた前半に続き、後編では多田社長が考える「受け入れる側の課題」などをうかがいました。
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外国人材を受け入れるために必要なこと
井上 特定技能制度では新たに、外国人材の転職が認められるようになりました。外国人材にとって職場を変える選択肢ができたことになりますが、受け入れ側の企業にとっては採用した人材が他社に取られてしまうというリスクと受け取れられるかもしれません。
多田 確かにそういった側面もありますが、転職できることが企業にとって難点となるかというと、必ずしもそうとはいえません。外国人材が転職を望む状況を見ると、職場の人間関係や、職場の環境に不満がある場合が多いことに気づきます。
こう説明すると、外国人材の離職を防ぐために、何か特別な対策が必要と思われるかもしれません。しかし、実際には外国人材が離職を考える理由の多くは、日本人の若手が離職する理由と共通しています。つまり、まずは従業員全体の満足度を高めるための工夫をするべきで、それが外国人材にとっても定着を促す工夫となります。外国人材が働きやすい職場なら、そこは日本人にとっても働きやすい職場だということです。
地域社会で受け入れるポイント
井上 ここからは、地域社会で外国人材を受け入れる上での課題についてうかがいます。現状では、地域や自治体によって、外国人材の受け入れ態勢に差があるのでしょうか。
多田 はい。全国各地の自治体とお話しする中で、熱意や真剣度に差があると感じています。受け入れに積極的なのは、人口減少が進んでいる地域です。そうした地域の方々は、日本人だけで地域社会を担っていくという現状は、持続的では無いという危機意識が強く、外国人材を地域社会の担い手として受け入れるべく、真剣に取り組まれています。
一方で、地域によっては外国人材に対する受け入れ準備が整っておらず、予算も専任の担当部署が存在しないという自治体もあります。当社としては、より幅広い地域において、地域社会の存続ためにも、外国人材と共生する必要性があると訴えていきたいと考えています。
井上 外国人材が働き手として増えていく中で、地域社会や自治体はどのような心がけが必要となるのでしょうか。
多田 考え方としては企業が外国人材を受け入れるのと変わりません。日本人が住み続けたいと思われる地域なら、外国人の受け入れもスムーズに進みやすいでしょう。ここで重要なのは、外国人材と地域住民の方と交流を持つことです。地域住民の方の中には、外国人が怖いとか、警戒されているという方もいらっしゃいます。
井上 外国人に馴染みがないし、彼らの考え方もよく知らないから怖いと。
多田 そうですね。未知のものに対する恐れには、知っていただくことが一番だと考えています。特定技能制度では外国人材が日本での生活を始める時に、市役所での手続きをサポートする機会があります。当社ではそのタイミングで、外国人材の方と一緒にご近所の方へご挨拶にうかがい、地域の方に知っていただく取り組みをしています。この他にも、地域のお祭りへ参加したり、小さな交流パーティーを開いたりといった取り組みを通して、外国人材と地域の方との交流を促しています。
井上 外国人と地域の人が顔見知りの中になることで、地域社会での共生がスムーズに進むということですね。宗教や生活習慣の違いから困難を抱えることはありますか。
多田 宗教が原因でトラブルになることは、実際にはほとんどありません。例えばイスラームでは豚肉食が禁じられているといった食文化の違いはありますが、生活圏に大きなスーパーがあれば食文化は問題になることはありません。
生活習慣の違いから生じるトラブルは、多くはありませんが存在します。例えば、外国人材の男性が上半身裸で道を出歩いていてしまったり、駅前のロータリーで複数人でしゃがんでしゃべっていたりといったように、母国と同じ感覚で行ってしまったことが、クレームとなったこともあります。
これらは彼らの母国では当たり前の習慣なので、悪気があってやっている訳ではないのですが、当人に対しては「そうした習慣は日本の文化では良くないことだよ」と説明して、理解してもらうことが重要です。
そしてまた、地域でトラブルがあったときには本人と一緒にご近所の方に謝罪にうかがうことも重要と考えています。これも小さな行いかもしれませんが、文化の違いから行ってしまったことだと、地域の方に知っていただくことが大事だと考えています。
文化の違いから生じる誤解は、大きな分断を生む可能性があります。そして、そうした誤解を解くためには、小さな交流を重ねていくことが重要です。多文化共生というと難しく聞こえますが、こうした小さな心がけから実っていくものなのではないかと思います。
井上 ありがとうございます。今回の対談を通して、日本がグローバル化する社会の中で、外国人材をどう受け入れて、持続的な成長に繋げていくかのヒントを得たように感じます。
日本人は「外国人だから特別な対応をしなくちゃ」を考えがちですが、実際には日本人と外国人で差を付ける意味はなく、真に重要なのは「人として真っ当に接する」ことであるように考えさせられました。
多田 そうですね。同意します。働くのがフィリピンの方だからフィリピンの方向けのマネジメントをやったとか、アフリカの方を考えてアフリカ人に向けたチーム形成をしたということはありません。人が働きやすく、モチベーションがわく環境は、万国共通のものですので。
「グローバル感覚がある」と聞いて、皆さん、英語が話せるとか、海外経験があるというのを思い浮かべると思います。ですが、そうではなく、諸外国の方たちと人間としてフラットに接することができるようになった時こそ、真にグローバル化したと言えるのではないでしょうか。
取材・文/石井 徹 撮影/ 映美