海外での業務やコンサルティング業務に興味はあるものの、転職にハードルを感じている人は少なくありません。しかし、たとえ経験がなくとも、自身の経験や知識を活かすことで、その力を発揮できる場はたくさんあります。今回はかねてからの夢を叶えるため、まさしく他業種から現在のコンサル業務へと転職した渕上雄貴さんにお話をうかがいました。
●渕上雄貴/大学・大学院で資源工学を学び、在学中にはガーナでマイクロファイナンスボランティアにも参加。卒業後、2015年から石油精製プラントやLNGプラント建設プロジェクトを請け負う企業に入社。2019年10月にアイ・シー・ネットへ転職。現在、コンサルティング事業本部スタッフとして、予算管理、財務経済分析、人材育成などのプロジェクト管理、調査・研究、評価などに関する開発コンサルティング業務を担当している。
夢だったアフリカでの仕事の機会を得るために転職
――はじめに、現職にいたるまでの経緯を教えてください。
渕上 私は、10代の頃から海外で働きたいという強い思いを持っていました。高校時代にOBの講演会があり、そこで、NPO法人をスーダンで立ち上げ、医療活動をされている方の話を聞いたのがきっかけでした。その方は元ラグビー部のOBでもあり、仲間たちを通じて資金を集め、知恵とお金でいくつもの難しい課題を解決していったという姿に感銘を受けたんです。また、そのお話を聞いた時、同時に、私もアフリカや途上国で仕事がしたいという思いが湧きました。
そうした夢を抱いたまま、大学では資源工学を学びました。いわゆる、ガスや石油、鉱物といった天然資源に関する学科で、その頃は環境にも興味を持っていたこともあり、石炭や石油の発電所の隣に二酸化炭素を地下に埋める施設を作ることでトータル的にクリーンなエネルギーを生み出す研究もしていました。
また、私が通っていた大学ではインドネシアなどでフィールドワークをする機会も多く、それが大学を選ぶ決め手にもなったのですが、実際に在学中には海外留学をし、インドネシアの金鉱山を訪れて金を採集する経験をしたり、反対に、大学にやって来るさまざまな国の留学生とも交流を深めていきました。卒業後も大学で学んだことを活かし、海外で石油・ガスプラントを建設する企業に入社。そこで約4年半働いたのち、現職のアイ・シー・ネットに転職しました。
――前職では具体的にどのようなお仕事をされていたのでしょう?
渕上 主にスケジュール管理です。プロジェクトマネジメント部という部署で、取引企業を相手にプロジェクトのスケジュール管理やプラント建設の進捗状況を毎週、毎月報告。さらには、設計部や調達部、工事下請け会社の督促などもおこなっていました。直接現場に赴くことも多く、新入社員の頃に3ヵ月ほどフィリピンに、カタールには半年ほど行き、現地の方と建設を進めていく経験もしました。
ただ、当初はフィリピンやインドネシア、モザンビークなどに積極的に進出していくという企業方針に惹かれて入社したのですが、2018〜19年頃にアメリカでガスが出はじめたんですね。そのことで会社の軸がアメリカに向いてしまい、私が望んでいた途上国での仕事はもう少し先延ばしになるとのことでしたので、2019年の秋に思い切って転職を決めました。
建設業からコンサルティング業務への転職でしたが、かねてより興味があったアフリカで働くことができそうだというのが、アイ・シー・ネットを選んだ大きな理由でした。また、アイ・シー・ネットがJICA(独立行政法人国際協力機構)のパートナーだったこともあり、途上国支援に関われる機会が多いこともアイ・シー・ネットを選んだ要因のひとつです。もともと、“まずはやってみないと分からない!”という性格なので(笑)、他業種への転職にハードルを感じることもありませんでしたね。
戦略的なアドバイスだけでなく、一緒に夢に向かって伴走していくこともやりがいに
――今は主にどのようなお仕事をされているのですか?
渕上 民間企業支援とJICAに関連した業務がちょうど半分ずつという感じです。民間企業支援は「飛びだせJapan!」のプロジェクトがメイン。これは、アフリカをはじめとする途上国でビジネスをしたいと考えている企業を支援していくというもので、業務内容は募集広告から書類選考、採択後の支援まで多岐にわたり、トータル的に企業とお付き合いをしながら、二人三脚で事業の実現に向けて活動しています。
また、私が現在担当しているのは南アフリカとウガンダになります。採用された企業の中から、どの企業を支援したいかは自分で決めることができたため、それだけにとても強いやりがいあります。ウガンダでは、どのようにビジネスを実施しているのかを、実際に現地に行って見たり、関係者へのヒアリングしたりして、ビジネスの今後の展望や、現地政府職員のそのビジネスへの期待の声などを聞くことができましたので、“まさしく自分がやりたいことがここにある”と感じました。
――一番の楽しさはどんなところでしょう?
渕上 やはり、アフリカでビジネスを立ち上げた方は熱意を持っていらっしゃる方が多いので、先ほどもお話ししたように、一緒に夢に向かって伴走している気持ちになれるところです。一般的にコンサルティングというと、データなどを元に戦略的なアドバイスを伝えていくような印象をお持ちの方が多いかと思います。でも、私がやっているのは、皆さんと常に同じ目線に立ち、可能な限り希望に叶う道をともに模索していくこと。人対人のコミュニケーションがとても重要になってくる。そこにいつもやりがいと楽しさを感じます。思えば、大学時代も前職でも、私は防火服を着て、ヘルメットを被り、図面を持って現場を歩き回る経験をよくしていたので、そうした作業が自分には合っているのかもしれません(笑)。それに、実現までの提案書や報告書をまとめるようなモノを書く作業も、前職の経験が強く活かされているように思いますね。
――JICAの業務についても教えていただけますか。
渕上 日本に来る外国人が年々増えていく中、JICAではビジネス人材の育成をはじめ、日本の自治体や企業と高度人材を連携させていくことを目的とした「日本人材開発センター(通称:日本センター)」を世界各国に設置しています。この日本センターをどう活かしていくかを調査するのが私の役割であり、2021年の春頃から携わっています。こちらは比較的新しいプロジェクトであることから、JICAにも、企業や自治体にもあまり知見がなく、そのため、ひとつひとつ湧き上がる問題に対応しながら、活動を進めています。また、近年のコロナ禍で、直接、海外の日本センターに状況を見に行くことができず、反対に今は海外からの人材の受け入れもストップしていますので、この環境下でできることも模索しているところです。
大切なのはコミュニケーションとコネクション
――現職に就いて2年が経ち、ご自身の中にどのような変化があったと感じていますか?
渕上 一番大きいのは、誰かをサポートする仕事が自分に向いていると気づけたことです。実は、自分もアフリカで起業してみたいと考えたことがありました。でも、企業を支援する側に立ち、皆さんの熱量を感じているうちに、どんどんとその思いが薄れていったんです。正直な話、お金儲けをしようと思うのなら、成長の度合いをみても東南アジアに目を向けたほうが収益は見込めます。しかし、あえてアフリカを選択している以上、そこには確固たる思いが皆さんの中にあるんですよね。それを近くで感じ、支援という形で携われていることが、自分にとって今は大きな喜びになっています。
また、そのために大事にしなければいけないのがコミュニケーションとコネクションだと感じています。相手が何を求めているのかを、会話をする中でしっかりと感じ取る。そうやって信頼関係を築き、それを積み重ねていけば、やがては大きなコネクションとなり、将来的に新たにアフリカでビジネスをしたいと考える方のための架け橋にもなれる。その意味でも、人との繋がりは大切にしていかなければいけないと、改めて強く思うようになりました。
――渕上さんのように他業種からコンサルティング業務に転職しようと思われている方は多いと思います。ご自身の経験から、どのような人が向いていると感じますか?
渕上 コンサルティングの仕事には論理的思考や戦略に長けた力も必要だと思いますが、今の私の業務でいえば、自ら動き回れるフットワークの軽さが求められているように思います。また、担当する企業もさまざまですので、広い視野でいろんなことを楽しめる方も向いているのではないでしょうか。とはいえ、コンサルの仕事に興味があれば、職種はあまり関係ないように感じます。私自身は学生時代に環境やエネルギーを学んできた人間ですので、担当する企業もその分野が多くなります。でも、なかには同じアフリカでも食品や保健医療、それに教育の知識や知恵を必要としている企業もたくさんあります。それに、バックグラウンドがさまざまな人材がアイ・シー・ネットに集まってくれれば、お互いに協力しあいながら、途上国の発展を早められるアイデアが生まれるかもしれません。実際に、私のまわりにも航空業界や法律事務所など、さまざまな業種の経歴を持つ方がたくさんいらっしゃいますので、まずは飛び込んできていただければと思います。
アフリカと日本企業との長期的なマッチングを目指す
――最後に、渕上さんの今後の展望を教えてください。
渕上 今、私が担当しているのはスタートアップ企業が多いんです。皆さんが求めているのは、戦略的なアドバイスというよりは、同じ目線でサポートをしてくれるコンサルだと感じています。私自身、一緒に現地に行って、ともに汗を流し、ともに喜びを得ることに幸せを感じていますので、そのスタンスは変わらず持ち続けていきたいですね。また、現在のJICAの業務をまっとうしつつ、アフリカ企業のクライアントの比率をもっと増やしていきたいと思っています。自分の興味関心の深い分野である環境やエネルギーを軸に、IoTを使ったソリューションにフォーカスしていけたらと考えています。そして、人との繋がりで得たコネクションで新しいビジネス展開を模索し、長期的にアフリカと日本の企業のマッチングしていく。それが今の私の目標ですね。
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