水資源が豊富にある日本にいるとあまりピンと来ないかもしれませんが、世界には水不足に悩む地域が少なくありません。その一つが、国土の9割以上を砂漠が占めるエジプト。同国では現在、空気から水を生み出す日本企業の技術を活用し、水資源を確保して効率的に利用しようとする試みが始まっています。
雨がほとんど降らないエジプトでは、飲み水や農業用の水源にナイル川が利用されています。しかしエジプトはナイル川の下流にあり、上流は他の国々が使用。さらに、ナイル川には住血吸虫や雑菌が混在しており、川に入ることは危険で、ミネラルウォーターを飲むことが推奨されています。そのためエジプトは、水資源を確保することが国の生存と繁栄のために不可欠と考えているのです。
そこで、同国が着目したのが、空気から水をつくる日本の技術。エジプトの軍事生産省は先日、日本のMIZUHA社と提携し、空気から水を生成する装置「空水(くうすい)」のプロトタイプを開発していることを発表しました。空水は、空気中に含まれる水分を結露させ、独自のイオン交換装置で殺菌し、カーボンフィルターで水質を調整して水を作り出すシステム。湿度さえあれば、地球のあらゆる場所で、安全な飲み水を作り出すことができるのです。
MIZUHA社では、エジプト国内の複数の場所で空水機の実証実験を実施。いずれの場所でも水の製造が確認され、飲み水に適する水質検査も通過したことから、2022年8月と11月にエジプト政府と空水の製造と開発に関して協定を締結。現在はエジプト国内向けに改良を重ねています。
同社のウェブサイトによると、空水が生産できる水は、気温25℃、湿度60%の条件で、1日16リットル。エジプトの水資源灌漑省によると、同国の水需要は1200億立方メートルで、そのうち最大55%(660億立方メートル)が不足していると言われており、空水だけで需要を全て満たすことができないのが現実です。しかし、水不足が深刻化するエジプトは、これまでの5か年計画で100億ドル(約1.3兆円※)以上を投資しており、空水に対する期待は高いと考えられます。
※1ドル=約134.7円で換算(2023年4月20日現在)
また、空気という豊かな資源をもとに飲料水を確保することができる空水は、土壌汚染などで井戸を使えないような途上国でも導入されている実績があります。そんな空水の導入は、エジプトにとって水の安全保障を強化し、持続可能な社会への移行を見据えた水利用の効率化を目指す計画の一環となっているのです。
エジプトの先には中東諸国での販売も検討していると見られる空水。空気から水を作るという画期的なシステムが、水不足に直面する国々を救う存在になっていく可能性を秘めています。
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