事例集
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2022/1/22 18:24

サトヤマの田畑を守れ!イノシシ撃退の手作り新兵器を発見!?/新、田舎暮らし派、注目!サトヤマ通信(6)

里山で、日夜繰り広げられている熾烈な闘い。それが獣害対策だ。なかでも対イノシシ戦がすごい! トタンやワイヤーメッシュを立て、電流を流した柵を張り巡らせる。しかし、それでもイノシシはやってくる。そこで立ち上がったのが、手作りの新兵器をひっさげたアイデアマンだった。カモン、イノシシ!ワシが相手じゃあ!

 

 

ひと工夫必要な防止柵

街の人にはピンと来ないかもしれないが、里山の獣害は深刻だ。とくにここ数年、西から東に向かって広がっているというイノシシの被害は甚大で、ドゥーパ!のガーデンスタジオのある千葉県の場合を見ても、農作物の被害額が約1億7000万円(2013年度、千葉県の農村環境整備課調べ)にものぼっている。千葉県の場合は、サルやシカ、ハクビシン、アライグマなどと比べて、イノシシの被害が飛び抜けて多いのだ。

原因はいろいろあるが、人口減少に伴う、里山の耕作放棄地が増えて、イノシシの生息圏が、餌が豊富にある里山に広がったことが大きいらしい。それに、狩猟人口(免許保持者)の激減が輪をかけた。

とにかく、イノシシをなんとかせにゃならん!というわけで、防止柵で田畑を囲ったり、ワナ(箱ワナやくくりワナ)をかけたり、イノシシの嫌がる臭いをばらまいたり(忌避剤散布)、涙ぐましい対抗策をとってきた。柵については、トタン板、ワイヤーメッシュ、ネット、有刺鉄線、電気柵など、さまざまなバリエーションがあるが、柵の周りの草むらを刈り取って視界をよくしたり、柵を高くしたり、柵の足元をジャンプしにくくしたりと、いろいろな工夫をする必要があるという。また、一番効果があるといわれる電気柵は、最近では太陽光パネルを利用したものがポピュラーになってきている。実際「電気柵をセットしてから被害がなくなった」という農業従事者の声も多く聞いた。

 

 

ワイヤーに触れると雷管が爆発……!

しかし「電気柵じゃあダメ!」と声をあげた人がいる。

Nさん(71歳、農園主)。13年前、それまで営んでいた自動車修理業を息子にまかせ、実家のあった今の土地に戻って、稲作を始めた。そこでイノシシ被害の洗礼を受ける。

「電気柵は万全じゃない。柵のそばにある下草や竹の子が伸びて電線に触れて漏電したり、イノシシが触れても効果がないことも多い」(Nさん)

電気柵とは、軽い電気ショックでイノシシを脅かして侵入を防ぐもので、100Vあるいは12Vバッテリーを電源とするパワーユニット(電気牧柵器)と接続した電線にイノシシが触れるとイノシシの体に電流が流れてイノシシを威嚇&撃退する仕掛け。ただし、電線に下草などが触れると漏電して効果が薄くなったり、電線にイノシシの毛深い部位が触れても効果がなかったり(鼻先に触れないとショックを与えにくい)、飛び上がった状態では(イノシシの足が地面に触れていない状態)通電しなかったりして、100%の撃退は難しいという。

 

太陽光発電による電気牧柵器を設置した電気柵。プラス端子を柵に、マイナス端子をアースして電流を流す。柵の周囲はイノシシが嫌がるように視界を広くするのが理想的

 

電線に笹や竹などが触れて漏電している状態。これはよく見かける

 

「これを作ってからイノシシが来なくなった」とNさん(市原市の自宅そばの畑で)

 

で、どうするのか。長年の自動車修理で得たメカの知識と溶接技術などを持っているNさんが、試行錯誤の末、行き着いたのが、鉄パイプや鉄板、スプリング、それに競技用の雷管(スポーツの競技会で使うスタート用の雷管)を使った「イノシシ撃退用爆発装置」だ(後述参照)。

細いワイヤーと連結させ、ワイヤーが引っ張られると撃鉄のストッパーが外れ、雷管が爆発する。ワイヤーを田畑の周囲に張り巡らし、ポイントにこの爆発装置をセットしておく。イノシシが中に入ろうとワイヤーに触れて動くと爆発する仕掛けだ。深閑とした田畑のなかで響き渡るものすごい音。爆発音は、運動会の徒競走を思い起こせばわかるはずだ。それに爆発後の火薬の臭いも獣は嫌がる。

 

雷管をセットし、畑にスタンバイしている状態。イノシシの侵入により、ワイヤーが引っ張られるとトリガー①が動き、続いてトリガー②のストッパー機能が外れ、筒のなかのスプリングが伸びて、撃鉄が雷管に当たる。スプリング①が伸びた状態でスタンバイしているので、ワイヤーのちょっとした動きでもトリガーが反応する

 

 

Nさんによれば、イノシシだけでなく、ハクビシンやカラスにも効くという。夕暮れ時、セットした装置が爆発するのを何度も聞いた。確かに、電気柵と比べて、シンプルで安価、効果もある。当然ほかの人にも使ってもらいたいから、商品化を考える。

Nさんは、昨年9月「鳥獣威嚇撃退装置」の実用新案を出願し、同11月に登録を終えている。溶接や金属加工の技術を持っている人なら手作りも可能だろうが、めんどうならNさんが準備中の「鳥獣威嚇撃退装置」の発売を待てばいい。商品名は「イノハイター」と命名するそうだが、どうせなら「シシオドシ」ならぬ「イノシシオドシ」にしてほしかった…(ダメかな)。

 

これが雷管(上)。「競技用紙雷管」として市販されている。これを木ネジの頭に当て、ビニールで包んで輪ゴムで固定する(下)。これをセットする

取材・文◎脇野修平/イラスト◎丸山孝広/取材協力◎いすみ環境と文化の里
参考文献◎「イノシシから田畑を守る」(江口祐輔著 農文協刊)

*掲載データは2014年4月時のものです。

 

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