人で知るSDGs ✕ ビジネス

途上国・新興国支援の新たな一手! 寄付型クラウドファンディングの可能性

2022/1/17

国際協力やSDGs達成に貢献できる手段として現在注目され始めている、寄付型クラウドファンディング。株式会社奇兵隊が新興国を中心にグローバルに展開する、「Airfunding」「Airfunding for NGO」もそのサービスの一つです。そこで今回は、同社の代表取締役・阿部遼介氏にインタビュー。会社設立の経緯やサービスの内容、寄付型クラウドファンディングの今後の可能性などについてお聞きしました。

 

阿部遼介/大学卒業後、アクセンチュア株式会社に入社。3年間、日本企業の新規事業立ち上げ支援、業務改革、BPO立ち上げ支援などのプロジェクトに従事した。その後2011年に株式会社奇兵隊の代表取締役に就任。以来、会社全体の事業戦略の策定、資金調達、採用及びサービスのマーケティング全般を担当している。

 

「海外の人々にあっと言わせるサービス」の提供を目指して、会社を設立

 

――株式会社奇兵隊を立ち上げた経緯について教えてください。

 

阿部 私は大学卒業後、3年にわたり日本企業のコンサルタントの仕事をしていました。その際に感じていたのが、海外で大きな売り上げを立てる日本の企業は、製造業以外ではまだまだ少ないということ。当時私と同じように考えていたのが、ベンチャーキャピタルで仕事をしていた和田(圭介/現・取締役会長)でした。もともと仕事仲間だった私たちは、2人で食事をした際に「海外で売り上げを立て、海外で使ってもらえるサービスをつくろう」と意気投合。最終的には、和田と同じ会社にいた村田(裕介/現・取締役)もメンバーに加わり、3人の共同創業という形で奇兵隊を立ち上げることになりました。

 

奇兵隊という社名は、幕末に長州藩士の高杉晋作が創設した「奇兵隊」からきています。身分を問わずに有志が集まって結成された軍隊「奇兵隊」は、当時の日本では“奇想天外”な組織だったはず。そこで「海外の人々をあっと言わせるようなサービスをつくりたい」という私たちの思いにも通ずるところがあると考え名付けました。

 

――創業当初はどのような事業を展開していたのでしょうか?

 

阿部 最初は海外向けのサービスをつくることしか決まっておらず、3人で話し合いながら具体的な事業内容を決めていきました。その結果スタートしたのが、海外向けのSNSアプリ「Airtripp」です。これは、写真や動画を通して世界の人々とつながったり、バーチャルギフトを贈り合ったりできるというもの。ユーザーの多くは東南アジアや南米の若者で、主に日本を含む東アジアやヨーロッパの人々とコミュニケーションを取ることを目的に利用されていました。

 

その中でユーザーからは、オンライン上でコミュニケーションを取るだけでなく、憧れている国に留学や旅行をしたいという声も上がっていました。そこで、そうしたユーザーの夢を応援するためのサービスとしてクラウドファンディング機能を導入したところ、予想以上に「Airtripp」内で資金が集まることがわかったんです。そこで、2018年からクラウドファンディング機能に特化したサービス「Airfunding」をスタートさせることになりました。現在の奇兵隊では「Airfunding」がメインの事業になっています。

――「Airtripp」や「Airfunding」など、グローバルなサービスを提供するにあたり、意識したことはありますか?

 

阿部 創業当初から「グローバルに耐えうる組織づくり」を意識していました。現在、32人ほどいるメンバーのうち3分の1は日本に、そのほかのメンバーは海外に住んでいます。その中には日本に住んでいる外国籍の人もいますし、海外に住んでいる日本人もいます。また、サービスのローカライズも意識していて、「Airtripp」「Airfunding」では17言語に対応しています。さらにさまざまな国から問い合わせがきても対応できるよう、英語だけではなく、中国語やヒンディー語、インドネシア語など、話者数が1億人以上いる言語については社内でカバーできるようにしています。

 

新興国向けの寄付型クラウドファンディングサービス「Airfunding」

 

――現在、奇兵隊が提供しているサービス「Airfunding」について、詳しく教えてください。

 

阿部 「Airfunding」は、一般の個人が、主に自身の身近な人たちから支援を集めることができる寄付型のクラウドファンディングサービスです。団体向けのサービスとは異なり個人が対象のため、プロジェクト数が非常に多く、一件当たりの支援額が少ないのが特徴です。2018年にサービスを開始して以来、約38万件のプロジェクトが立ち上げられてきました。

 

現在「Airfunding」のプロジェクトオーナーのうち約70%が、インドネシアやフィリピンなどの東南アジア、メキシコやコロンビアなどの中南米といった新興国の人々です。新興国ではいまだ健康保険などの制度が整っていない国も多く、ちょっとした病気でも年収と同じくらいの費用がかかってしまうケースも少なくありません。そのためプロジェクトの内容は、病気の治療費を集めることを目的としたものが半数ほどを占めています。そのほか、留学や災害支援を目的に資金を集めている人もいます。

 

また最近少しずつ増えているのが、「養鶏農場を拡大して雇用を創出したい」「孤児院の子どもたちにクリスマスプレゼントをあげたい」といった、SDGsに関連するようなプロジェクトです。新興国でも、自身の生活に余裕が生まれ、人のためになることをやろうと考える人が徐々に出てきていると感じています。個人的な目標ではない、社会貢献性の高いプロジェクトは、これからも増えていくと考えています。

――「Airfunding」のような個人の寄付型クラウドファンディングサービスのメリットや魅力はどのようなところにあるのでしょうか?

 

阿部「Airfunding」のようなサービスを利用することで、一般の個人であっても資金調達がしやすくなることはメリットの一つだと思います。何か困ったことがあってお金が必要なときに、周囲に直接支援をお願いするのはなかなかハードルが高いことですよね。実際、私たちのサービスを利用した人からも、「自然に支援をお願いできてありがたい」という声をよくいただいています。

 

「Airfunding」で資金を支援する90%以上の人は、そのプロジェクトオーナーの身近な人です。しかしその「身近な人」とは、単に仲の良い友人や毎日会うような人だけではありません。今は海外で働いている高校時代の友人や、2つ前の職場の人など、SNSでつながっているさまざまな人たちから支援してもらったという話を聞くことが多くあります。

 

また以前、心臓移植が必要な台湾の男の子が300人以上の支援者から200万円ほどの資金を集めたことがありました。それだけ資金を集められたのは、男の子の主治医がメディアに多数出演するインフルエンサーで、クラウドファンディングのことを知った彼が、自身のFacebookで支援を呼びかけたからでした。このようにSNSなどを通してより多くの人に声が届き、支援の輪が広がっていく。これは「Airfunding」のようなインターネットを使ったクラウドファンディングサービスならではの魅力だと感じています。

 

 海外NGOを応援するプログラムもスタート

 

――2021年4月からスタートした「Airfunding for NGO」についても教えてください。

 

阿部「Airfunding for NGO」は、世界各地で教育、医療、雇用など自国の課題のために活動する団体を支援する取り組みです。自国以外の人にも活動を知ってもらい、海外からの支援を獲得することを目指していて、私たち奇兵隊も一緒に寄付集めをサポートしています。

この取り組みを始めたのは、国連の関連組織IOM(国際移住機関)から話をいただいたことがきっかけでした。IOMでは、若者の60%以上が失業しているシエラレオネ共和国で、2000人の若者に対して職業訓練を行い、200人の起業支援を行おうと取り組んでいます。その起業家たちの資金調達の手段として、私たちのサービスが選ばれました。これを機にあらためて「Airfunding」で立ち上がっているプロジェクトを調べてみたところ、個人向けのサービスである「Airfunding」を利用して資金集めをしているNGOがほかにもあることがわかりました。そこで、海外NGO応援プログラムとして「Airfunding for NGO」を立ち上げることになったのです。

 

「Airfunding for NGO」の対象は、途上国や、新興国の農村部など貧しい地域で活動するNGOで、現在はシエラレオネのほか、ナイジェリア、コロンビア、ウガンダ、インドネシアの5つの団体をサポートしています。

今のところ「Airfunding for NGO」で寄付をしているのは主に日本の人々ですが、今後は日本でさらに認知度を高めながら、アメリカなどのドナーにもアプローチしていきたいと考えています。また、インターネットの会社である私たちならではの価値を創出しながら寄付金を集める方法も、今まさに模索しているところです。例えば、集まった資金で設立した学校に定点カメラを置いてライブ配信するなど、支援した寄付者と支援される側がインタラクティブに交流できるような体験づくりを考えていて、今後も試行錯誤を続けていくつもりです。

 

日本に適した寄付型クラウドファンディングサービスを考えていくことが大切

 

――今後、日本でも寄付型クラウドファンディングを広めていくためにはどうすればよいでしょうか

 

阿部 そもそも「寄付」に対する考え方は、宗教や文化によって大きく異なり、特にカトリックやイスラム教の信者が多い地域は他の国よりも寄付が集まりやすい傾向にあります。それに比べると日本、中国、韓国などの東アジアでは寄付文化がまだまだ育っていないのが現状です。しかし最近は日本でも少しずつ変わってきていて、特にこのコロナ禍では支援を求める人も増え、寄付型クラウドファンディングはかなり広まったのではないかと感じています。

 

そして今後日本でさらに広めていくためには、サービスのプロモーションや見せ方にも工夫が必要だと考えています。例えば日本では、個人が病気で困っているときに「クラウドファンディング」よりも「お見舞い」という表現を使って支援を募った方が、伝わりやすいかもしれません。また現在、日本ではライブ配信サービスが伸びていますが、そこでの「投げ銭」も寄付の一種です。そのため「バーチャルギフト」のような寄付の形は、日本でももっと広まる可能性があると感じています。このように、それぞれの国にローカライズしてコミュニケーションの方法を考えていくことが大切です。

 

また、オンラインで簡単に決済できたり、スピーディーに送金できたりすることも、サービスを提供するときにはとても重要なこと。日本に限らず、それぞれの国で利用率の高い決済方法や送金方法を整えていくことは必要不可欠だと感じています。

 

――奇兵隊としてのこれからの目標を教えてください。

 

今後も「Airfunding」の知名度を高め、より多くの人に使ってもらえるサービスへと育てていきたいです。そのために今試みていることの一つが、病院や大学との提携です。「Airfunding」はSNSのように毎日使うわけではなく、必要なときに思い出して使ってもらうサービス。そのため人々とサービスとの接点や動線をもっと増やしていきたいと考えています。奇兵隊ではこれからも、インターネットの力を使って世界を変えるような尖ったチャレンジを続けていきます。

 

【この記事の写真】