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研修時間が大幅にダウン! 途上国のリカレント教育におけるメタバースの可能性

2022/9/14

人間は社会人になっても、さまざまな形で学ぶことができる。そのような意味を広義に持つリカレント教育は、国際開発でも重要な概念の1つです。近年では、企業内教育を含めたリカレント教育にメタバースを導入する動きが活発になっていますが、このトレンドは途上国で急速に発展するかもしれません。

没入すれば、可能性は無限大

 

昨今、世界中で注目を集めているメタバース。この用語は「超〜」や「〜より包括的な」を意味する接頭辞の「メタ(meta-)」と、「宇宙」を表す「ユニバース(universe)」を組み合わせた造語で、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などを含めたXR(クロスリアリティ)と現実が融合した世界を指します。カナダのリサーチ企業・Emergen Researchによると、2021年における世界のメタバースの市場規模は約630億ドル(9兆円以上※)で、2030年までに毎年43.3%のスピードで急成長していくとのこと。あらゆる業界が熱い視線を注いでいる分野ですが、別の資料によれば、VR教育の市場規模は2026年までに約1300万ドル(約18億7000万円)に達する見込み。

※1ドル=約143.6円で換算(2022年9月8日現在)

 

メタバースのような没入型テクノロジーの最も魅力的な用途は、教育やトレーニングにあると言われています。

 

メリーランド大学によると、ユーザーはコンピュータ画面上よりも仮想現実(VR)で提示されたほうが、より効果的に情報を保持することができるそうです。また、プライスウォーターハウスクーパースのレポートによると、従来の対面式教室やオンライントレーニングに比べ、VRを使用したソフトスキルのトレーニングは4倍の速さで従業員を訓練することができたと言います。

 

VRの中で被験者は対象物を、位置や自分との距離、周りのものとの関係を認識しながら、視覚的に覚えることができるようになります。例えば、「自分が立っている場所から15メートル程離れた所に建物があり、その2階の窓際に人の姿が見える。それは〇〇さんだった」という具合に、より細かく多くの情報を視覚から得られるのです。そのため、メリーランド大学の実験では、VRを使った被験者の記憶合致の率は8.8%上昇という結果が得られたそうです。

 

ビジネスの研修にもメタバースは良い効果を与えている様子。米国の小売大手・ウォルマートが2017年に、従業員の教育プログラム用に1万7000個のVRヘッドセットを導入した事例からも分かる通り、大規模な従業員を抱える企業の導入事例が増えています。世界最大の会計事務所の1つPWCが、企業研修におけるVRの機能について調べた結果、研修の参加者からは「VRに没入するため集中力が増すほか、学んだことをVRの中で気軽に練習することができるため、自信がつく」といった意見が多数挙がったそうです。さらに同社は、VRの研修は規模の経済性によって、参加者が増えれば増えるほど費用が下がるとも述べています。

 

インフラが十分でないからこそ

そんなメタバースは、まだ証拠は少ないものの、先進国以上に途上国で活用される可能性があります。

 

メタバースへの期待は途上国で最も高いことが調査で判明しており、教育への活用についても大きな需要がありそうです。JICAが行った調査によると、フィジーでは、デジタル技術を活用して業務プロセスを改革するデジタルトランスフォーメーション(DX)施策の中で、デジタル技術を有する人材の不足が課題の1つになっているという事例もあるそう。

 

デジタル技術に限らず、途上国では技術をもった人材の育成ニーズが大きいのですが、教育の品質における問題や、交通のインフラ整備が不十分であったり、教育機会にアクセスが難しいといった別の課題も存在します。そこで、時間・場所を問わずアクセスを可能とし、より高い習熟度が期待できるメタバースが活躍するのではないでしょうか。

 

つまり、教育分野の制度やインフラが十分に整っていない途上国だからこそ、メタバースを試しやすいと考えられるのです。もちろん課題がないわけではありません。途上国で「メタバース教育」を実現するためには、通信環境の整備が必要。フィジーの例では、DXの有用性が明らかになる一方、通信環境の整っている地域とそうでない地域での格差が浮き彫りになっています。しかし、途上国が企業の投資や国際機関の支援を受けて、通信環境を整えた場合、その他の教育インフラの発展が遅れていたとしても、メタバースの活用が、先進国が通ってきた段階的プロセスを飛び越えて進む「リープフロッグ現象」さえ起こり得るかもしれません。

 

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