もうすぐインドネシアで、同国初となる高速鉄道の建設が完成を迎えます。首都ジャカルタの混雑を緩和することが期待されていますが、インドネシアがここまで至るまでには、日本が中国に出し抜かれるという波乱がありました。さまざまな思惑が交錯する中、この高速鉄道はインドネシアのインフラを変えようとしています。
この高速鉄道は、インドネシアの首都ジャカルタと西ジャワ州の州都・バンドン間の約142㎞を結ぶもの。これまで3時間かかっていた2都市間の移動を約40分に短縮するもので、2016年から建設が開始され、およそ6年を経て、9割が完成する状態にまでなったそうです(2023年6月に開業予定)。先日、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領(通称ジョコウィ)がバンドン駅を視察し、車両などを確認したことが国内外で大きく報じられました。しかし、このニュースに一番安堵しているのは中国かもしれません。
もともと、この高速鉄道プロジェクトは日本が働きかけていました。安全性が高く、しかも定時に運行する日本の新幹線は、世界でも高く評価されています。その技術は海外でも活用され、日本政府も日本の新幹線や鉄道の輸出に力を入れてきました。2019年にインドネシアで初めて誕生した地下鉄は、日本が全面的に支援していたのです。この高速鉄道プロジェクトでも当初は日本が有利とされていました。
一方、日本に劣らない技術と経済力を持っていると主張しているのが中国。2015年に中国はこの高速鉄道建設プロジェクトの入札に参加しました。インドネシア政府による債務保証を伴う円借款を提案していた日本と違って、中国は債務保証を求めませんでした。インドネシアは財政負担を避けたかったのです。
熾烈な駆け引きがあったと報じられるなか、結局、インドネシア政府は中国を選び、中国の国家開発銀行が総工費の75%を融資することになりました(残りの25%はインドネシアと中国の企業からなる合弁企業の資金で賄う)。
中国の落札の裏には、2013年に習近平国家主席が打ち出した「一帯一路」戦略があります。これはアジア各国やヨーロッパに陸路と海上航路の物流ルートを作り、巨大な経済圏を構築する構想。かつて中国とヨーロッパの間にあった交易路「シルクロード」の現代版と言えるでしょう。インドネシアの高速鉄道建設を一帯一路の一環と捉えた中国は、積極的な支援に乗り出すようになり、日本に勝ちました。
このように、この高速鉄道プロジェクトには中国の威信がかかっているとも言えます。車両の設計と製造は中国中車青島四方機車車両が行いました。最高速度は時速350kmに達するとのこと(日本の新幹線の最高速度は現時点で時速320km)。この列車は、インドネシアのような熱帯気候に適応するよう改良されているそうです。
とはいえ、この計画は落札後も順調に進んでいたわけではありません。土地の購入が計画した通りに進まないうえ、新型コロナウイルスが発生。そのため、当初は2019年に開業予定でしたが、度重なる延期に見舞われました。最終的には750kmの距離まで延伸される予定ですが、ひとまず第一段階としてジャカルタ—バンドン間の開通にこぎつけるまでに至ったのです。
紆余曲折を経て高速鉄道が完成すれば、インドネシア国内の物流が良くなることは確か。2014年の大統領就任からインフラの改善を掲げてきたジョコウィ氏は「この高速鉄道がモノとヒトの移動をより速く、より良くし、インドネシアの競争力を高めることを祈っている」と述べています。中国のプレゼンスは高まっていますが、日本のまき返しにも期待したいですね。
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