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「モバイルファイナンス」が貧困を2.6%減らす。UNDPらの共同調査で判明

2022/12/7

無線通信企業のボーダフォングループが、国連開発計画(UNDP)、ケニアを代表する通信企業のサファリコムなどと共同で、アフリカ諸国を含めた途上国49か国を対象に、モバイルファイナンスと経済成長の関係を調査し、10月下旬にレポート(『Digital Finance Platforms to empower all』)を公表しました。モバイルファイナンスの経済的な効果が明らかにされています。

アフリカのモバイルファイナンスの代表例「M-PESA」

 

モバイルファイナンスとは、JICAによれば「一般の銀行のような支店網やATMといったインフラを必要とせず、顧客のもつ携帯電話とその通信ネットワークを利用し、代理店を通して預金の引き出し、送金などの金融サービスを提供するサービス」を指します(※1)。モバイルファイナンスがGDP(国内総生産)に与える影響を分析した本レポートでは、「もしモバイルファイナンスが普及していなかったら、GDPはどうなっていたか?」ということがわかります。

※1: JICAバングラデシュ事務所(2015年2月12日付)「モバイル・ファイナンスの台頭 第1回」https://www.jica.go.jp/bangladesh/bangland/reports/report11.html 

 

レポートを読むと、モバイルファイナンスが普及している国(成人1000人あたり300以上のモバイルマネー口座が登録されている国)では、それが普及しなかった(または導入されなかった)場合と比べて、国民1人あたりのGDP成長率が高くなることが示されていますが、その差は最大で1ポイントになりました。

 

例えば、モバイル決済サービス「M-PESA(エムペサ)」が広く利用されているケニアは、国民1人あたりのGDPが現在、約1600ドル(約21万8000円※2)で、2019年の同国のGDPは840億ドル(約11兆4600億円)でした。しかし、M-PESAのようなモバイルファイナンスが普及していなければ、ガーナの国民1人あたりのGDPは1450ドル(約19万8000円)、ケニア全体では760億ドル程度(約10兆3700億円)にとどまっていたと予測されるとのこと。その差はおよそ10%近くになるそうです。

※2: 1ドル=約136.4円で換算(2022年12月1日現在)

 

ボーダフォンとケニアのサファリコムが立ち上げたM-PESAは、2007年にケニアで始まりました。それから15年が経ち、現在このサービスはタンザニアやモザンビーク、ガーナなど7カ国に拡大。アクティブユーザーは5100万人以上で、一日の取引件数は6100万件を超えるそうです。

 

モバイル決済や送金をスマホ一台で行うことができるM-PESAの台頭により、金融包摂(経済活動に必要な金融サービスを全ての人たちが利用できるようにするための取り組み)は強力に推進されました。ケニアを含む4か国のユーザーのうち、1760万人のユーザーは、それまでに金融サービスを利用したことがなかったとのこと。そのような人たちが、地元の銀行と連携してローンを組んだり、送金したり、貯蓄したり、さまざまなことができるようになったのです。

 

モバイル決済ができるM-PESAは、オンラインショッピングなどのサービスを利用して、消費者の生活水準を向上することにも貢献している一方、企業側にとってもメリットがあります。例えば、本レポートに回答した企業の98%は、M-PESAによって支払いがより迅速かつ安全に行えるようになったり、商品やサービスをオンラインで販売できるようになったりしており、事業の運営に役立っていると回答していました。

 

このような理由により、このレポートは「モバイルファイナンスの導入成功で、貧困をおよそ2.6%減らすことができる」と述べています。

 

課題はあるのでしょうか? M-PESAアフリカのSitoyo Lopokoiyit CEOは「モバイルファナインスのプラットフォームにアクセスする側面では、デジタルリテラシーやスマホの所有といった課題があります。また、モバイルファイナンスの発展という側面では、多くの国々で金融サービス業に新規参入するための規制や条件が公平でないという障壁も存在しています」と指摘しています。

 

このような問題がありますが、アフリカなどの途上国で金融包摂を推進することは、UNDPの最重要課題の一つであり続けます。その中でモバイルファイナンスは重要な役割を担っており、今後も途上国の取り組みから目が離せません。

 

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