帝王切開での出産は、正しい知識と経験を持った医師がいなければ、危険を伴うこともあります。発展途上国でそんな帝王切開手術を支える産婦人科医を、遠隔で育成していこうという試みがケニアで進められています。
ケニアのマクニエ県では、妊産婦の死亡率が10万人当たり452人と、同国全体の死亡率(10万人当たり355人)よりはるかに高いのが現状です。その理由の一つとして考えられるのが、帝王切開手術を行える産婦人科医が、毎月900件ほど行われる帝王切開に対してわずか3人しかいないこと。通常の出産に比べて複雑で難しい帝王切開には、それを支える技術を持った医師の存在が欠かせません。しかし、ケニアでは必要な設備が整った病院も、十分な技術を持った医師も不足していることが指摘されているのです。
そこで、米ジョンズ・ホプキンス大学と提携する非営利医療団のJhpiegoでは、医療向けプラットフォームを展開するProximieと提携して、遠隔で医師のメンターシップ(※)を行うプログラムを2021年12月に立ち上げました。これはケニアで帝王切開の手術が行われる際、経験豊富な産婦人科医とバーチャルでつなぎ、問題があればそこで相談しながら手術を進め、死亡率を減らそうという試み。手術室には4つのカメラを設置し、妊産婦、赤ちゃん、手術室全体などを映し、異なる場所にいる医師とバーチャルでつながり会話できるのです。手術の記録を録画して、後日それを閲覧することもできるとのこと。帝王切開の手術はもちろん、合併症のケア、処置後の赤ちゃんのケアなど、プログラムを通して、若手医師や看護師に適切なスキルを身につけていってもらうことを狙いとしています。
※メンターシップ(またはメンタリング)とは、企業などの組織において先輩が上司の指示に頼らず、自律的に後輩を指導すること
このプログラムに参加した5つの病院のいずれの手術チームも、バーチャルでのサポートがあることで、緊急事態が起きてもそれに的確に対応できるようになったとのこと。また録画した動画をケニアの手術チームとともに閲覧しながら、手術の対応について議論して、医師や看護師全体の知識や対応力を底上げしていくこともできます。Jhpiegoによると、プロジェクト開始当初は手術安全のためのチェックリストを守っている病院はほぼなかったのに、2022年3月時点で遵守率が100%になったそうです。
このプロジェクトは22か月に渡り行われていますが、「若手医師や看護師の6か月のインターン期間では、帝王切開の緊急事態に対応できるような十分な経験と自信をつけることは難しい」とケニアの産婦人科医師が語っているように、このようなプログラムを継続する必要性が認識されています。
デジタル技術を駆使した医師のメンターシップは、指導する側(メンター)にとっても指導を受ける側(メンティー)にとっても、有効な育成手法と言えるでしょう。発展途上国ではインターネットの接続やカメラなどの必要設備を整えることが必要にはなりますが、このような取り組みは産婦人科医に限らず、医療に関する他の分野にも広がっていきそうです。
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