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家電ジャーナリストに訊く、ダイキンがナイジェリアにエアコン組み立て工場を設立する狙い

2023/6/6

現在はもちろん将来的にも有望な市場として、世界的な注目を集めているアフリカ。日本企業も例外ではなく、大手からスタートアップまで、さまざまな形でのビジネス参入を模索しています。そんな中、空調機器のトップメーカーであるダイキン工業株式会社が、昨年、ナイジェリア現地で空調機器の組み立てをスタートすると発表しました。一方で東アフリカのタンザニアでは、現地企業との合弁会社を立ち上げ、空調機器のサブスクリプションサービスを行うなど、アフリカでの存在感を強めている同社。今回は、ダイキンのアフリカ・ナイジェリアでの取り組みを中心に、その狙いや取り組みについて、IT・家電ジャーナリストの安蔵靖志さんに見解を伺いました。

 

安蔵靖志さん●IT・家電ジャーナリスト。家電製品総合アドバイザー(プラチナグレード)。AllAbout 家電ガイド。ビジネス・IT系出版社を経てフリーに。デジタル家電や生活家電に関連する記事を執筆するほか、家電のスペシャリストとしてテレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。ラジオ番組の家電製品リサーチや構成などにも携わっている。

 

ナイジェリアに生産拠点を置く理由

家電メーカーに限った話ではありませんが、中国や韓国などの企業にくらべ、日本企業のアフリカ進出はかなり遅れていると言われてきました。その要因の一つに、「日本メーカーならではの高い技術力がある」と安蔵さん。

 

「実はアフリカで普及しているエアコンの約95%が、インバーターなしという統計があります。つまり、これまで高性能で高額なエアコンは売れなかった。優れた省エネ性能など日本得意の技術力の高さを現地ではなかなか発揮できなかったのだと思います」

 

ただ近年の経済成長や、世界規模でのカーボンニュートラル実現に向けた、家電をはじめとする電力消費抑制への動きなどで風向きが変わってきたと指摘します。

 

「アフリカの中でもナイジェリアは最大の人口を誇り、GDPも高い。つまりアフリカの拠点とするのに最も条件が揃った魅力的な市場だと考えたのではないでしょうか。現地に組み立て工場を設立する理由としては、ナイジェリアなどの西アフリカ地域は、海外の生産拠点があるインドから地理的に遠いことや、価格競争力、さらに製品のローカライズなどが挙げられます。まずはナイジェリアでしっかり地盤を固めてから、周辺諸国に進出する予定なのでしょう」

 

技術者育成で現地の販路拡大とブランディングを推進

また、ほぼ時を同じくして、ナイジェリア最大の都市ラゴスに拠点を置く職業訓練校・エティワ・テックに、空調機器関連の技術者を養成するためのトレーニングセンターを開設すると発表。据え付けやメンテンス方法などを学ぶための空調機器の供与や、同校の講師陣に対する取り扱い研修プログラムの提供をスタートするそうです。

 

「ご存じの通り、空調機器の取り付けには専門の技術者による工事が必要です。日本でも夏場になると取り付けに数週間かかることはざら。要はエアコンの販売を拡大させるには、技術者の育成が不可欠なのです。また、トレーニングセンターでは当然、ダイキンの空調機器を使って学ぶわけですから、それだけ技術者たちのダイキンに対する知名度や理解も深まるし、ファンも増える。そこから巣立った技術者たちが、実際に各エアコンを取り付けるために各家庭や企業などを訪れるわけですから。ダイキンのブランディングという意味合いも強いのではないでしょうか」

 

とくにアフリカなどの途上国では、派手な広告を打つより、口コミなどが効果的と言われています。トレーニングセンターの開設はブランドイメージを高めるのにも一役買いそうです。

 

「IEA(国際エネルギー機関)の発表によると、世界的に冷房などで消費される電力が2050年には、2015年の約3倍になると見込まれています。カーボンニュートラルの流れの中、エアコンの省エネ性能がより一層重要になってくるのは明らか」

 

ビジネス的にはもちろん、社会貢献という意味でも、今後、ダイキンはじめ、技術力に長けた日本メーカーの活躍には大いに期待したいところです。