今年も「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」がスタートして、京都市内各所で15の展示が開催されている。毎年異なるテーマが設定されていて、それにふさわしい写真展が行われるのがKYOTOGRAPHIEの特長で、2018年のテーマは “UP”。個人も社会も閉塞感に包まれている今、それを乗り越えるため、次の行動のための ”UP” の写真作品に向きあえるのが、KYOTOGRAPHIEだ。
挨拶をする、共同創設者&共同ディレクターのルシール・レイボーズさんと仲西祐介さん。
KYOTOGRAPHIE 注目の展示
■ローレン・グリンフィールド(Lauren greenfield)「GENERAION WEALTH」
会場:京都新聞ビル 印刷工場跡
写真家で映像作家でもあるグリンフィールドさんの作品「GENERAION WEALTH」(富の世代)は、自国のアメリカだけではなく、世界各地の富を持った人々を捉えている。富を持つ人々の生活を、滑稽とも皮肉とも見ることもできるように表現した作品は、富を追い続ける人々の様子と、富が偏っているという現実を描いたもの。新聞社地下にある印刷工場跡地で展示されているが、その広大なスペースの中にいると、まるで富の世代の人々が暮らす豪邸の中にいるように感じられる。
■ギデオン・メンデル(Gideon Mendel)「DROWING WORLD」
会場:三三九(京都市中央市場内 旧氷工場)
大規模洪水の被災者を、その洪水の水の中に立たせたポートレート写真である。この10年の間に13か国で起きた洪水被害に迫り、被写体である被災者たちを真正面に捉えている。彼らの目を見ることで、個人個人が直面している現実の不安やおののきを感じ取ることができる。
■森田具海(Morita Tomomi)「Sanrizuka ‐Then and Now – 」
会場:堀川御池ギャラリー
昨年のサテライトイベント「KG+ AWARD」グランプリ受賞者で、今回の個展開催を実現した森田さんの作品は、成田空港闘争の現場である三里塚の「現在」を撮影したものである。闘争の激しさを伝える団結小屋はすでになく、写真が空港の周辺に張り巡らされたさまざまな壁やフェンスの存在を伝えることで、闘争の記録としているのと同時に、乗り越えることもかなわず拡大してくる無機質な壁が、国家権力を表現している。
写真の多様性を追求し、世界的な作品を日本で見せていきたい
共同創設者&共同ディレクターである仲西祐介さんに話を聞いた。
── 2017年にお話をお聞きしたときは「作家が作品を発表するためのプラットフォームを作りたい」ということでした。1年たちましたがどうでしょうか?
仲西:KYOTOGRAPHIEがやりたいことの基本的な部分は変わっていません。写真表現にはとても多様性がありますので、さまざまな表現や価値観、美意識の作品を京都で見せていきたいです。また、しっかりとしたメッセージのある作品もお見せしていきたいです。
メッセージという部分では、毎年打ち出すテーマにあった作品を選んでいます。今年のテーマ「UP」の持つ意味は、日本はもっとポジティブになってほしい、それには一人一人が意識を上げていかなければならないと考えたところから決めました。「wake up, stand up, move up 目を覚まし、立ち上がり、動き出す」社会は自分たちの力で変えられるということを、写真作品を通して見に来る方に伝えたいです。
── 毎年、テーマのハードルが上がってきているように感じます。
仲西:KYOTOGRAPHIEへの期待が年々上がってきているので、テーマの設定と展示にはプレッシャーも感じています。来年はまだ確定ではありませんが、常にサプライズがあり社会をポジティブにしていけるテーマを設定したいと考えています。
── 今年の晩秋の東京でのTOKYOGRAPHIE開催の発表もサプライズですね。
仲西:KYOTOGRAPHIEを東京へ持っていくことで、京都へなかなかこられない方へ、われわれが京都で見せている作品の一部をご覧になってもらう場を作るという、チャレンジをしたいと思っています。まだ最終決定でない部分もありますが、東京ではKYOTOGRAPHIEにご協力いただいているスポンサーさんが東京にお持ちのスペースを使って、今回KYOTOGRAPHIEで展示しているジャン=ポール・グールド、リウ・ボーリン、アルベルト・ガルシア・アリックスなどの展示を計画しています。また、KG+とポートフォリオレビューのアワード受賞者の展示もしたいと思っています。今年は、東京での展示は最初になりますが、来年以降も継続してTOKYOGRAPHIEを開催していこうと考えています。
日本では、アーティストが作品を作った後の発表の場が少ないと思います。また、作家もそれを開拓することもなかなかできていません。京都だけではなく、東京でも発表の場を作ることで間口を広げ、海外の作家を日本に呼ぶことで日本のアーティ―ストに刺激を与え、日本のアーティスト海外に発信していく。そういう橋渡しの場になっていきたいと思っています。
仲西祐介さん
展示するだけでなく、作家が成長できる可能性を持っている
KYOTOGRAPHIEの大きな特長の一つに、サテライトイベント「KG+(ケージープラス)」の存在がある。メインの展示のKYOTOGRAPHIEは知名度の高い作家・作品を展示するが、KG+はこれからが期待される作家に間口を広げてチャンスを得てもらうためのイベントと位置づけられ、今年は70以上の写真展を開催している。
昨年からKG+のプログラムディレクターを務め、京都にあるギャラリーメインのオーナでもある中澤有基さんにお話を伺った。
── 毎年拝見していますが、KG+がますます広がりを持って、成長しているように感じます。
中澤:KG+はこれからが期待される作家の発表の場ですが、展示して終わるというだけではなく、次へつなげるために、「KG+ AWARD」という賞を設定しています。「KG+ AWARD」でグランプリを受賞した方には翌年のKYOTOGRAPHIEへの出展が約束されます。展覧会開催の権利だけではなく、作品の制作費や展示のためのデザインなどの金銭的なサポートもされ、自分の作品を世界へ発信できるようになります。
また、今年の晩秋に東京でTOKYOGRAPHIEが開催されますが、同時にKG+in Tokyo(仮)も開催予定です。そこでは今年の「KG+ AWARD」受賞者の作品を中心に展示をする予定ですので、東京の方にも是非ご覧になっていただきたいと思います。
── 京都以外の方や海外からの出展者も増えてきているようです。
中澤:関東や海外からも出展者が毎年増えてきています。KG+では基本的には展示会場を作家さんに手配してもらうのですが、京都在住以外の方ですとなかなか難しいと思います。そこでKG+では、展示会場探しのフォローもしていて、京都市が所有しているスペースや地元のギャラリーさんのご協力を得ていますが、もっと増やしていき、様々な地域の方が出展しやすくしていきたいと思っています。海外の出展者が増えているのは、フランスのVoies Off Festivalやfotofever artfair Parisと連携しKG+の紹介活動をしている成果が出てきているからだと思います。
このように、展示をするだけでなく、作家が成長できる可能性を持っているフェスティバルを毎年開催しておりますので、春の京都にぜひ、ご来場いただければ嬉しいです。
中澤有基さん
作家として “UP” するためのポートフォリオレビューも開催
サイモン・ベイカー(テート・モダン写真部門キュレーター)、グェン・リー(シンガポール国際写真祭創始者/アートディレクター)、パスカル・ボース(美術批評家/フランス国立造形芸術センター キュレーター)、フランソワ・シュヴァル(The Red Eye共同創始者/連州国際写真共同ディレクター/ニセフォール・ニエプス美術館元ディレクター)など、国内外のキュレーター、ギャラリストら26人のレビュワーによるポートフォリオレビューが4月14日(土)~15日(日)に開催された。
参加者の中に、昨年の名取洋之助写真賞を受賞した関健作さんがいたので、レビューの感想をお聞きした。
関:外国人レビュワーの方のコメントは、全体的にソフトな表現でかつ具体的だと思いました。レビュワーがドキュメンタリー作家の場合は、私の作品を見抜かれている感じもしましたが、アドバイスは的確でした。出版関係のレビュワーには、私の作品に興味を持ちそうな海外の出版社の連絡先を教えていただきましたし、キュレーターには、何のためにこの作品を作っているのかという質問をされました。
もっと若い時にこのような海外の方からのレビューを受けていればよかったと思っています。そうすれば、また写真の広がりが変わっていたのかもしれないです。作家を目指そうと思う方は、若いうち、学生のうちに、批評されることを恐れずに、こういう海外への間口が広がっているレビューへの参加にチャレンジしてほしいと思います。
関さんは、ポートフォリオレビュー参加者の中から最優秀者が表彰されるポートフォリオレビュー賞「FUJIFILM AWARD」を受賞した。
「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2018」の展示期間は2018年5月13日(日)まで。一部日程が異なるものや、有料の展示もある。サテライトイベント「KG+」は企画ごとに開催日程が異なるので、詳細はKYOTOGRAPHIEオフィシャルサイトで確認を。
〈写真・文〉小林 貴(インターアート7)