小竹直人「時空を超えた 劇的〈ドラマチック〉鉄路」
OM-D E-M1 Mark II の登場を機に、機材をオリンパスのミラーレス一眼に統一した。AFの精度、連写性能など、これまで使用していたデジタル一眼レフと遜色ないからだ。機材の小型軽量化は撮影現場において機動力に直結し、思いのままの写真づくりを実現してくれた。
① 吹き上げる火の粉を「線」で描く
夜 × ライブコンポジット
ライブコンポジットの最高シャッタースピード1/2秒を選択したことで、蒸気機関車が吹き上げる火の粉の光跡を「線」として描画した。これが通常のバルブ撮影ならば、火の粉が「線」ではなく色として残される。また、バラスト付近では、吐き出された煙のディテールが残されている。ライブコンポジット撮影ではバルブ同様、三脚とリモートケーブルを必要とする。
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO マニュアル露出 F2.8 1/2秒×5329コマ(約44分25秒) ISO640 WB:オート(中国・新疆ウイグル自治区)
高機能&小型軽量システムが鉄道の新たな表現世界へ導く
中国では蒸気機関車から高速鉄道まで鉄路上を走る列車を総称して「火車」と呼んでいる。清朝時代の1865年、イギリスによって中国に初めて蒸気機関車が持ち込まれ、それを目の当たりにした当時の高官たちが火を吹いて走る怪物のようだと仰天して、「火竜」と呼んだことから「火車」となった。
その蒸気機関車を撮影して30年余り。これまで追い続けた現役の機関車たちもいま役目を終えようとしている。そうした中、最後の蒸気機関車が活躍する新疆ウイグル自治区の炭鉱鉄道で150年以上の時を隔てて“火竜”が出現した。これこそが私がおよそ30年間の長い旅で探し求めた蒸気機関車である。
昨今はデジタルカメラの性能が向上し、夜の走行シーンの撮影も可能となったが、中でも鉄道撮影に最適なのが「OM-D E-M1 Mark II」だ。上の写真はライブコンポジット機能を用いることで、火を吹き上げて走り去る機関車の光跡を“火竜”の如く表現することができた。想像を超えた奇跡のショット。この1枚を撮るために30年を費やしたと言っても過言ではない。
また、新疆は自然環境の厳しいところで冬季になると氷点下20度Cまで冷え込み、乾いた大地は季節を問わず砂塵が吹き付ける。いずれもデジタルカメラが苦手とする環境であるが、オリンパスならではの強力なダストリダクション機能により、ためらうことなくレンズ交換が行なえた。中国への旅はいつまで続くかわからないが、機材が軽くなったお陰で旅に出かけるのがより楽しみになっている。
ライブコンポジットとは
通常のバルブ撮影は露光時間によって明るさが変化するのに対して、ライブコンポジットは任意のシャッター速度(1/2秒~60秒)で連続露光合成される。たとえば、1秒に設定すると1秒分の光に反応し続けるということであり、暗闇の中でヘッドライトを灯した列車が通過したなら、その光のみに反応し光跡として描画される。シャドーコントロールが可能なバルブ撮影である。
② 複々線の向こうに富士山を望む
早朝 × ライブコンポジット
シャッターを開け、複々線区間の各線の列車の通過を待つ。日の出が近づくにつれて富士山のディテールがはっきりと描画されたことを確認してシャッターを閉じた。早朝は露出の進行が早いので絞り込んで撮影している。
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO+テレコンバーターMC-14 マニュアル露出 F11 1/2秒×1321コマ(約11分) ISO200 WB:オート(東京都渋谷区)
③ 暮れなずむ情景を絶妙な露出で表現
日の入り × ライブコンポジット
露出の適正値が1/2秒F22(最小絞り)になった時点から、ライブコンポジットタイムである。夕日から日没の撮影はシャッターを切った時点でハイライトの露出が確定するので、あとは列車の通過を待つだけだ。
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO マニュアル露出 F22 1/2秒×2165コマ(約18分3秒) ISO200 WB:オート(新潟県柏崎市)
④ 列車の光跡と信濃川のさざ波を精細に捉える
日没後 × ライブコンポジット
日没後の撮影は絞りによって残照の濃度を調整する。明るめなら絞りを開け気味に、逆に空をより落としたいなら絞り込む。1/2秒に設定したことによって、川面のさざ波のディテールが表現された。
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO マニュアル露出 F5 1/2秒×290コマ(4分55秒) ISO200 WB:オート(新潟県新潟市)
⑤ 夜間も手持ち撮影で狙った一瞬を逃さない
手ぶれ補正6.5段
「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO」は、「OM-D E-M1 Mark II」との組み合わせで最大で6.5段分の手ぶれ補正能力を発揮する。終焉間際の機関区には、世界中からファンが殺到。皆、あたり前のように三脚を使用しているが、こうした現場こそ手持ち撮影で自由なアングルで狙いたい。
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 絞り優先AE F4 1/4秒 ISO800 WB:オート(中国・新疆ウイグル自治区)
⑥ 垂直水平を出して車体を端正に写し取る
デジタルシフト
駅舎、鉄橋など鉄道施設から車両の形式写真まで、デジタルシフト機能が重宝する。水平垂直がしっかりと出ている写真は端正である。この機能はレンズを選ばない。使用するレンズの全画角に適用される。
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO 絞り優先AE F4 1/15秒 -0.7補正 ISO800 WB:オート(中国・新疆ウイグル自治区)
⑦ すれ違う高速鉄道の決定的瞬間を押さえる
プロキャプチャー
高速鉄道のすれ違いは相対速度500km以上にもなる。いかなる動体視力、超高速連写を用いても撮影することは困難だ。そこでプロキャプチャー(Hモード)の出番。シャッターを半押しした状態で、車窓から対向車のすれ違いを待ち、対向車を目視してシャッターを全押しする。この時点で既に時遅しであるが、プロキャプチャーは、シャッターを全押しした約0.6秒前、35コマ前まで遡って記録される。決定的瞬間を撮り逃さない。
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO 絞り優先AE F4 1/5000秒 ISO1600 WB:オート(中国・遼寧省)
機動性バツグンのシステム
通常の機材システムは「OM-D E-M1 Mark II」を2台に、
「M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO」「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO」」「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」」「M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO」」の4本のレンズと「テレコンバーター MC-14」が加わる。その他、充電器、リモートケーブル、ストロボ、予備電池などの小物を収めても、カメラバッグ含め総重量6kg程度だ。
写真展開催
小竹直人写真展「最後の火竜〜ライブコンポジットが描いた奇跡の光跡〜」
<東京>
会期 2018年11月2日(金)〜7日(水)
会場 オリンパスプラザ東京 ショールーム クリエイティブウォール
住所 東京都新宿区西新宿1-24-1 エステック情報ビルB1F
時間 11:00〜19:00(最終日は15:00まで)
休館日 木曜
料金 無料
<大阪>
会期 2019年2月1日(金)〜7日(水)
会場 オリンパスプラザ大阪 ショールーム クリエイティブウォール
住所 大阪府大阪市西区阿波座1-6-1 MID西本町ビル1F
時間 10:00〜18:00(最終日は15:00まで)
休館日 日曜・祝日
料金 無料
第7回火車撮影家集団写真展「世界の路線端から III」
<東京>
会期 2018年11月2日(金)〜7日(水)
会場 オリンパスギャラリー東京
住所 東京都新宿区西新宿1-24-1 エステック情報ビルB1F オリンパスプラザ東京内
時間 11:00〜19:00(最終日は15:00まで)
休館日 木曜
料金 無料
動画上映&トークショー 2018年11月3日(土)・4日(日)各日 13:00~/16:00〜
問い合わせ オリンパスギャラリー東京(TEL 03-5909-0191)
<大阪>
会期 2018年11月24日(金)〜29日(木)
会場 オリンパスギャラリー大阪
住所 大阪府大阪市西区阿波座1-6-1 MID西本町ビル1F オリンパスプラザ大阪内
時間 10:00〜18:00(最終日は15:00まで)
休館日 日曜・祝日
料金 無料
動画上映&トークショー 2018年11月24日(土)13:00~
問い合わせ オリンパスギャラリー大阪(TEL 06-6535-7911)
〈写真・解説〉小竹直人
〈協力〉オリンパス株式会社