中村文夫の古レンズ温故知新「IX Nikkor 20-60mm F3.5-5.6」
IX Nikkor 20-60mm F3.5-5.6(IXニッコール)はニコンが1996年に発売したAPS一眼レフのプロネアシリーズ用交換レンズだ。ちなみにAPSとはAdvanced Photo Systemの略で、24mm幅のフィルムをカートリッジに収めた写真システムのこと。現在はデジタルカメラのセンサーサイズの意味で使われるが、実はこっちが本家なのだ。
IX Nikkor 20-60mm F3.5-5.6
IXニッコールは現在、中古市場ではジャンク扱いが多い。運が良ければ1000円でお釣りが来ることも。
“出っ張り”問題をクリア!
プロネアのマウントはニコンFマウントが基本だが、レンズの後ろ側が出っ張った形状なのでプロネア以外のニコンFマウントボディには取り付け不可能。さらにAPS専用設計なのでイメージサークルが小さく35mmフルサイズをカバーしない。そのためニッコールという名門の血筋でありながら、マウントアダプターの世界では、ずっと冷や飯を食わされてきた。
だがIXニッコールは本当に「使い道のないレンズ」なのか? そこで手持ちの20-60mmとフルサイズミラーレスのソニーα7Rを組み合わせて実験することに。まずボディへの取り付けはアダプターの2段重ねで解決。イメージサークルの問題は、20mmだと四隅にケラレが生じるが、ほんの少し望遠側にズーミングすれば問題なく使えることが判明。こうしてソニーEマウント用激安超広角ズームが誕生した。
IXニッコールには絞りリングがなく、F値を変更するには絞りリング付のアダプターが必須。だがダイレクトにソニーEマウントに変換するアダプターは絞り制御メカがレンズ側の出っ張りと干渉してしまう。そこで絞り変更可能なレイクォール製ニコンG→キヤノンEF、キポン製キヤノンEF→ソニーEのアダプターを組み合わせて使用した。
問題の出っ張りはアダプター内にすっぽり収まってしまう。
広角端の20mmで撮影。四隅にケラレが生じるが、絵柄によっては超広角レンズらしさを強調するエッセンスにもなる。絞り開放だと全体に柔らかな描写だが、周辺部の画質低下も含め、絞りを絞るとかなり改善される。
ソニー α7R 絞り優先オート F3.5 1/60秒 +0.3補正 ISO800
〈文・写真〉中村文夫