だんだんと暖かくなってきて、撮影にも出かけやすい季節になってきた。ということで、本稿では4月下旬から5月いっぱいにかけて楽しめる日本全国の春の絶景を風景写真家に紹介してもらう。今回の推薦人は新井幸人さんだ。
推薦人
新井幸人さん
群馬県赤城村生まれ。1982年、写真家として独立。「美しい日本」をテーマに自然風景を撮り続けている。写真集は『尾瀬』『日本海』『裏磐梯』『緑の水脈』『湿原』『利根川上流紀行』『浅間山』など多数。1997年、NHK地域放送文化賞受賞。尾瀬の郷親善大使。
おすすめの撮影スポット①尾瀬ヶ原(群馬、福島、新潟)
ミズバショウはもちろん雪解けやアカシボ現象も見所!季節の移り変わりを楽しもう
<尾瀬ヶ原撮影MAP>
撮影する人のためのおすすめコース
●宿泊コース
山ノ鼻⇨上田代⇨牛首分岐⇨竜宮十字路⇨ヨッピ吊り橋⇨東電小屋(宿泊※)⇨東電尾瀬橋⇨見晴⇨竜宮十字路⇨牛首分岐⇨山ノ鼻
●日帰りコース
山ノ鼻⇨上田代⇨牛首分岐⇨竜宮十字路⇨ヨッピ吊り橋⇨牛首分岐⇨山ノ鼻
※山小屋の営業開始は東電小屋、元湯山荘、温泉小屋、見晴地区の6軒などは、おおむね5月中旬になるので注意。
【MAPⒶ/5月中旬・上田代】
幻想的な早朝の尾瀬ヶ原。山小屋に宿泊したからこそ狙える光景だ
雪が消えたころでも気温が氷点下になり、しばしば晩霜が降りる朝がある。この晩霜は芽を出したばかりの植物に大打撃を与え、花の尾瀬を無残な姿にしてしまう。写真は尾瀬ヶ原の上田代から、朝靄が消えて姿を見せた燧ヶ岳と、薄霜の降りた木道とを組み合わせて撮影したものだ。尾瀬ヶ原の撮影では、水平線の位置が作品の善し悪しを左右する大きなポイントとなるので留意したい。
パナソニック ルミックスGH4 M.ZUIKO DIGITAL ED12~40ミリF2.8 PRO 絞り優先オート F11 1/800秒 ISO400 WB:太陽光
【MAPⒷ/5月中旬・上田代】
融雪時期は登山靴にスパッツをつけて冬の装備で出掛ける
残雪が消えると木道が姿を現して、随分と歩きやすくなる。しかし、尾瀬ヶ原に向かう登山道には相当の残雪があるので、装備には十分な配慮が必要だ。
【MAPⒹ/5月下旬・中田代】
景鶴山の映り込みを鮮明に写せればベストであった
中田代竜宮十字路で残雪とブナの芽吹きの眩しい景鶴山を、池塘に映し込んで撮影した。ただ、さざ波が立って景鶴山の映り込みを美しく写せなかったのが悔やまれてならない。タイムラプス映像を作るために2秒間隔で600カットインターバル撮影した中の1枚。
キヤノンEOS 5D マークⅣ EF24~70ミリF2.8L Ⅱ USM 絞り優先オート F16 1/80秒 ISO400 WB:太陽光 C-PLフィルター使用
アカシボ現象は大型連休後、ミズバショウは5月下旬
尾瀬の山小屋の営業は例年4月の下旬からだ。しかし、1メートルを超す雪が残る湿原は日中でこそ春の陽気だが、朝夕はまだ冬と呼んでもよい季節である。したがって、冬山を想定した装備をし、慎重な行動が求められる。
大型連休が過ぎると、雪原が赤茶色に染まる「アカシボ現象」が現れ、湿原の雪は急激に消えていき、冬枯れの姿を見せる。そして5月下旬に、春の尾瀬で多くの人が待ち望んでいるミズバショウがお目見えする。ミズバショウは大きな群落をつくり、残雪の至仏山との組み合わせで撮影できるのは、中田代竜宮十字路から南に木道を進んだ長沢尻、それから肌を切るような雪解け水の流れに沿って咲く中田代下ノ大堀などがよく知られている。さらに季節が進むと、至仏山の麓になる山ノ鼻植物研究見本園でも大きな群落を撮影することができる。
こうして尾瀬の新しいシーズンがスタートすると、日ごとにその様相を変えていく。それは湿原で堰を切ったように咲く花々はもちろん、湿原を取り巻く周囲の森でもブナの芽吹きが黄緑色に染まり、その帯は山肌を駆け上がる。さらに尾瀬ヶ原に向かう峠路ではムシカリ(オオカメノキ)、ムラサキヤシオ、ハクサンシャクナゲなど、多くの植物が尾瀬の遅い春を謳歌する。朝夕に見せる幻想的な世界、可憐に咲く植物の表情、今年も尾瀬は新たな感動を与えてくれるだろう。
【MAPⒸ/5月中旬・植物研究見本園】
融雪時期に見られるアカシボ現象。
【MAPⒺ/5月下旬・下田代】
ローアングルから広角でミズバショウと至仏山を絡めて撮る
朝靄が消え去った尾瀬は、雲ひとつない青空になった。幸いにして晩霜の被害も見えない。白いミズバショウが揃い咲きしていたので、木道ギリギリのローアングルからミズバショウと残雪の至仏山を組み合わせ、春の尾瀬を表現した。
キヤノンEOS 5D マークⅢ EF16~35ミリF2.8L Ⅱ USM 絞り優先オート F14 1/160秒 ISO400 WB:太陽光 C-PLフィルター使用
【MAPⒻ/5月下旬・ヨシッポリ田代】
きれいな星空が狙えるが、クマの遭遇に注意しよう
光害の少ない尾瀬は星空撮影にも適している。デジタルカメラになってからは、撮影そのものが容易になったためか、撮影者が増えているようだ。ただ注意をしなければならないのは、先住者のクマなどとの遭遇だ。周囲にも気を配り、思わぬ事故などは避けたい。
キヤノンEOS 5DマークⅢ EF16~35ミリF2.8L Ⅱ USM バルブ撮影 30秒 F3.2 ISO3200 WB:オート
GW前後に見られる主な植物
花が咲き出すのは5月中旬以降。ワタスゲの開花がスタートの合図
尾瀬ヶ原の残雪が消えると冬枯れの湿原に、あるいは大小の水の流れに沿って植物が顔を出し始め、次々に花を咲かせて“花の尾瀬”がスタートする。そのトップランナーはツクシのような形をしたワタスゲだろう。そしてミズバショウ、リュウキンカ、ショウジョウバカマなどが先を競いながら花開いていく。ミズバショウは数か所で大きな群落を作って、尾瀬を象徴する光景を描き出す。
ショウジョウバカマ
ミズバショウ
リュウキンカ
ワタスゲの花
ザゼンソウ
尾瀬ヶ原撮影の心得&注意点
●決められた登山道、木道しか歩くことができないので、湿原に立ち入るようなことは禁止
●湿原に三脚を立てることは絶対に禁止
●撮影のために木道を占領することは避けよう
●残雪期に入山する場合は、登山靴にスパッツ、さらにアイゼンやチェーンスパイクなどがあると安全、安心
●帽子や手袋などの防寒にも配慮しよう
●夏道ではなくて冬道を歩く場合もあるので、迷わないように注意しよう