中村文夫の古レンズ温故知新「フォクトレンダー APO-LANTHAR 90mm F3.5 SL Close Focus」
APO-LANTHAR(アポランター)のAPO(アポ)とは、赤緑青の三色の光に対して色収差を補正した光学設計の意味。高いレベルで色収差を除去したレンズだけが名乗れる称号だ。フォクトレンダーが最初にアポランターの名を冠した製品を発売したのは1950年代前半。6×9判スプリングカメラの「BESSA(ベッサ)II」に搭載されたほか、大判カメラ用レンズとしても販売された。
レンズ先端のリングに刻まれた赤緑青のラインは色収差を高度に補正したレンズの証。PK-Aのほか、FD、Ai-S、MD、OM、CY、M42マウントが用意された。
甦った名門ブランドの名レンズ
1981年にフォクトレンダーは倒産したが、1999年に日本国内における商標権を獲得したコシナがフォクトレンダーブランドを復活させた。ライカスクリューマウントのレンジファインダー機用レンズが最初の製品で、今回紹介する「APO-LANTHAR 90mm F3.5 SL Close Focus(アポランター90ミリ F3.5 SL クローズフォーカス)は、2001年に発売したレンジファインダー用レンズを一眼レフ用に仕様変更した製品だ。
光学系はレンジファインダー用と同じだが、新設計の鏡筒により50cmという最短撮影距離を実現。倍率1:3.5(約0.28倍)の接写ができるようになった。
デジタルでも素晴らしい描写力
アポランターを名乗るだけあって色収差が高度に補正され、デジタルカメラと組み合わせてもフィルム時代の設計とは思えないほどの性能を発揮。総金属製の鏡筒の作りも丁寧で、所有する満足感すら味わえるワンランク上の製品と言えるだろう。
絞りリングにA位置が付いたKAタイプなので、K-1をはじめとするペンタックスのデジタルカメラで全ての撮影モードが利用できる。
別売りフードは厚みのある金属製で、取付部は堅牢性の高いバヨネット式。内側には反射防止の溝が刻まれるなど、ぜいたくな作りだ。
口径食の影響がほとんどないばかりか、絞り羽根の枚数が9枚と多く、絞っても円形が保たれるので、木漏れ日などのボケがきれいに出る。もちろん前ボケも非常に美しい。
ペンタックス K-1改 Mark II 絞り優先オート F5.6 1/100秒 ISO400 AWB
〈文・写真〉中村文夫