中村文夫の古レンズ温故知新「Angenieux 75mm F2.5 Type P3」
アンジェニューは映画業界を中心にプロ用映像分野で圧倒的な人気を誇るフランスのシネレンズメーカーだ。創業は1935年。今はシネレンズ専門だが、創業当時はシネ用以外にも35mm一眼レフ用交換レンズも手掛けていた。
なかでも有名なのは1950年発売のレトロフォーカス 35mm F2.5で、フランジバックを長くするため前玉に凹レンズを用いた設計を採用。スチルカメラ用では世界初の製品で、それまでミラーアップしなければ使えなかった一眼レフ用広角レンズの世界に革命を起こす。現在、このようなレンズタイプをレトロフォーカスと呼ぶが、実はアンジェニューの製品名がそのルーツだ。
Angenieux(アンジェニュー) 75mm F2.5 Type P3
レンズ名は創業者のピエール・アンジェニュー(P.ANGENIEUX)の名前に由来。創業当時は会社がパリにあったのでPARISの刻印がある。タイプP3の「P」は4群5枚のレンズ構成であることの意味だ。
ミラーレス機の登場で、シネレンズでもマウントアダプター遊びが可能に
今回紹介する「Angenieux 75mm F2.5 Type P3」は、1950年代にアンジェニューが発売した16mmシネカメラ用望遠レンズ。シネカメラ用Cマウントレンズはフランジバックが短く、長い間マウントアダプター遊びには不向きとされてきたが、ミラーレス機の登場で一躍注目を浴びることに。
なかでもおすすめのボディは、1インチのイメージセンサーを搭載した「Nikon 1」シリーズだ。画面サイズが16mmシネカメラに最も近く、Cマウントレンズに最適。ただし、「Nikon 1」などの小サイズセンサー機はマイクロフォーサーズ機小型化の影響で、今後は消えゆく運命。本気でシネカメラ用レンズを楽しみたいなら早めにボディを確保するとよいだろう。
アンジェニューは世界中のシネカメラメーカー向けにレンズを供給したので、今でも中古市場には多くの商品が出回っている。なかでも望遠系は価格が手ごろでコストパフォーマンスが高い。
Nikon 1用マウントアダプターを製造するメーカーは意外に少なく、ebayで見付けた「C → Nikon 1 アダプター」を使用して装着。Nikon 1のセンサーサイズは13.2×8.8mm。16mmシネカメラの画面サイズは10.26×7.49mmなので、ケラレが生じないばかりか、ほぼ同じ画角で撮影ができる。
特別にシャープというわけではないが適度なコントラストのおかげで、全体に落ち着いたノスタルジックな雰囲気に。このレンズはボケにクセがあると言われるが、実写結果を見る限りボケはとてもキレイ。特に奧に行くほど大きくなるボケからは立体感が強く出ている。
Nikon 1 V3 F4 1/640秒 ISO160 WB:オート
〈文・写真〉中村文夫