フルサイズセンサーをポケットサイズのボディに詰め込んだ「SIGMA fp」が10月25日に発売された。実写を交えつつ、その実力を紹介しよう。
フルサイズ・レンズ交換式でわずか370gという衝撃
ことカメラに関しては新製品発表のたびにファンをざわつかせるシグマが、今年7月に突如Lマウントのフルサイズミラーレス機「fp」を発表した。
シグマのデジタルカメラといえば、SDシリーズから一貫して3層構造のFoveonセンサーを採用。高感度描写や消費電力、レスポンスなどに弱点はあるものの、それを補って余りある色再現性と解像力を誇っていた。その哲学を一旦脇に置いて、fpでは一般的なベイヤー配列のセンサーを採用したのだ。さらにフルサイズかつレンズ交換式でありながら、EVFのない超小型ボディというスタイルで、過去最大級のインパクトを与えた。
これまでのシグマ製カメラといえば、何かしらの我慢をしながら撮影するのがお約束だった。しかしfpは本当にストレスフリー。起動がもう少し早くなるとありがたいが、AFや連写は快適そのもの。背面液晶はタッチパネル方式だし、今までのシグマ製品ならISO400でも勇気や諦めが必要だったが、ベイヤー配列のセンサーによってISO3200~6400といった高感度も躊躇なく使える。
その代償としてシグマらしさが失われたわけではなく、色再現や絵づくりはsd・dpシリーズを彷彿とさせる。RAWデータは汎用性の高いDNG形式なうえ、カメラ内で記録されるJPEG画像も美しく、これまでのシグマ製品より格段に使いやすい。
ベイヤー配列の裏面照射型センサーを搭載
約2460万画素の裏面照射型CMOSセンサーを搭載。従来のFoveonセンサーでは動画の記録が難しいことから、今回シグマとして初めて一般的なベイヤー配列を採用したと思われる。
幅112.6×高さ69.9×奥行き45.3mm、370gというコンパクトボディ
ボディの高さはレンズマウント外径とほぼ同じ。正面から見たときのサイズは、最近のスマートフォンより小さい。拡張性を考慮してストラップの吊り具はコインで脱着可能。ハンドストラップ派にはうれしい構造だ。
ハンドグリップでホールディング性アップ
別売りのアクセサリーで注目はハンドグリップ「HG-11」。さらにメーカー自らボディの三次元データを公開しており、さまざまなグリップが登場する可能性がある。
1日中撮影できる大容量バッテリー
バッテリーはsd Quattroやdp Quattroと同じ「BP-51」を使う。撮影可能枚数はメーカーから発表されていないが、かなり頻繁に撮影して1日で1本を使い切るかどうか、という感じだった。
熱暴走を防ぐヒートシンクを装備
fpの外装で特徴的なのは冷却のためのヒートシンク。動画撮影を想定しているのだろうが、試しに電源を入れっぱなしで1時間近く撮り続けたが、熱くて持てないとか、熱暴走で止まることはなかった。
詳細に調整できるトーンコントロール
トーンコントロールはオフ・オート弱・オート強の3 段階に加え、マニュアル設定が可能。ハイライトとシャドーをそれぞれ5段階(無調整を含めれば6段階)で調節できる。
専用ボタンを設け操作性を追求
背面液晶の下にトーンコントロールとカラーモードをそれぞれ呼び出すためのボタンが。あえてカスタマイズで割り当てるのではなく、専用ボタンを設けるところにシグマの哲学を感じる。
SIGMA fpで街スナップ!
フルサイズの緻密な描写がスナップを高品位に
緻密かつディテールがしっかり再現されているのはフルサイズセンサーならでは。sd・dpシリーズに搭載されているFoveonセンサーは光の乏しい場面を苦手としていたが、fpは状況を選ばない点も心強い。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN│Contemporary 絞り優先オート F4 1/100秒 ISO160 WB:オート
夜のスナップが手軽に楽しめる高感度画質
感度の上限は通常でISO25600、拡張でISO102400。FoveonセンサーのようにISO400ですでにノイジーということはなく、ISO1600~6400といったあたりは気兼ねなく使うことができる。
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SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN│Contemporary 絞り優先オート F2.8 1/30秒 ISO3200 WB:オート
新カラーモードは米映画界で流行するメリハリ強めの設定
ハリウッド映画で今主流となっている色調がティールアンドオレンジ。肌に含まれるオレンジ系の色と、その補色であるティール系(青緑)の色のコントラストを上げる。鮮やかで立体的な仕上がりが印象的だ。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN│Contemporary 絞り優先オート F2.8 1/320秒 ISO100 WB:オート カラーモード:ティールアンドオレンジ
メリハリのない光景をトーンコントロールで印象的に描く
曇天でメリハリのない状況だったので、トーンコントロールでハイライト・シャドーをそれぞれ最大の「5」、つまりハイコントラストに設定してみた。シグマらしい渋いトーンがさらに際立った印象だ。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN│Contemporary 絞り優先オート F5.6 1/100秒ISO160 WB:オート
高品位なモノクロ描写が楽しめる
モノクロの美しさがFoveonセンサーの特徴だったが、その点はベイヤー配列のセンサーにもしっかりと継承。撮って出しのJPEGでも深みのあるトーンが得られた。
SIGMA fp 45mm F2.8 DG DN│Contemporary 絞り優先オート F4 1/80秒 ISO1600 WB:オート
内蔵のFill Light機能で柔らかな光を演出
Foveonセンサー搭載機専用のRAW現像ソフト「SIGMA Photo Pro」でお馴染みだったFill Light機能をカメラに内蔵。マイナス1に振って光を柔らかく拡散させた。
SIGMA fp 85mm F1.4 DG HSM│Art 絞り優先オート F1.4 1/640秒 ISO100 WB:オート
小型シネカメラとしての「道具感」がたまらない
fpはヒートシンクやスイッチ類のデザインからわかるとおり、動画撮影を意識して設計されたカメラだ。シグマ製シネレンズはハリウッドで着実にシェアを伸ばしており、シグマはfpを機動力のあるシネカメラと位置付けている。とはいえ静止画の撮影で不自由があるわけではない。コンパクトなことと操作部のレイアウトが巧みなおかげで、使い勝手はすこぶる良好だ。
今回は主に45mm F2.8との組み合わせでスナップを撮影したが、電子シャッターのみという構造のため、シャッターを切っても音や感触がない。最初はやや違和感があったが、慣れると気にならなかった。顔認識などの機能はあるものの、シンプルかつソリッドな感覚は新鮮だった。おそらくfpと45mmのセットはスナップカメラとして人気を集めるだろうし、オールドレンズを装着して遊ぶのも楽しそうだ。
動画用システムで活躍する拡張性を実現
四角くて小さいのは、携行性を高める目的もあるが、動画用のシステムに組み込みやすくするためでもある。外部機器と合体するためのリグや、大型ドローンに据え付けることも想定している。
動画と静止画をワンタッチで切り替え
シグマでは本格的なシネカメラとしての需要も見込んでおり、動画と静止画の切り替えスイッチはボディ上面の電源スイッチ横という一等地にある。
SIGMA fpの主な仕様
SPEC
●撮像素子/有効約2460万画素35mmフルサイズ裏面照射型ベイヤーCMOSセンサー
●レンズマウント/Lマウント
●ISO感度/ISO100~25600(拡張ISO6、12、25、50、51200、102400)
●AFシステム/コントラストAF
●シャッター/電子シャッター(30秒~1/8000秒、Bulb)
●連写性能/最高約18コマ/秒
●液晶モニター/3.15型約210万ドット(タッチパネル)
●動画機能/4K/30p対応
●大きさ/幅112.6×高さ69.9×奥行き45.3mm
●質量/422g(バッテリー、記録メディア含む)
【ギャラリー】
写真・解説/鹿野貴司
※本レポートはベータ機を使用しています。