流氷に、ジュエリーアイス、タンチョウに、オジロワシなど、私の住む冬の北海道は被写体の宝庫といえます。しかし、大自然に囲まれているがゆえに、撮影地までの距離は遠く、その付近にはコンビニすらないのが常識です。これにプラスしてマイナス15度を下回ることも珍しくない寒さ。夜明けのシャッターチャンスを待っての車中泊は慣れた身とはいえ、辛いのも事実。そんなときに同じ駐車場に泊まっているキャンピングカーがうらやましくなります。暖房の効いた暖かい室内で手足を伸ばしてゆっくりと眠れると、夜明けの撮影も気力十分で挑めるのではないでしょうか。
そんな夢の撮影機材(!?)、キャンピングカーを手に入れるのはどうしたらいいのか? 実際にキャンピングカー専門店で聞いてみました。
いちばん重要なのは「何に」「何人で」使うのか
今回は、北海道最大級のキャンピングカー専門店で30年以上の歴史があるキャンピングレンタサービス工業株式会社(https://www.camperservice.jp/)の代表取締役・橋爪顕次さんにお話をうかがいました。
--キャンピングカーが欲しいと思ったら、最初に考えるべきことはなんでしょうか?
橋爪顕次さん(以下、橋爪):実は非常に基本的なことなのですが、大切なのは「何に」「何人」で使うかです。そんな当たり前のことと思うかもしれませんが、これがかなり重要です。
まずは、キャンプ場にテントを張って本格的なアウトドアの拠点として使うのか、道の駅などを巡りながら地方のおいしいものや温泉などを巡る旅をしたいのか、それとも普段は庭に置いて、非常時の移動可能な避難所として使うのか、など実際にご自身が「何に」キャンピングカーを使うのかを最初にはっきりさせるとよいでしょう。
次に「何人」で使うか。家族が5人だから、単純に5人という考え方もあると思うのですが、実はそうとも限りません。趣味に使うだけなので実際に使うのはひとりという考え方もありなのです。子育て中で家族みんながいっしょに出掛けるなら家族全員でしょうし、子育てが終わって夫婦ふたりで出掛けるならふたりで使う前提になりますよね。
また、これはキャンピングカーならではといえる問題ですが、乗れる人数と寝ることができる人数が違うことも考慮して考える必要があります。なんでもできるものと考えてしまうと、クルマも大きくなりますし、予算も増えますよね。
さまざまな種類があるキャンピングカー。まず選ぶべきは「エンジンの有無」
--「バンコン」や「キャブコン」、「軽キャンパー」など、さまざまな車種があるようですが、どうやって選んだらよいのでしょうか。
橋爪:弊社が無料配布しているオリジナル「THE CAMPING CAR 2019 北海道のキャンピングカーカタログ」にも「キャンピング車の日本市場における呼称」というページを設けているほどで、一般の方にはキャンピンカーの車種は少しわかりにくいですよね。
大きくわけて「フルコン」「キャブコン」「バンコン」「カスタムバン」「バスコン」「軽キャンピングカー(軽キャンパー)」「トラベルトレーラー」「ピックアップキャビン」「パークトレーラー」の9種類があります。明確な規定ではないのですべてをしっかり覚える必要はありません。
ピックアップトラックの荷台に必要なときに装着する「ピックアップキャビン」と牽引するタイプの「トラベルトレーラー」や「パークトレーラー」などのトレーラーは、エンジンのついていないものになります。また、エンジンを搭載するタイプでも日本ではトラックをベースにした「キャブコン」、バン、ミニバン、ワゴンをベースにした「バンコン」、軽自動車をベースにした「軽キャンピングカー」を覚えておけば、最初は十分でしょう。
最初に考えることは、エンジン付きのキャンピングカーにするのか? それともエンジンなしのトレーラータイプにするのか? です。
エンジンなしのトレーラータイプは、普段は家の庭などに置きっぱなしにして離れとして使い、キャンプ場などまで牽引したあとはトレーラーをベースキャンプにして、近くの温泉や観光地巡りは牽引に使ったヘッド車だけで回る…という方にとって便利です。
逆に移動することがメインになる旅行を検討している場合は、エンジン付きのキャブコンやバンコン、軽キャンピングカーなどが選択肢になるといえるでしょう。まずはエンジンのある/なしが大きな分かれ目になります。
「日常の移動手段として通勤などにも使うかどうか」が次の選択ポイント
橋爪:エンジンのある/なしでエンジンのあるタイプを選択した場合、日常の移動手段として通勤などにも使うのかどうかが次の判断基準です。
通勤は電車なので関係ないという方も多いでしょうが、ポイントとしてはクルマを2台所有するのかどうか、といった部分になります。日常の移動手段とは別にキャンピングカーを購入するとなると、当然税金や保険料なども2台分必要です。また、駐車場も2台分を確保しないといけません。
燃費を気にされる方も多いのですが、ベースの車種にもよりますが、バンコンとキャブコンで燃費はさほど変わりません。なにせベース車がいっしょということもあるくらいなので、実は大きな違いは車高になります。ご自宅の車庫のサイズもありますし、日常の移動手段と兼用ということになると立体駐車場の高さ制限なども問題になってくるわけです。このあたりを気にしない、もしくは問題にならないというお客様だとキャブコンで通勤されている方も実際にいらっしゃいますよ。背の高いキャブコンは室内で普通に立って歩けるので非常に快適ですしね。
これに対して最近人気のバンコンは、ハイエースなどをベースにして、キャプコンほど車高を高くしていないので、通勤などにも使いやすいのが人気の理由のひとつです。軽自動車をベースとした軽キャンピングカーになると、クルマの大きさや燃費といったところのメリットは大きいのですが、居住性と利用する人数の問題が発生します。軽キャンピングカーだと利用人数はやはりひとりからふたりといったところが現実的なイメージでしょうか。
実は「何に」「何人で」「普段の移動手段としても使うのか」がはっきりしていると、その他の条件が違っても、大まかな車種といいますか、クルマの大きさは決まってくるはずです。何がほしいのではなく、何をしたいのか? がキャンピングカー選びではとても重要だと思います。
ここから、さらに具体的な車種や装備などを決定していくのですが、現在、日本国内には約300のキャンピングカーのベンダーがあるといわれています。そして、多くのショップが特定のメーカーのキャンピングカーしか扱っていないということが多いので、最初は多くのメーカーの車種を扱っているショップで話を聞くか、いくつかのショップをまわってみるのがおすすめです(キャンピングレンタサービス工業株式会社は国内15メーカーの正規代理店を務めているそうです)。
実際の予算は軽で300万円台、バンコン・キャブコンで500万円〜1,000万円オーバー
--キャンピングカーの選び方はなんとなくわかってきましたが、予算はどのくらいで考えたらよいのでしょうか?
橋爪:キャンピングカーは決して安くはありません。高価なものといえるでしょう。ざっくりとした予算感でいうのならば、だいたい軽自動車をベースとして軽キャンピングカーで300万円台。ハイエースなどをベースとしたバンコンで500万円〜1,000万円オーバーが目安です。趣味のものなので高いものはいくらでもあるともいえますが……。そして、トラックをベースにしたキャブコンも実は同じ価格帯で、だいたい500万円〜1,000万円オーバーとなります。
カタログなどではもっと安いものがたくさんあるのでは? と思った方もいるのではないでしょうか。多くのキャンピングカーのカタログが、弊社もそうなのですが、○○万円〜という表記になっています。これはオプション装備なしの始まりの価格です。
例えば、北海道で冬も使うと考えるなら、4WDであること、FFヒーター(クルマのエンジンを切った状態で使用できる強制排気タイプの暖房装置)、窓ガラスを断熱のために2重サッシにする、リアラダー(はしご)の装着(冬季の雪下ろしのために必須)、車体自体にしっかりとした断熱材を入れるなど、購入後では難しい部分については購入時に最低限のオプションを選択することをおすすめしています。これにそれぞれのお客様のご希望のオプションなどを装備すると、経験則的な数値ですが、だいたい最低限の始まりの価格に180万円くらいプラスが全体の価格になることが多いです。
最大180回、15年ローンも可能なキャンピングカー事情
--価格を聞くと、やはりなかなかハードルが高そうな気がしてきたのですが……。
橋爪:決して安いとは思いませんが、日常の移動手段と兼用するならば、大型で高級な国産のSUVやラグジュアリーワゴンが同じような価格帯であることを考えると、本当に欲しいと思えば決して買えない価格ではないと思います。そして、同じ値段帯の普通のクルマを買うよりも、実はキャンピングカーを買うほうがハードルは低いのをご存知でしょうか。
キャンピングカーの購入の際はローンをおすすめしています。クルマのローンというと長くても60回、5年のローンというイメージで、しかも下取りではほとんど値段の付かない印象の方も多いかと思います。一方で、キャンピングカーのローンでは120回(10年)も珍しくないですし、180回(15年)といったプランも可能になっています。ローンの年数やボーナス払いをどうするかなどはありますが、月々の支払いは3万円前後からで大丈夫なので、年収でいうなら300万円を超える方なら、十分に購入を検討いただけると思います。
特に、もうすぐ定年でリタイア後はゆっくり夫婦ふたりでキャンピングカーを使って日本一周…といったことを考えている方は、ぜひ実際に定年される前に長めのローンでキャンピングカーを購入することをおすすめしています。この方法だと、手持ちの現金が急に減ることもなく、リタイア生活をゆったりと楽しめるのではないでしょうか。
こんなに長いローンが可能な理由のひとつに、キャンピングカーの中古価格が高いことと、かなり長い間乗っても価値がなくならないことがあります。普通のクルマであれば10年も乗れば、基本的に中古での価値がほぼなくなってしまいます。しかし、キャンピングカーは価値が全くなくなるということはなかなかありません。弊社でも下取りや買い取り、中古キャンピングカーの販売などを行っていますが、一般的な中古車に比べて下取りや買い取りの価格はかなり高いと思います。
ということは、1,000万円のキャンピングカーをローンで買った場合に、もしローンの途中で何らかの理由でクルマの運転ができなくなったとか、家族構成などが変わったので買い換えたいということが起きても、残債にローン中のキャンピングカーを売却したお金を当てることもできます。
需要と供給のバランスで状態のよい中古キャンピングカーは高値傾向に
--中古キャンピングカーのお話が出てきましたが、新車と比べたときの注意点などはありますか?
橋爪:弊社でも中古のキャンピングカーは扱っているのですが、日本国内で中古のキャンピングカーは流通している台数が少なく、基本的に価格は高めです。中古での買い取り価格が高いということは、そのまま中古価格が高いということになります。また、このところ北海道だけでなく、日本国内で自然災害が多いですよね。そんなときの避難場所としてキャンピングカーの価値が見直されている部分もあって、持っている方は手放さないうえに、手頃で程度のよいものはすぐ売れてしまうといったこともあり、中古での購入はなかなか難しいのが現在の市場状況ではないでしょうか。
また、キャンピングカーならではといえる中古車の問題もあるのです。大きな問題は修理になります。弊社の場合は国内15メーカーの正規代理店で、自社内に整備・修理工場をもっていますが、修理工場をもっていない中古販売店もあるでしょう。また、キャンピングカーを修理できる工場は意外と少なくて、自社のお客様のクルマの整備だけで手一杯というショップも珍しくありません。ベース車が国産などであれば、ベース車の部分は各社のディーラーに持ち込めばいいのですが、キャンピングカーとして改造された部分はお手上げということも起きてきます。
そういった意味では、中古で検討するにしても、新車で買うにしても、自社工場をもった地元のショップで、アフターサービスのことも考えて購入することをおすすめします。下取りの価格などを考えると、いまの市場の需要と供給の関係を見る限り、新車をおすすめしたいところです。
レンタルキャンピングカーなら当日1万円〜手軽に試せる!
--いまさらですが実は運転にあまり自信がなく……。キャンピングカーはかなり大きなトラックベースのキャブコンや大型バンベースになるものが多いようですが、誰でも運転できるものでしょうか。
橋爪:基本的に一部の車種を除くと普通自動車免許で運転可能です。運転は慣れていただくのがいちばんだとは思うのですが、心配だという気持ちはわかります。しかし、実はトラックベースのキャブコンよりも、車種によってはバンコンのほうが全長の長いこともあるのです。例えば、弊社のレンタル車両のバンコンでは全長が約5.38m、幅が約1.88mなのに対して、カムロードというキャンピングカーのベース専用に開発されたトラックをベースにしたキャブコンは全長が約4.99m、幅は1.98mとなっています。トラックベースのキャブコンは車両に高さがあるので扱いづらい印象を受けがちですが、必ずしもそうとは限らないのです。
運転席の位置の高いキャンピングカーは慣れてしまえば思った以上に運転しやすいです。まずは一度試してみたいと考えるなら、キャンピングカーのレンタルを利用してみるのもおすすめです。弊社の場合、WEBからもレンタル可能で長めの試乗気分で利用いただける「日帰り」であれば1万円(税別)からとなっています。車種のカテゴリーがAからCの3タイプで、もっともお手軽なバンコンのAタイプなら1泊2日(24時間まで)で2万円(税別)〜、もっとも高価なグランドハイエースをベースにしたキャブコンなどのCタイプでも6万円(税別)〜です。
別料金にはなりますが、寝袋&枕(1組2,000円)、PC製食器セット&コッフェル(2,000円)、発電機(10,000円)といったオプションも用意できますので、まずは友人や家族といっしょに北海道でレンタルを利用してキャンピングカーデビュー……といった旅行計画も簡単に実現できます。
キャンピングカーは欲しいと思ったときが買い時
--キャンピングカーというとリッチな趣味というイメージがありましたが、思ったよりも敷居が高くないようで安心しました。
橋爪:どうしても500万円とか、1,000万円とか価格が高いので、敷居が高いように思われる方も多いようですが、先ほどもお話ししたとおり、普通のクルマよりも組めるローンの期間が長くて、金利もさほど高くないですし、なにかあったときに売却しても中古価格が高いので、興味のある方はぜひ気軽にショップに来て、いろいろと質問してみてください。
今回、説明したおおざっぱな車種の方向性が決まったあとは、全国で約300社、うちで取り扱っているメーカーだけで15社もありますから、まずは実物をご覧いただき、カタログなどもお持ち帰りいただけるとうれしいです。特に新車の場合は、細かなオプションの選択など、まさに自分のためにカスタマイズされたキャンピングカーになりますから、これらを選ぶのも楽しい時間だと思います。
また、キャンピングカーは、欲しいと思ったときが買い時です。独身時代の一人旅、結婚してふたりでの旅行、子育て期の家族旅行、子育てが終わった後の再び夫婦ふたりのキャンピングカーでの長期旅行など、目的や家族構成の変化で選ぶ車種も変わってくると思います。買って、乗って、買い換えてなどの長い付き合いのできるショップを選択するのがおすすめです。
まずはキャンピングカーショップに行ってみよう!
筆者自身、これまでキャンピングカーは一部のお金持ち向けのクルマといったイメージがありました。しかし、実際にショップを訪れてみると、普通のクルマでは考えられない長いローンが組めたり、バンコンなどを選択することで2台目のクルマではなくキャンピングカーで日常の移動手段も兼用したりすることで、ちょっと頑張ればキャンピングカーの購入は検討できそうなことがわかりました。
購入前にキャンピングカーをレンタルして、実際の撮影に使ってみれば、どのくらい便利で、何が不自由なのかもはっきりしてくるでしょう。車種やオプションの選択肢が無限に近いのは、インタビュー後にいただいた山のようなパンフレットからも想像できます。これらのパンフレットでキャンピングカーへの理解をさらに深め、まずはタイミングを見てレンタルキャンピングカーにも挑戦してみようと思いました。
何よりもキャンピングカーの寿命は思った以上に長く、購入への敷居は思ったよりも高くないということです。長い付き合いになるキャンピングカーの購入は、購入後のアフターケアも含めたキャンピングカーショップとの長い付き合いの始まりにもなるので、ネットでの価格のチェックだけでなく、まずは実際に地元のキャンピングカーショップを何軒か訪ねてみることからはじめるのがよさそうです。