機材レポート

撮影用に大型バッテリーをクルマに積んでいた写真家が電池容量約1/9のポータブル電源「suaoki S270」に買い換えた理由

デジタルカメラのバッテリー、データバックアップ用のノートパソコン、地図や天気を調べるためのスマホ、さらにはインターネット通信のためのポケットWi-Fiなど、いまや撮影時の必需品はほとんどがバッテリー駆動だ。そのために多くのフォトグラファーがさまざまなポータブル電源を確保していると思う。実際筆者も電池容量115Ah(12V)の大型バッテリーをクルマに積んでいた。しかし、ある理由から電池容量が約1/9のポータブル電源「suaoki S270」に買い換えた。今回はその経緯とレビューをお届けする。

▲suaoki S270はsuaokiのポータブル電源のなかでも小型軽量で、実勢価格も1万円前後とコストパフォーマンスの高いモデルになっている。

 

どうせなら大容量であればあるほどいいだろう…という落とし穴

筆者は北海道在住なのだが、車中泊での1泊2日や2泊3日といった北海道内の短い撮影旅行に出掛ける機会の多い生活をしていると、その期間中の電源の確保をどうするかは、切実な問題になる。

 

ネットで「車中泊 電源」などで検索すると、多くのポータブル電源が紹介されており、大きさや価格、電池容量などもさまざまだ。それらを見ていると、安くて大容量の電源を確保すればデジタルカメラのバッテリーやノートパソコン、さらには電気毛布や電気調理器、果てには大型モニター、家庭用ゲーム機のPS4まで動かせることに気づき、ついやってみたくなるのではないだろうか。というか、筆者は実際にやった。

 

現在の小型ポータブル電源で主流のリチウムイオン電池とは異なり、大きくて重くはなるが安価で大きな電池容量を確保できる鉛蓄電池。そのなかでもモーターボートなどのマリン用やキャンピングカーなどのサブバッテリーとして大型・大容量・低価格で人気のACDelcoの「マリン用メンテナンスフリーバッテリーM31 MF」をミニバンに積み込んだのである。バッテリー本体の大きさは330mm×173mm×237mm、質量は約26.5kg。筆者が実際に購入した価格は13,080円(税込)であった。電池容量は115Ah(12V)となっている。

 

車載用のバッテリーだけでは電気を取り出すことができないので、車内での使用の安全性も考えて「バッテリーBOX インジケーター付(USB対応)60Aヒューズ付 C11517-1」も購入。価格は11,980円(税込)。さらに、これだけでは充電ができないので充電器の「Meltec SC-1200」を4,968円(税込)で購入、交流(AC)として電気を取り出すにはインバーターも必要なので「CELLSTAR Power Inverter Mini(最大出力350W)」(購入価格約4,000円)も導入した。

 

こうして総額約35,000円をかけ、総重量約30kg、最大出力350W、電池容量115Ah(12V)の電源システムを組み上げた。だが実際のところ、重いうえに充電時の音が大きすぎてほとんど使っていない。

▲約29kgのバッテリーをクルマから降ろして充電を行っている様子。充電時の音が大きい。安価で大容量だが、大きくて重くて、うるさいのが弱点である。

 

大容量にこだわらず、必要最低限に絞って買ったsuaoki S270

大容量の電源を確保すれば、クルマのなかでなんでも動かせると考えて購入したマリン用メンテナンスフリーバッテリーM31 MFは、重くて、うるさくて思った以上に短期の撮影旅行という使い道には不向きであった。そこでいま一度、必要なスペックを考え直してみることに。

 

基本的に短期間の撮影旅行では、朝は日の出前から、夜は星の撮影まで行って、車内で5時間前後仮眠ができればよいほうというスケジュールなので、PS4で遊んだり、車内での電気調理器を使って調理をしたりするどころかノートパソコンすら開かないことが多い。メールなどのチェックはスマホでしているし、2〜3日分の撮影データであればパソコンにバックアップしなくても記録メディアは足りている。

 

撮影旅行中は基本的にクルマで移動しているので、エンジンの掛かっている時間帯はクルマのシガーソケットから電源を確保できる。1日のなかでもっとも長くエンジンを切る仮眠時間の5時間前後、この時間にカメラのバッテリーやスマホ、ポケットWi-Fiなどを充電できればそれでいい。

 

撮影旅行先であれもできれば、これもできればと夢や希望といっしょに膨れ上がってしまうのが電池容量だが、現実的なところスマホとポケットWi-Fi、デジタルカメラ用のバッテリー充電器がひとつか、ふたつ、状況によっては撮影データのバックアップ用にノートパソコンが短時間動かせれば十分なのである。スマホとポケットWi-Fiの消費電力がUSB 2.0までなら2.5W、USB 3.0なら4.5W、デジタルカメラのバッテリー充電器は大容量のものでもだいたい30W程度、ノートパソコンも20〜50W程度なので同時使用で最大100W程度の出力が確保できればよいわけだ。

 

また、ポータブル電源において、電池容量の大きいことは基本的によいことなのだが、電池容量が大きくなるほど、大きく、重くなり価格も高くなる傾向にあるので、今度は最低限のものを選択するとように心掛けた。さらに重要なポイントは、クルマのシガーソケットから走行時に充電ができること。クルマでの充電ができると大容量でなくても、昼間の撮影時にポータブル電源を充電しておけば、夜の仮眠時にはまた電源の供給が可能になるからである。あとはUSBと交流の家庭用電源タイプで約100Wの出力を確保できること。

 

以上の条件をクリアして、通販サイトなどでも評判のよく、以前から気になっていた「suaoki S270」を選択した。

▲今回はAmazonで購入。バッテリー本体はしっかりとクッション材に包まれており、予想以上にしっかりとした梱包だった。

 

▲届いたsuaoki S270と付属品をすべて並べてみた。本体、家庭用電源からの充電コード、シガーソケットからの充電コードなどが最初から揃っている。

 

多くのユーザーの要求に応える作りのよさ

suaoki S270を購入した理由は、先に述べた条件をクリアしていたことと、「suaoki」ブランドが気になっていたからである。Amazonなどのネットショップでポータブル電源を検索すると上位に同ブランドの商品が多数表示され、評価も高く、値段も手頃。調べてみると2015年に中国・深センで設立された電源ブランドだという。近頃の深センにはドローンのDJIを筆頭にカメラ・レンズ関連では七工匠や銘匠光学、ストロボのGodoxなど、十分以上の品質を備えたユニークな商品を提供するブランド・メーカーがそろっている印象である。

 

ちなみに今回の購入価格は9,960円(筆者購入時)。Amazonタイムバーゲンで購入した。改めて値段を確認すると、13,280円になっていたので、タイミング的にはラッキーだったのだろう。

 

家庭用交流電源からの充電コード、クルマのシガーソケットからの充電コード、太陽光パネルからの充電コード、さらにシガーソケットタイプの機器への電源供給ケーブルと最初からの同梱されているコード類も充実している。

 

まずはsuaoki S270から電気を供給できるコネクター類を見ていこう。

▲USBのコネクターが4つ。うち3つは最大10.5W、残りひとつはQC(Quick Charge)3.0に対応するコネクタで最大18Wにまで対応する。

 

▲家庭用交流(AC)電源タイプのコネクタがふたつ。ACを使用しないときには、この部分だけ電源をカットすることもできる。

 

筆者の希望する用途では、USBと家庭用交流電源だけでいいのだが、それ以外のコネクタ類も充実している。

▲4つ用意されたDC(直流)コネクタ。最大15A、180Wまで使用可能。このコネクタからシガーソケットタイプへの給電もできる。

 

▲あまり使うことはなさそうだが、LEDライトも装備されている。上に見える「DC IN」は充電用のコネクタの差し込み口だ。

 

充電については、家庭用AC電源、クルマのシガーソケット、さらには太陽光パネルの3種類に対応。suaoki S270からの電源供給については、USBが4つ、家庭用AC電源がふたつ、DC電源が4つで、DC電源はシガーソケットへの変換が可能になっている。suaoki S270への充電方式も、suaoki S270からの給電方式も、オプション部品を購入することなくほぼカバーされているといえるだろう。よくできたポータブル電源である。

 

また、suaoki S270の電池容量は3.7V 40,500mAh/11.1V 13,500mAhとなっており、質量は約1.3kg、大きさは184.5mm×109.5mm×118.5mmと小型軽量に仕上がっている。

▲スマホやポケットWi-Fiをつないでいないが、実際のクルマで使う様子を想定して接続した。シガーソケットからの充電が可能である点が大きい。

 

suaoki S270の修正正弦波について

suaoki S270を買うか、もうひとつランク上のsuaoki S370にするかを、筆者は最後まで悩んだ。suaoki S370は実勢価格が約39,000円と筆者がsuaoki S270を購入した際の価格と比べると約4倍、大きさは約245mm×153mm×154mm、質量は約3.3kg、電池容量は322Whという製品である。しかし、悩んでいた最大の理由は電池容量ではなく、家庭用AC電源の出力が「純正弦波」であることだ。suaoki S270は「修正正弦波」である。

 

ポータブル電源の純正弦波と修正正弦波については、多くの方が悩む問題ではないだろうか。細かな違いや影響などは専門家ではないので説明できないのだが、筆者が理解した範囲でいうと、普段我々が使っている家庭用電源にきている電気は交流の純正弦波であり、曲線の周波をもっている。これに対して直流電源を元にインバーターで交流電源を発生させるポータブル電源のなかでもsuaoki S270のように安価なものは電源の周波が階段のような直線で擬似的な波を発生させている。高価な純正弦波の電源では家庭用の電源と同じように曲線を描くという。

 

これによってどういった違いがあるのか。調べたところ修正正弦波ではACアダプターを傷めたり、寿命を短くしたりするという表現をみかけるが、設計の新しい機器での修正正弦波では影響は小さくなっているようだ。しかし、インバーター式の蛍光灯や電気毛布など電源の波形に動作の一部を依存する機器やモーター駆動系の電動工具やポンプ、洗濯機、掃除機などの駆動、医療系精密機器には修正正弦波は使用できないこともあり、機器の寿命が短くなったり、故障の原因になったりすることがあるという。

 

とはいえ、筆者が実際のところsuaoki S270の交流電源で使用したいのはノートパソコン(MacBook Pro)とデジタルカメラに付属するバッテリー充電器だけである。スマホやポケットWi-FiはUSBコネクタから充電する。

 

suaokiのWEBページを詳細に見ていくと、充電できるデバイスと回数の表が公開されていた。そこにはsuaoki S270はMacBook Air(50.3Wh)が1.5回充電できると表記されていた。また、別のページのAC(交流)電源で使用できるものの例にMacBook Pro 13”(64W)が1.2時間と明記されていることを確認して、suaoki S270でノートパソコンへの電源供給に問題がないと判断した。

 

筆者の場合、suaoki S270で充電したい機器や使用目的がはっきりしていたので、以上の理由から修正正弦波のsuaoki S270を購入することにした。しかし、どの機器が使用できないか毎回判断するのは面倒といった場合や、機器の消耗などに不安がある場合は、やや高価にはなるが純正弦波のポータブル電源を選択すると安心だろう。

 

重さは約1/22、電池容量は約1/9

 

▲マリン用メンテナンスフリーバッテリーM31 MF+バッテリーBOX インジケーター付(USB対応)60Aヒューズ付 C11517-1とsuaoki S270の比較。

 

suaoki S270は質量約1.3kgで電池容量は3.7V 40,500mAh/11.1V 13,500mAh。これに対してマリン用メンテナンスフリーバッテリーM31 MF+バッテリーBOX インジケーター付(USB対応)60Aヒューズ付 C11517-1は質量が約29kg、電池容量は115Ah(12V)である。

 

質量は約22.3倍。電池容量は、まずなんとなく単位を合わせるだけでもsuaoki S270が13.5Ah(11.1V)に対してマリン用メンテナンスフリーバッテリーM31 MFが115Ah(12V)。しかし、これではよくわからないのでAhからWhに変換してみる。

 

suaoki S270・・・13.5Ah×11.1V=約150Wh

マリン用メンテナンスフリーバッテリーM31 MFは・・・115Ah×12V=1380Wh

 

ここから考えると、約9.2倍の電池容量の差といえる。質量約22.3倍の差ほど電池容量の差はないともいえる結果だ。とはいえ、電池容量を約1/9にして、撮影旅行には影響はないのだろうか。

 

電池容量が約1/9でも問題ないと判断した理由

▲キヤノンとソニーのデジタルカメラ用充電器、スマホ、ポケットWi-Fiを接続した状態、機材全体を広げても助手席の座面だけで収まるのがうれしい。

 

これまで使用していたマリン用メンテナンスフリーバッテリーM31 MFの1/9の電池容量であるsuaoki S270でもクルマでの撮影旅行なら電池容量が足りると筆者が考えた最大の理由は、シガーソケットからポータブル電源への充電が可能であるためだ。クルマのエンジンが掛かっている状態で、シガーソケットから電力が供給されていれば、suaoki S270自体への充電が可能である。

 

そのため、ノートパソコンやカメラの充電器、スマホやポケットWi-Fiに電力を供給しても、充電後にクルマのシガーソケットから充電を行えば、電力が不足することはほぼないと考えたわけだ。

 

さらに一歩進んで、クルマのシガーソケットからsuaoki S270に電力を供給したまま、すなわち充電しながら、各デバイスに電力を供給できないかとも考えた。充電しながら給電も行うスタイルである。これはパススルーなどと呼ばれる機能なのだが、残念ながらsuaoki S270は非対応。suaokiではパススルー機能のある機種は2020年4月現在suaoki G1000のみ。suaoki G1000は実勢価格約18万円の大型バッテリーになる。今回の用途にはちょっと向かない。当然、suaoki以外の製品でパススルー機能も搭載した価格・容量なども適度な製品はないかと探したのだが、適当な製品は発見できなかった。

 

suaoki S270への充電コードを接続したままで、給電のコネクタに各種デバイスを接続すると、充電と給電が同時に行われる。ただし、パススルー機能のように設計上計算された機能ではないので、メーカーの推奨外でありバッテリーの寿命が低下するという。そのため、suaoki S270の充電と、その他デバイスへの給電の切り替えは各コネクタの抜き差しで管理しながら使用している。

 

少々面倒ではあるのだが、suaoki S270は非常にコンパクトなので、suaoki S270自体はもちろん、バッテリー充電器やスマホ、ポケットWi-Fiなどを含めても、助手席の座面だけのスペースで十分に機材を広げることができ、おかげでそれぞれの充電状態の管理も簡単なので、suaoki S270に充電を行うべきか、デバイスに給電を行うべきかの判断はとてもしやすかった。

▲撮影旅行用のポータブル電源として重要なポイントである走行時充電を可能にしてくれる、シガーソケットからの充電コードのコネクタ部分。

 

実際の撮影旅行を想定して使用してみた

電池容量150Whのsuaoki S270はポータブル電源としてあまり大きな電池容量の製品ではない。そこで実際の使用感を検証するべく、クルマに積んで、1泊2日の撮影旅行を想定してテストを行った。自宅駐車スペースに止めたクルマのなか(当然エンジンは止まっている)でsuaoki S270から2本のカメラ用バッテリーに充電、さらにポケットWi-Fiは使用状態で放置し、翌日の朝、バッテリーの状態を確認した。

 

結論からいうと、非常に満足いく結果であった。普段の撮影旅行であれば夜中まで撮影して、早朝までの5時間前後suaoki S270のバッテリーが持てばよい。今回のテストでは日没後から翌日の午前中と長めになったが、suaoki S270につないだままにしていた2本のカメラ用のバッテリーも充電が終了していたし、ポケットWi-Fiも翌日の朝まで給電され信号を発信していた。

 

気になって、再度計算してみたのだが、suaoki S270は150Wh、普段筆者が使っているキヤノン EOS 6D Mark II用バッテリーのLP-E6は13Wh、ソニー α7R III用バッテリーのNP-FZ100が16.4Wh、ポケットWi-Fiが13.3Wh、スマホiPhone 8 Plusは10.28Whである。合計52.98Wh。充電時のロスなどがあるとしても、クルマのなかでsuaoki S270自体を充電できる環境であれば、カメラのバッテリーやスマホ、ポケットWi-Fiの充電にはsuaoki S270で十分といえる。

 

【まとめ】細かな不満点はあるが価格を考えると満足度は高い

筆者は非常にタイミングよく、アマゾンのタイムバーゲンで購入したため、1万円を切る価格であったこともあり、suaoki S270はとても満足度の高い買い物であった。

 

ただし、すべてに満足かと聞かれると、不満点はいくつかある。もっとも大きな不満点は、充電をしながら給電をするパススルー機能が搭載されていないことだ。suaoki S270クラスのポータブル電源では搭載する製品を見つけることはできなかったが、ポータブル電源よりも小さなモバイルバッテリークラスの製品ではパススルー機能を搭載するものがあるので、大きさや価格の問題でないなら、ぜひ搭載してほしい。クルマのシガーソケットから充電したまま、ほかのデバイスに給電できると充電管理は格段に楽になるはずだ。

 

また、AC(交流電源)が修正正弦波であること。現状の筆者の使い道では問題はないのだが、新しい機器に給電する前に、修正正弦波でも問題ないか確認するのがやや面倒である。純正弦波の製品も低価格が進んでいるので、純正弦波になるとより使いやすいといえる。

 

さらに細かな点としては、suaoki S270の充電を行うコネクタには外径3.4mmのDCプラグジャックが採用されているのだが、クルマのなかなど揺れる場所で充電を行うことを考えると、やや細くて心細い。外径5mm以上のDCプラグジャックだと安心感も増すと思う。

 

suaoki S270には現状とても満足しているが、パススルー機能付きで純正弦波、150Whクラス、1万円前後の製品が発売された際には、また買い換えると思う。

 

ちなみに、重くて大きくて、うるさいと酷評したマリン用メンテナンスフリーバッテリーM31 MFを中心にしたバッテリーシステムはその大容量を活かし、自宅の非常用電源として活用している。短期撮影旅行用のバッテリーシステムには向かないが停電時などの予備バッテリーとしては今後も活躍してくれるだろう。北海道・胆振東部地震での大停電を体験したものとしては、非常時に予備電源があることのありがたさが身に染みているのである。電気がないということは予想以上に不便なので、さまざまな用途のポータブル電源が低価格で用意されているいまの状況は本当にありがたい。

▲suaoki S270の充電時動画。冷却用のファンも装備されているが、通常の充電時には動作しないようで、とても静かである。