プロの写真家はRAW現像で仕上げることを前提に撮影することが多い。しかし、その工程は意外にも簡潔だったりする。ここでは山本まりこさんが行っているRAW現像を3ステップで紹介しよう。
<Before(現像前)>
庭に咲く、雨上がりの花。マクロレンズで絞りF8に設定し、ほかはあえてオートで撮影した。背景には、赤と緑の葉が混じる隣家の垣根を選んでいる。
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<After>
ほぼオート撮影の写真を、RAW現像によってふわりと風が流れるようなエアリーフォトに仕上げた。イメージしたのは、雨上がりの爽やかな時間。
いつもはゴミを取り除く程度のレタッチしかしない
私は、風が通り抜けるという意味を持つ「airy(エアリー)」をテーマに写真を撮影している。写真を見た人が、ふわりと風を感じてくれたら嬉しい。さらには、その場の湿度や匂いなども写し撮ることができたらと思っている。だから、自分の作品を撮るときはいつもマニュアル撮影で、ホワイトバランス、コントラスト、シャープネス、彩度、D-レンジオプティマイザーなどの各設定も撮るときに全て決めている。ほぼJPEG撮りっきり。
現場で感じた興奮や感動を写真に収めるため、現場でできることは現場で行う。「RAW現像やフォトショップなどでレタッチしているの?」とよく聞かれるが、ゴミを撮るくらいでほとんどしない。
しかし、依頼を受けて撮影する場合は別だと考えている。私の仕事の中で多いのが建築の竣工写真撮影。このときは、クライアントの意向をいつでも反映できるようにRAW+JPEGで保存している。自分の作品を撮るときは「for me」、依頼を受けて撮るときは「for you」である。
そこで今回は、いつも現場で設定している撮影を、RAW現像するというかたちで現像行程を紹介する。カメラの設定でもRAW現像でも、することは同じ。エアリーフォトに仕上げるポイントは、明るさ、色合い、柔らかさ。この3つを調整していけば、風が通り抜けるようなエアリーフォトを描き出すことができる。
3ステップRAW現像術:階調補正で描写を柔らかくホワイトバランスで色味を変える
ステップ1. 「D-レンジオプティマイザー」で画像全体を明るく柔らかくする
まずは、ふわりと柔らかい写真に仕上げるために階調補正機能「D-レンジオプティマイザー」を調整する。オート撮影ではかなり重く沈んだ印象なので、ここではいちばん強い「+100」に設定してコントラストを低くした。すると、暗部の明るさが持ち上がり、全体的に明るく柔らかい印象になった。
<Before>
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<After>
ステップ2. 明るさを整えてハイキー調に仕上げる
次に、全体の明るさを決めていく。プラス側にスライドし、明るめの「+1.64EV」を選択。このとき注意するのは、白トビさせないこと。「エアリーフォト=ハイキー」ではあるが、「ハイキー=白トビ」ではない。白トビしないギリギリのところで表現するのが、美しいエアリーフォトに仕上げるコツの一つだ。
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ステップ3. ホワイトバランスを調整して雨上がりの雰囲気を引き出す
最後は、色合いの調整。雨上がりの爽やかな空気感を表現するため、色温度調整を「3600K」にして全体的に青味を加える。花はブルーがかった紫色に、背景の赤色は優しいピンク、深めの緑色は青みがかかった爽やかなグリーンに変化した。さらに、茎や背景のグリーンを少し弱めるため、色補正「+9」に設定して赤みをプラス。この少しの調整によってエアリー感がよりアップしている。これで完成!
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「D-レンジオプティマイザー」の活用法
エアリーフォトにとって、「D-レンジオプティマイザー」は必須機能。D-レンジオプティマイザーをプラスに設定することで、明暗差のある被写体のコントラストを低くし、明暗差を少なくできる。結果、全体が柔らかいトーンに包まれたような表現になる。カメラ側でも同様の設定が可能。