デジタル一眼レフからミラーレス一眼への移行が進み、撮影機材は軽くなっているはずなのだが、タイムラプス撮影など三脚で固定したカメラで長時間撮影する機会が増え、より安定した三脚がほしくなった。
これまでメインで使っていたパイプ径28mmの三脚「SLIK ライトカーボンE84」から、パイプ径32mmの「SLIK カーボンマスター 924 PRO N」に変更したところ、安定感が非常に増した。これに気をよくして、サブのトラベル三脚である「GITZO 1シリーズ 4段 6Xカーボントラベラー GT1541T」(以下、GITZO GT1541T/パイプ径実測で約24mm)もひとまわり大きなものに変更したいと考え、探し当てたのがパイプ径26mmの最新トラベル三脚「VANGUARD VEO 2X 265CBP」である。
多機能でありながらコストパフォーマンスは高い
GITZO GT1541Tについては、トラベル三脚として不満はほとんどなかった。あえて挙げるなら、高価であることと、サイズが小さいため身長168cmと小柄な筆者でも背面モニターを使った撮影時に高さがわずかに足りないことくらいだ。そのため、GITZO GT1541Tの最伸高1400mm、パイプ径24mm、質量970gをわずかに上まわる最新モデルとして、最伸高1500mm、パイプ径26mm、質量1310gのVANGUARD VEO 2X 265CBPを導入した。
VANGUARD VEO 2X 265CBPに決定した理由は、GITZO GT1541Tのメーカー希望小売価格が95,000円(雲台は別売)で実勢価格が15%引き前後と考えると(かなり昔に購入したので正確な価格は忘れてしまった)、そのほぼ半額とコストパフォーマンスが高く、一脚としても使用でき、そして2020年に発売が開始された最新のVANGUARD VEO 2Xシリーズの最上位モデルであったことなどだ。また、雲台の高さ込みのようではあるが最伸高がGITZO GT1541Tより10cm高いことも、筆者にとっては重要であった。
実際にVANGUARD VEO 2X 265CBPを使いはじめると、複数の三脚を使いわけている筆者には当てはまらない部分もあるが、旅先での三脚はこれのみ、あるいは基本的にVANGUARD VEO 2X 265CBPをメインの三脚として使うというユーザーにとって、納得のいく合理的な作りになっていることに驚く。カーボン三脚を何台も所有しているユーザーのほうが少数派であろう。
いざというときに一脚として使用できるのは非常に心強い
普段はさほど一脚は使わないし、三脚を組み替えて一脚として使えるのがそんなに便利だろうか? と最初は思っていた。必要なら最初から一脚を持っていけばいいではないか、とも考えた。
しかし、初めての旅先で現地に行ってみたら三脚は使用禁止で一脚はオッケーだったという場合、またはそれまで三脚が使えていた場所で今回も大丈夫だと思っていたら残念ながら三脚の使用が禁止されていた場合などを想定してみると、三脚が一脚になってくれるメリットは大きいと気づいた。なによりも三脚が一脚に組み替えられるデメリットはほとんどのないのだから、歓迎すべきだろう。ただし、センターポールの下のねじ込み式の小さな部品は、一脚状態にしたときもどこかにねじ込んで装着できるようにしておいてくれないと、筆者はそのうち紛失しそうな予感がする。
ハンドル付属タイプのユニークな自由雲台の使い勝手は?
はっきりいうなら、使いはじめた当初、なんで自由雲台ならロック機構ひとつですべてを固定、開放できるタイプを採用してくれないのだろうと思った。そして自由雲台にハンドルとはいったいどんな使い方をするのだ? と疑問に感じていた。いま思うと、自分が普段静止画を撮影することが多いので、動画を撮影する場合を想定できていなかったのだ。
考えてみると自由雲台のボール部分のロックと雲台自体の左右回転のロックが別々になっていると、ボール部分は固定して、左右にパンする動きが可能になる。静止画ではあまりメリットはないが、動画を撮影することを考えるとメリットは大きい。このパンする際にハンドルがあると、なめらかな動きで撮影を行うことができる。デジタルカメラの動画撮影機能が進化した現在、旅先で出合った景色を動画でも撮影したい思うのは自然だろう。そういう意味でもツーロックの自由雲台に取り外し式のハンドルという組み合わせは、より多くのユーザーの欲求を満たしてくれるといえる。
センターポール反転タイプは予想以上に便利!
トラベル三脚の多くは、収納時の全長を短くするために、脚部もしくはセンターポールが反転して折りたためるようになっている。GITZO GT1541Tは脚部反転タイプで、VANGUARD VEO 2X 265CBPはセンターポール反転タイプ。このセンターポール反転タイプの意外なメリットは、ローアングルからの撮影だ。
多くの三脚で最低高からの撮影を可能にするための短いセンターポールが別途用意されている。VANGUARD VEO 2X 265CBPにもローアングル用のセンターポール(ローアングルアダプター)が同梱されていた。ただ、普段から撮影している方ならわかってくれると思うが、撮影現場で実際にローアングル撮影をしたいと思ったときにローアングル用のセンターポールを携帯していないことも多い。そのために、ローアングル撮影を諦めた経験のある方も多いだろう。筆者もそのひとりだ。そんなときにもセンターポール反転タイプの三脚なら、カメラの上下は逆さまになるので操作性は落ちるが、ローアングル用のセンターポールがなくても超ローアングルからの撮影を可能にしてくれる。少なくとも、撮影を諦める必要がないのは大きなメリットだ。
コストパフォーマンスが高く、選択肢も多いアルカスイス互換
筆者の場合、レビューやテストのたびに異なる三脚やカメラ、レンズを使うことがよくある。そんなとき、クイックシューを使うと、まずクイックシュープレートを使いたいカメラに付け替えて、さらにクイックシュープレートをクイックシュークランプに取り付けるという二度手間になることが多く、普段は使っていない。
しかし、アルカスイス互換のクイックシュープレートとクイックシュークランプなら、プレートだけなら数百円から、クランプとセットでも千円台から、さまざまなメーカーのものが販売されている。普通のユーザーならカメラに取り付けるプレートを数枚買えば、すべてのカメラをクイックシューで取り付けられるはずだ。実際のところ、筆者もアルカスイス互換ですべてのカメラ、プラスαの予備も用意して統一するのもありだと思ったほどだ。
考えるほどによくできたパッケージングだが……
VANGUARD VEO 2X 265CBPは、多くのユーザーの欲求を満たすように設計された三脚といえる。知らず知らずのうちに筆者の撮影方法のほうが普通から外れていき、マニアックな要求になっていることに気づかせてくれた。筆者はカメラに搭載された二軸式のデジタル水準器を使うから、三脚のアナログ水準器は使わないなどと勝手に思ってしまう。だが、ちょっと前までデジタル一眼レフのエントリー機にはデジタル水準器のないものが多く、必要な装備なのである。VANGUARD VEO 2X 265CBPは、そういった多くの点に配慮された、よいトラベル三脚である。
ただし、気になったのが、価格やサイズの違うカーボン三脚を比べてしまうからかもしれないが、カーボンパイプがちょっとやわらかく感じ、操作感がややフカフカしている点である。今回は比べてみることができなかったが、ほぼ同じ仕様でアルミパイプを使用したVANGUARD VEO 2X 265ABPがラインアップされており、約200g重く、実勢価格は9,000円前後安い。カーボンパイプのやわらかさが気になる場合は、こちらを選択するのもありだろう。
元々所有していたGITZO GT1541Tのほうがパイプ径は2mm細く、約300g軽いのだが、価格が違うこともあってかカーボンパイプの剛性などは高く感じることが多く、VANGUARD VEO 2X 265CBPを導入したからといって、お役御免とはならないだろう。
一方で、海外での撮影旅行などに三脚を1台だけ、軽くてコンパクトなものをという条件であれば、一脚にもなり、ローアングル撮影にも強いVANGUARD VEO 2X 265CBPを持って行くと思う。ぜいたくでマニアックなことをいわなければ、オールラウンドに活躍してくれるよくできた三脚だ。