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コロナ禍の中、最多応募数を記録した「写真新世紀」2020年度のグランプリは樋口誠也さんに

これからの時代に向けて新たな表現者を見い出す。「写真新世紀」2020年度のグランプリ選出公開審査会は、その姿勢が強く感じられるものとなった。

写真新世紀 2020
グランプリ受賞作品「some things do not flow in the water」より

 

過去最多の応募を集めた中でグランプリに選ばれたのは、動画作品「some things do not flow in the water」を制作した樋口誠也さん。写真と記憶の関係性を探るべく、シンガポールで撮影した写真プリントに、シャワーで水を当て画像の一部を流した。イメージが剥がれた写真を見て、自分がどこまで写したものを記憶しているかを試す。作品はその2つの行為を動画に収め、2つのモニターで再生した。

撮影したのは戦時中、旧日本軍が侵攻した地など。樋口さんは、同国の初代首相は日本の行為を「許すが、決して忘れない」と語った歴史などを踏まえ、この作品を制作した。

写真新世紀 2020
樋口誠也さん

 

2020年10月30日に行われたグランプリ選出公開審査会の質疑では、どこまで歴史を学んだのかや、この作品を見た現地の人の反応など、表現にまつわる作家の責任の重要性が問われた。このほか登壇する作者に対し、自作への理解や解釈の深さなど作家としての資質を問う質問が投げられていた。

今回の応募作には「ペア、対がトレンドにあった」と審査員の清水穣さんは指摘する。同様に、椹木野衣さんは「キーワードに距離を感じた」と話し、そこにはコロナ禍による世界の変容に対応する表現者たちの関心の在り様が示されている。

写真新世紀 2020
優秀賞受賞者6名 (セルゲイ・バカノフさんは欠席)

 

なお公開審査会の模様は写真新世紀の公式YouTubeチャンネルでアーカイブ公開されている。

 

 

〈文〉市井康延