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「写真がうまくなる」写真集案内:目利きの写真家・清水哲朗が選ぶ、被写体へのアプローチを学べる5冊

写真の腕は、機材や技術だけでは決まりません。対象に向き合う心、テーマを見出す視点、構成力、それらの“写真感性”を磨くには、まさに写真集こそが格好のヒント集でもあります。古今東西の作品に触れ続ける、写真集収集が趣味の写真家・清水哲朗さんに、「写真がうまくなる」という観点でセレクトしてもらいました。

 

清水哲朗

1975年、横浜市生まれ。23歳でフリーランスとして独立。ライフワークとしているモンゴルのほか、日本国内でも独自の視点で自然風景からスナップ、ドキュメントまで幅広く撮影。個展開催多数。写真集『おたまじゃくし Genetic Memory』『New Type』図録『トウキョウカラス』、フォトエッセー『うまたび – モンゴルを20年間取材した写真家の記録 -』など著作物も多い。趣味は写真展巡りと写真集収集。公益社団法人日本写真家協会会員。

 

動植物から人物まで、 被写体へのアプローチを学べる5冊

 

『SOUL OF ANIMALS』前川貴行(日本写真企画)

選び抜かれた1枚から「写真家の眼」を養う

2020年だけでも3冊出版している日本を代表する動物写真家の最新写真集。『フォトコン』の人気連載をまとめた写真集だが、1種類の動物に対して1作品掲載の縛りはセレクトの視点からも勉強になる。その裏にある膨大な撮影枚数を想像すれば、表現することの難しさを感じるはずだ。

短い文章には動物との向き合い方はもちろん、写真家の独特な視点、撮影時の苦労なども垣間見え、「前川貴行の見る動物世界」がいかにして出来上がっているのかを感じ取ることもできる。

写真集や写真展で必要なのは「写真家の眼」。これがなければだらだらと大量の写真を見せられたところで何も残らない。この写真集からはページをめくるたびに突き刺すようにそれが感じ取れ、見応えにつながっている。

各作品には簡単な撮影地表記、使用カメラレンズ・絞り・シャッター速度・ISO感度もあり、参考になる人も多いだろう。

 

『密怪生命』佐藤岳彦(講談社)

死や生命を美しく捉える作者に圧倒される

ネイチャー系の写真集で度肝を抜かれたのがこの1冊。生物多様性を表現する作品は数あれど世の中にこんな奇妙で面白い生物がいたのかという驚きや、一見グロテスクに思える被写体、「死」「生命の循環」をこれほどまでに美しく捉える作者の知識、視点、粘りに終始圧倒されっぱなし。

フィールドは日本国内から海外のジャングルの奥地までと幅広く、被写体も粘菌から昆虫、爬虫類、鳥類、アジアゾウに至るまで次々と登場する。

自然光とフラッシュの使い分けも実に巧みで、撮影はマクロレンズはもちろん、広角接写や望遠接写も取り入れるなどレンズワークも駆使。毒蛇にあそこまで近寄って撮影するのは作者しかいないだろう。ただでさえ見つけたり、遭遇したり、シャッター タイミングを取るのも難しい被写体を抜群の距離感で狙い撃ちしている。

作者の表現世界は『生命の森 明治神宮』や『変形菌』も見るとより楽しめる。

 

『浅草善哉』古賀絵里子(青幻舎)

写真に大切なもの、写真集とは何かを実感

心に染みる写真を撮りたい人にオススメの1冊。2003年に浅草の三社祭で偶然出会った老夫婦を、家族のような距離感で6年間撮り続けたカラー作品は温かみがあり、物語を感じる。

小さな飲み屋を経営していた老夫婦が寄り添い、閉店、伴侶を失うなど、作者の目を通じて切り取 られたシーンはどれも小説を読んでいるようで想像力を掻き立てられる。時折出てくる夫婦の古い写真の差し込み方も巧みでページをめくる手を止めて見てしまう。

ざらっとした紙に印刷された写真集はページをめくるたびに視覚、触覚、嗅覚を刺激する。見終えた後に広がる余韻からは、大切なものは何か、写真集とは読み物、感じるものと思わずにはいられない。

2015年に赤々舎より出版した『一山』も素晴らしい。リニューアルされたニコンプラザ東京THE GALLERYのこけら落としで新作「BELL」を発表するなど人気と実力を兼ね備えた作者だ。

 

『秋山亮二作品展「津軽 聊爾先生行状記」』 秋山亮二(JCIIフォトサロン)

「日常のユーモア」を知る、温故知新の一冊

フォーマルな場面や何気ない日常の中にあるちょっとしたユーモアを中判カメラとモノクロフィルムを使って作者独自の視点で切り取り、古風なキャプションとともに掲載している作品展図録。

時代と言ってしまえば確かにその時代が写っているのだが、1975年から1977年に津軽で架空の記者として撮影した作品はどれもくすりと笑える。当人たちが至って真面目に振舞っているぶん、可笑しさがこみ上げてくるのだろう。

スクエアフォーマットの構図とウィットに富んだ視点、時にはストロボを一発焚いて浮かび上がらせるアプローチは現代でも十分に通じる撮影法だ。

過去に『カメラ毎日』に連載し、写真集も出ているが、2001年にJCIIフォトサロンで展示、制作した図録は入手もしやすく税込800円とお得。部数限定発行だが、JCIIフォトサロンとウェブサイトでは他にも過去に展示した名作の図録を廉価で入手可能。温故知新であれこれ学びたい人にはオススメだ。

 

『PERSONA最終章 2005-2018』鬼海弘雄(筑摩書房)

圧巻たる、これぞポートレートの魅力

2020年10月に急逝した作者が30年以上モノクロフィルムで撮り続けた人気シリーズの最終作。

東京・浅草寺の境内で気になる人を見つけては声をかけて撮影した作品はどれも「これぞポートレート」と呼べるものばかり。撮影アプローチは基本変わらず、被写体の魅力や強さをストレートに表現している。

1987年出版の『王たちの肖像』から始まり、第23回土門拳賞受賞『PERSONA』、2011年『東京ポートレート』、本作に至るまでどれも圧巻の内容。これはという人に出会わなければ1日待っても撮らないこともあったというから労作であることがうかがえる。人の往来がある場所で待つ撮影方法は被写体探しで翻弄される人にとっては目から鱗が落ちる視点。

作品プリントを原板にした印刷クオリティも非常に高く、被写体とのやりとりから生まれたキャプションが作品をさらに魅力的にさせる。国内外で人気が高く、シリーズの続編がもう見られないのは残念でならない。

※雑誌『CAPA』2020年12月号の記事を、ウェブに合わせて再編集しました