『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2021年8月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鶴巻育子先生が目を留めた“気になる作品”をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
〈講評〉鶴巻育子
1席「永遠」
向當和莉 (福井県越前町 / 17歳 / 福井県立丹生高等学校 / 写真部)
花火と傘のアンバランスな組み合わせ、オレンジ色に染まった空、ぼんやりと浮かぶ女性のシルエット。実は雨の日に開催された花火大会の風景だそうですが、演出された場面のようで、緊張感や色気、さまざまな要素が混ざり違和感のある不思議な世界に。赤と黒のみの構成も刺激的でした。
2席「野球ボール」
山内位音里 (香川県多度津町 / 15歳 / 香川県立多度津高等学校 / 写真部)
表面が毛羽立ち土が付いたボールの質感。年季の入ったボールから、間接的に野球部員たちの日々の努力が伝わりました。強い順光に黒い背景でくっきりと浮かび上がるボールのフォルムや色合いなど視覚的にも美しいと思える作品です。
3席「foreboding」(4枚組)
太田真緒 (和歌山県田辺市 / 17歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
サッカーマンガを彷彿とさせる非現実的な描写にワクワクしました。人の重なりと瞬間の捉え方の妙、そして印象的に見せる巧みな画像処理。1枚目だけが現実的な練習風景の一場面という印象ですので、それを除いて3枚で構成するほうがイメージがまとまったでしょう。
入選「荒野の猫」
湯之前杏樹 (香川県坂出市 / 香川県立坂出商業高等学校3年 / 写真部)
塀の向こうからひょっこり顔を出す猫。正面から平面的に捉えた画面構成が成功しています。枯れ草と一緒に生えているみたいで、隣の電灯ともリンクし馴染み、ユーモラスな作品に仕上がっています。
入選「こいのぼり」
池田達郎 (愛知県豊田市 / 15歳 / 愛知県立猿投農林高等学校 / 写真部)
風に乗って泳ぐ鯉のぼりとうっそうと茂る木々、石畳の階段が写っているだけなのに、不穏な空気が漂っているような不気味な作品です。フィルム写真に写る空気感は何なのか。写真って不思議です。
入選「初夏を浮遊する」
西川永遠 (香川県多度津町 / 15歳 / 香川県立多度津高等学校 / 写真部)
上品な色味のグラデーションと、滑りを感じる水面をスイスイと滑走するアメンボの姿がファンタジー。光沢紙との相性がよく、ポエティックなタイトルも素敵です。
入選「海の幸」
岩佐姫奈 (徳島県阿南市 / 15歳 / 徳島県立阿南光高等学校 / 写真部)
タコって神秘的でフォトジェニック。この存在だけを写している潔さがいい。「かわいかった」と記載しているのに、タイトルは「海の幸」! 人間の身勝手さが出ていて面白い。
入選「Rebound」
竹内瑛亮 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校2年 / 写真部)
全員が同じ方向を向き真剣な眼差しをしています。一瞬、パン食い競争のシーンかと勘違い。ゴールポストを写さないことで説明的にならず、より奇妙さが生まれ面白さが増しました。
入選「おい帰ったぞ」
佐田光稀 (岐阜県関市 / 17歳 / 関市立関商工高等学校 / 写真部)
キュウリを口に咥え、さらに右手にも。片方の手には毟った草を持っていますが、全てゴリラの作為的なポーズではないかと疑ってしまうほどの絶妙さです。モノクロ表現でリアル感を消す手もありましたね。
入選「a.m.6:30」(5枚組)
泰地彩央 (和歌山県田辺市 / 17歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
気の知れた同士で行なう穏やかなセリの様子。猫も仲間入りして作者も溶け込み、そこに朝日が降り注ぐ。平和な風景だなぁ。一歩掘り下げたテーマを持って取り組んでみると、より強い印象の作品ができそう。期待しています。