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ジョニー・デップ主演でユージン・スミスの知られざる姿に迫る 映画『MINAMATA −ミナマタ−』9/23公開

早くから話題になっていた映画『MINAMATA −ミナマタ−』が2021年9月23日から全国公開される。ユージン・スミスが取り組んだ最後のプロジェクトがリアルに再現され、今なお世界各地で続く悲劇に光を当てる。

MINAMATA −ミナマタ−
© Larry Horricks

 

写真好きであれば映画の導入部に登場するスミスの暗室シーンに引き込まれるだろう。部屋は乱雑なのだが、露光作業をするスミスの手先は繊細で、印画紙の表面を優しく撫でていく。彼の気性の荒さと写真に向かう姿勢が伝わってくるシーンだ。

残された写真や資料を基に、当時の風景を忠実に再現したという。例えば、スミスが使っていた機材は彼が提出した税関申告書を手に入れ割り出している。さらにニューヨークのシーンは1970年代のコダック、日本は富士フイルムの発色をベースに映像を仕上げたそうだ。

MINAMATA −ミナマタ−
© Larry Horricks
通訳のアイリーン役を女優の美波 (写真左)、そして胎児性水俣病の子を持つ松村夫婦を浅野忠信と岩瀬晶子が務める。

 

映画では知られざるドラマチックな現実を明かしていく。時代はグラフ誌からテレビ (映像) の時代に移り、スミスも往年の輝きを失っていた。雑誌『ライフ』が休刊するのは1972年末で、スミスが水俣の取材を始めたのが1971年。最初に水俣の写真が『ライフ』に掲載されたのが、1972年6月だ。

MINAMATA −ミナマタ−
© Larry Horricks
雑誌『ライフ』編集部でのシーン。

 

町は加害者である企業 チッソの社員や関係者も多く、公害訴訟に反対する側と二分する。そうした緊迫した状況の中、外国人の写真家が如何にして住民の信頼を得て、撮影ができるようになったのか。写真集『MINAMATA』(1975年刊) でも印象的な写真「入浴する智子と母」が撮影されるまでの経緯も、重要なストーリーとして語られていく。

MINAMATA −ミナマタ−
© Larry Horricks
チッソの社長役、國村隼。そのほか、チッソに補償を求める中心メンバーの一人キヨシ役に加瀬亮、運動の先頭に立つ山崎役を真田広之が熱演。

 

悲しい現実、苦難を背負わされた人々の苦しみを写した写真は、誰に訴えかけられるべきなのか。映画では最後に、これまでにないポジティブなメッセージを綴る。またエンドロールでは、世界各地で起きた公害事件の数々が流される。その悲劇は今も続き、見た者一人一人に、その現実に対して無関心でいる現実を突き付けてくる。

主演のジョニー・デップは、一人は一片の埃に過ぎないが、誰かが巨大な壁を壊し始めれば大勢の人が後に続くと話している。

映画『MINAMATA −ミナマタ−』

監督 アンドリュー・レヴィタス
脚本 デヴィッド・ケスラー
原案 写真集『MINAMATA』W.ユージン・スミス、アイリーン M.スミス (著)
出演 ジョニー・デップ、真田広之、國村 隼、美波、加瀬 亮、浅野忠信、岩瀬晶子、ビル・ナイ
音楽 坂本龍一
配給 ロングライド、アルバトロス・フィルム

 

〈文〉市井康延