船尾修さんの写真集『満洲国の近代建築遺産』が発売された。
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船尾さんは偶然、訪れたフィリピンの村で、日本兵たちがたどった悲惨な末路を知る。当時の日本史を学ぶと、多くの国民が日本を神国と信じ、過大な幻想を抱いていたことに疑問を持った。その根底には日清・日露戦争に勝ち、満洲国につながる成功体験にあると考え、日本が残した満洲国の残影を探す旅に出た。
まずは戦前の古地図や資料と、現在の地図を照合して該当する建物を割り出した。2016年からの約3年間で10回ほど訪中し、首都だった新京をはじめ大連、ハルビンや地方都市もめぐった。
本書に収めた建築遺産は367に上る。中判カメラの「マミヤ RB」を使い、モノクロフィルムで撮影。長い時を経てきた建物のディテールを収めた。巻末には1点ずつ解説を付けた。
満鉄最大の駅舎だった奉天駅 (現在は瀋陽駅) は、東京駅を建設した辰野式を採り入れて建設されたもの。鞍山市の一角にあった日本人居住地は、今も住居やカフェとして現存する。
この壮大な国家の野望は敗戦とともに脆くも瓦解したが、犠牲になったのは一般の庶民たちだ。本書は埋もれつつあった事実を記録した貴重な資料であると同時に、歴史のひだに潜む浪漫をも存分に味わわせてくれる写真集だ。
船尾修写真集『満洲国の近代建築遺産』
体裁 B5判変型・416ページ
価格 8,800円(税込)
発売日 2023年1月10日
発行 集広舎
船尾 修 (Osamu Funao)
写真家。1960年、神戸市生まれ。筑波大学生物学類卒。出版社勤務の後、フリーに。アフリカ放浪後に写真表現の道へ。2009年、『カミサマホトケサマ』で第9回さがみはら写真新人奨励賞を受賞。2016年、『フィリピン残留日本人』で第25回林忠彦賞と第16回さがみはら賞を受賞。
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〈文〉市井康延