北井一夫さんの写真集『ドイツ表現派紀行』が発売された。
■収録内容 (タップ/クリックで拡大します)
ドイツ表現派とは世界を主観的に解釈し、その感情を表現に取り入れる美術運動で、1920年を最盛期に10年ほど続いたらしい。北井さんはそれからおよそ60年後の1979年の春と冬、ドイツを中心にした欧州各国をそれぞれ2か月ほど歩いた。『アサヒカメラ』で連載し、大きな話題を呼んだ「村へ」が終わった後だった。美術に造詣の深いギャラリストの石原悦郎さんから、このモチーフを投げ掛けられたと後書きに記している。
日本の村を旅したように、気の向くままに町を歩き、気になる光景を写真に収めていった。表面的に見えるものをどんどん撮っていき、繰り返しベタ焼きを見る。自分の中でどこからドラマのようなものが生まれ、足りないものをつないでいくことで写真が深まっていく。
ケルン駅の駅前や百貨店のある街も撮っているが、人の姿は少なく、時間の流れが緩やかだ。今見ると、「村へ」と共通したトーンを感じるが、当時、雑誌に発表すると読者からの評判は悪く、連載は途中で打ち切り。2008年に冬青社から同名の写真集が出版されているので、合わせて鑑賞すると面白いだろう。
北井一夫『ドイツ表現派紀行』
体裁 200×200mm・88ページ
価格 4,400円(税込)
発売日 2023年4月20日
発行 PCT
北井一夫 (Kazuo Kitai)
1944年、中国鞍山に生まれる。1965年、日本大学芸術学部写真学科中退。同年、『抵抗』(未來社) を自費出版。1969年、成田空港建設に反対する三里塚の農民を取材し、1972年、写真集『三里塚』(のら社) にて日本写真協会新人賞受賞。1976年、『アサヒカメラ』誌に連載したシリーズ「村へ」にて第1回木村伊兵衛写真賞受賞。主な写真集に『村へ』(1980年 淡交社)、『新世界物語』(1981年 長征社)、『フナバシストーリー』(1989年 六興出版)、『いつか見た風景』(1990年 蒼穹舎)、『1970年代NIPPON』(2001年 冬青社)、『流れ雲旅』(2016年 ワイズ出版)、『過激派の時代』(2020年 平凡社) など。エッセイ集に『写真家の記憶の抽斗』(2017年 日本カメラ社)。
〈文〉市井康延