公益社団法人 日本写真家協会が、2023年 第18回「名取洋之助写真賞」の受賞者を発表しました。
「名取洋之助写真賞」は、主にドキュメンタリー分野で活躍している新進写真家の発掘と活動を奨励するための写真賞です。第18回の総応募数は13名14作品。写真家の熊切大輔さん、清水哲朗さん、専修大学教授の山田健太さんによる選考の結果、第18回「名取洋之助写真賞」は中条望さんの「GENEVA CAMP -取り残されたビハール人-」、第18回「名取洋之助写真賞奨励賞」には齊藤小弥太さんの「土地の記憶」と小山幸佑さんの「私たちが正しい場所に、花は咲かない」が選出されました。
2022年 第17回「名取洋之助写真賞」の該当者なしという結果とは対照的に、第18回は「名取洋之助写真賞」に加えて通常1作品の奨励賞に2作品が選出されるという“豊作”に。受賞作品展は、2024年1月26日~2月1日に富士フイルムフォトサロン東京、3月1日~7日に富士フイルムフォトサロン大阪にて開催予定です。
名取洋之助写真賞は中条望さんの「GENEVA CAMP -取り残されたビハール人-」
第18回「名取洋之助写真賞」を受賞した中条望さんの「GENEVA CAMP -取り残されたビハール人-」(カラー30点) は、バングラデシュの「GENEVA CAMP」を取材した作品。「GENEVA CAMP」は、1971年のバングラデシュ独立戦争の際にパキスタン軍への協力を行なったために弾圧され難民化した民族・ビハール人のキャンプで、今も約20万人がバングラデシュへの完全な帰属を求め続けています。
中条さんは受賞に際し、「ビハール人の窮状と尊厳をこのような場で伝えられることで、ようやく私の義務を1つ果たせたと感じています。彼らが望む場所に辿り着くその日まで、私は撮影を続けたいと思います」とコメント。選考にあたった熊切さんは「抑圧されたキャンプ生活の現実をしっかりと捉えながらも、活き活きとした力強い表情を色濃く写し出している。後半に向かって希望の光が見えるような作品構成も印象的だった」、清水さんは「制限される取材環境でカメラを取り出すことの難しさ、撮影・発表することで抱える困難も予想されるが、テーマに本気で向き合う覚悟が伝わってきた」と評価しています。
中条 望 (Nozomu Chujo)
1984年 三重県生まれ。同志社大学卒業。大学在学中より活動を始め、フリーランスフォトグラファーとして難民キャンプ・スラム・辺境に生きる人々の撮影と発表を続けている。公益社団法人 日本写真家協会会員。
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名取洋之助写真賞奨励賞は2作品を選出
第18回「名取洋之助写真賞奨励賞」を受賞した齊藤小弥太さんの「土地の記憶」(モノクロ30点) は、2029年3月31日に新設予定の成田空港第3滑走路の工事を取材したモノクロ作品。工事に伴う移転対象の地域では高齢化が進み、昔のような大きな反対運動はなく淡々と移転が進んでいるとのこと。作品には、時間の経過と共に失われゆく景色や、昔から続く人々の営みが写し出されています。
同じく第18回「名取洋之助写真賞奨励賞」を受賞した小山幸佑さんの「私たちが正しい場所に、花は咲かない」(カラー30点) は、コンクリートの壁に分断されたイスラエルとパレスチナに暮らす人々が書いた「壁の向こう側に暮らす人々への手紙」とポートレートで構成した作品。前回の最終選考まで残った作品をブラッシュアップしたことで、奨励賞をつかみ取りました。