下瀬信雄さんの写真集『つきをゆびさす』が発売された。
■収録内容 (タップ/クリックで拡大します)
下瀬さんは山口県萩市の写真館に生まれ、東京綜合写真専門学校で重森弘淹氏に学んだ。写真作家を志し、東京での活動を望んだが、父亡き後の実家の家業を継ぐ責務があった。そこで写真館を営みつつ地元の風景を被写体に撮影を続け、自身の写真世界を構築していく。
大型カメラを使い、モノクロームで、自然と人間との関わり合いを見つめ続けた『結界』は2005年の伊奈信男賞に輝き、2014年には写真集にまとめられた。その世界観をさらに探求したのが本書だ。今度はカラーを選び、身近な日常を留める。「指月」は仏教用語で、指は方法、月は本質の例えで、月を指し示すのに指先しか見ないと、月をも失うという教えがある。下瀬さんが被写体に向かう姿勢、写真に対する思いを込めているのだろう。
写真集は3章立て。「天地」(あめつち) では植物や鳥、虫など身近な生命の息吹をクローズアップ中心に描く。続く「産土」では地域の日々や神事などが綴られていき、なかでも子どもたちの姿が印象的だ。結びとなる「指月」では神事から、再び自然風景に帰結していく。ただそこには死の気配も写し込まれ、天地とは異なる旋律を奏でる。「脈略がないように見えて一つのもの、写真でしか表せない表現。それらを集めて一望してみようと思った」後書きで綴られた下瀬さんの言葉だ。
下瀬信雄写真集『つきをゆびさす』
体裁 B5判変型・208ページ
価格 6,600円(税込)
発売日 2023年10月10日
発行 東京印書館
下瀬信雄 (Nobuo Shimose)
1944年、満州国新京市生まれ。終戦に伴い萩市に引き揚げる。1967年、東京綜合写真専門学校卒業。萩市で写真スタジオを経営しながら、萩周辺の文化や歴史に根ざした作品を発表。主な受賞歴に、日本写真協会新人賞 (1990年)、第30回伊奈信男賞 (2005年)、第34回土門拳賞 (2015年) など。
〈文〉市井康延