写真家ナン・ゴールディンが出演、製作に関わったドキュメンタリー映画『美と殺戮のすべて』が2024年3月29日より新宿ピカデリーなどで全国ロードショー公開される。
ナン・ゴールディンは『性的依存のバラード』(1986年刊) などで注目を集めた。自らの日常を題材に、サブカルチャーやドラッグ、暴力、セックスなど、それまでタブー視されてきた社会問題を赤裸々に写し出した。
この映画は2017年、危険な薬物であるオピオイド危機を訴える活動を主題として追う。そのドキュメントとともに、ナンがどのようにアートの世界に入り、作品を撮り、深化させてきたかが語られる。
オピオイドを販売する薬剤会社は大富豪であるサックラー家が所有し、彼らは各国の美術館に多額の寄付を行なうスポンサーでもあった。自らも関わりのある強大な権力へ、ナンは反旗を翻し、闘いを始めた。
彼女がこれまで被写体にしてきたのは誤解や根拠のない認識で差別されている人々であり、それは今も変わらない。この映画を監督したローラ・ポイトラスは約2年間、ナンのインタビューを行なった。
映画はナンが語る言葉に、オピオイド危機での活動を記録した映像と、彼女が撮影したスライドショーなどで構成していく。描き出されたナンの人生やそのプロセスによって、鑑賞者は「彼女を突き動かしている」ものの存在に気づく。
映画『美と殺戮のすべて』
監督・製作 : ローラ・ポイトラス
出演 : ナン・ゴールディン
配給 : クロックワークス
2022年 / アメリカ / 121分
〈文〉市井康延