2025年12月19日から2026年1月29日にわたって、キヤノンオープンギャラリー2にて開催した写真展「CAPA 流し撮りGPフェス」。開催を記念して、2026年1月26日にトークイベントを実施し、事前申し込みに当選した皆さんが参加しました。

『CAPA』のモータースポーツフォトコンテスト「流し撮りGP」審査委員長を務める日本レース写真家協会 [JRPA] 会長・小林稔さん、元レースアンバサダーで、現在は小林さん指導のもとサーキットでカメラマンとして奮闘中の後藤佑紀さんが登壇し、「流し撮りGP」を連載開始から担当しているCAPA編集部・小倉忍もオンラインで参加しました。30年以上の歴史を持つ「流し撮りGP」の歩みと、モータースポーツ写真の撮り方、楽しみ方、大切にすべきことなど、モータースポーツ写真愛の詰まった内容となりました。
500点を超す応募があった特別企画「Memories (メモリーズ)」
イベントの冒頭、今回の写真展「CAPA 流し撮りGPフェス」についてあらためて感想を聞かれ、小林さんは、「普段モニターで審査している作品が、あのように大きくプリントされると雰囲気も変わりますよね。撮影者のみなさんも感じられたと思います。良い作品をたくさん選べたと、あらためて実感しています」と手応えを語りました。

一方、本格的にカメラを始めて3年目の後藤さんは、展示作品のクオリティに圧倒された様子で、「プロかアマチュアかわからないほど、すてきな写真ばかりです。どうすればこんな写真が撮れるのか、まだ私の知識では追いつかないんですけど、刺激をたくさんもらいました」と感想を伝えてくれました。

この写真展の特別企画として実施したフォトコンテスト「Memories (メモリーズ)」には、賞金などがないにもかかわらず、短期間に500点を超える応募がありました。本展の企画・構成を担当した小倉は、「サーキットにまつわる思い出の写真を募集しました。順位を競うだけではなく、いろいろなモータースポーツ写真を展示して、モータースポーツファンが集まって交流するきっかけになればと思い、小林さんと相談しながら企画したのがMemories (メモリーズ) です。たくさん送っていただき、たくさん足を運んでいただいて、ありがとうございます」と感謝の想いを語りました。

小林さんも、自身の写真展『CHASING GRACE』(キヤノンギャラリーSにて 2026年2月3日まで) 展示作品のセレクトと並行して「Memories (メモリーズ)」の審査を行う中で、「皆さんの応募作品を見ながら、小倉さんと “懐かしいね~” と言いながら選んでいました。応募作品を見て、実は自分も忘れていた当時のシーンを思い出したんですよ。このとき自分も撮ったはずだって。この審査がきっかけで『CHASING GRACE』に追加した作品もあるんです」と、応募作品が自身の記憶を呼び起こすきっかけになったことを明かしました。
その時代の空気感が伝わってくるのも写真の面白さ
「Memories (メモリーズ)」の中から、「CAPA 流し撮りGPフェス」では展示しきれなかった応募作を紹介する場面もありました。題して「流してないGP」です。後藤さんが生まれる前の1984年に開催された全日本F2選手権でのラルト・ホンダチームの記念写真や、1980年代に開催されたF1オーストリアGPでのロータスのピット風景など、当時を知る小林さんも驚くほどの貴重な写真も紹介されました。

また、2006年のF1日本GP (鈴鹿サーキット) で、リタイアしたミハエル・シューマッハ選手を観客が取り囲んで撮影している作品を見て、小林さんは「ファンの人たちが持っているコンパクトデジカメや携帯電話などのデバイスも含め、その時代の空気感が伝わってくるのも写真の面白さなんです」と写真の記録性が持つ側面を解説。

ほかにも、懸命に働くメカニック、安全を守るマーシャルの姿など “レースを支える人” に焦点を当てた作品も多く、小倉は「これもモータースポーツの重要な一部」で、そこにフォーカスした作品もたくさん届いていたと話しました。
フォトコンあるある? レタッチの落とし穴
トークイベントの後半は、「流し撮りGP」の具体的な審査基準やモータースポーツの撮影テクニックについての話題が中心となりました。
展示作品をいくつか見ながら小林さんが「写真に答えはない」としながらも、「流し撮りGP」の審査において重視しているポイントを紹介。それはカッコよさや美しさだけではなく「レースにはそれぞれにさまざまな物語があり、その瞬間を捉えているかというメッセージ性の強さです」と。優勝シーンでのドライバーの仕草や、紅葉とマシンを絡めるための場所探しなど、「その時、その場所でしか撮れない意味のある1枚」を高く評価しているということでした。

また、長年「流し撮りGP」を審査する中で小林さんが伝えたいと思っていることの一つに、レタッチの落とし穴がありました。小林さんは自身の作例を使い、過度な加工が写真を台無しにする例を解説してくれました。

■シャープネスのかけすぎ
ピントをカリッとさせようとしてシャープをかけすぎ、写真を破壊している例が応募作の中で毎回2割ほどあるとのこと。「そこまでやる必要はない」と小林さん。
■ビネットとHDR感
周辺を暗く落とすビネットでのごまかしや、空の色が壊れるほどのHDR加工について、「写真が嘘になってしまう。自分の目で見た明るさや色、いわゆる “記憶色” を大切にしてほしい」と強調しました。

被写体への理解が写真の質を左右する
続いて、後藤さんが撮影した写真を見ながらのトークです。撮影場所にもよるけれど「ほんの少しカメラを低く構えたり、1m横に動いたりするだけで、狙っているマシンの収まりが劇的に良くなる」といったアングルの工夫や、マシンをクローズアップしたときに切り取る画角など、小林さんから具体的なアドバイスが。

そして後藤さんが「KYOJO CUP」で撮影した写真について説明。ある写真は「この選手はシーズン通してノーポイントだったんですが、最終戦で1ポイントを獲得することができたので、ピットで待っていたらきっと何かあるだろうと思って」と、選手の帰還を待ち伏せて撮ったことを話しました。
それに対し、小林さんは「被写体 (レース展開やルール) をどれだけ理解しているかが、写真の質を左右します。クルマが来るのをただ待つのではなく、状況を読んで撮ることが上達の近道」と、このときの後藤さんの判断がモータースポーツを撮るうえでも役立つポイントであることを指摘しました。

キーワードは2つ! 担当者だからこそわかる審査ポイント
長年「流し撮りGP」を担当してきた小倉は、小林さんの審査ポイントを2つのキーワードで分析しました。
「ひとつは、トラッド (伝統) ですね。奇をてらったものよりも、スポーツとしての純粋さや写真としての基本がしっかりしている作品が、最終的に選ばれる傾向にあります。もうひとつは、記録性です。“このラップの勝負所” という、ファンなら誰もが見たかった瞬間を確実に収めているドキュメンタリー的な視点を重視する傾向があると思います」。

これには小林さんも大きく納得。「応募写真のレース現場には僕も行っているので、このシーンあったなという記憶もあるし、この辺りで撮っているなと、だいたいわかるんですね。そのうえで、ここで押さえたのか! と感心する部分もたくさんあります。そういう写真を僕も見たいし、皆さんも見たいと思うんです」。
流し撮り作品に込めてほしい要素とは?
小林さんは「写真に答えはない」としつつ、「流し撮りGP」という名称ではあるものの「単にスローシャッターでキレイに流れているだけではなく、そこに物語や感情という “もう一つの要素” を込めてほしい」と総括しました。
※なお「流し撮りGP」では、低速シャッターの流し撮り (背景が大きく流れている) と高速シャッターの流し撮り (背景が流れていない) のどちらも審査対象としています。

トークイベントは予定していた1時間を超え、気が付けば1時間半近くになっていました。最後の「質疑応答」コーナーでは、参加者の皆さんからの質問・疑問に小林さんと後藤さんが答えます。
「好きなサーキットは?」という質問に対し、後藤さんは「昨年数多く撮影し、ブレーキングポイントを理解できた富士スピードウェイ」との答え。小林さんは「プロとして、どこでも撮れなければならないので好き嫌いはないですね。ただ、しいて言えばル・マン24時間レースが開催されるサルト・サーキットは思い入れが深い」とのこと。
また、「ウィニングランで手を振ってもらうコツ」については、後藤さんが「ハンドル操作が緩やかになる場所を狙い、自分からも全力で手を振る」という実戦的なテクニックを披露し、会場を沸かせました。

最後に小林さんは、これから「流し撮りGP」への応募を考える皆さんに向け、「好きな選手やマシンへの思いを込めて撮れば、必ず写真に力が宿る。心を込めた作品を待っています」と力強いエールを送り、トークイベントを締めくくりました。
