CP+2026で、パナソニックブースのステージイベント「Lマウントアライアンスを生み出したキーパーソンたちが語る、Lマウントの未来と展望」に登壇したライカカメラ社のステファン・ダニエルさん。M型ライカの開発に関わってきた “Mr.M” に、M型ライカのこれまでとこれからを伺った。

M型ライカは、ライカというブランドにおいて重要な存在
── 昨年、「ライカI」誕生100周年記念イベント「100 years of Leica: Witness to a century (1925-2025) | ライカの100年 : 世界を目撃し続けた1世紀」が世界の6都市で開催されました。M型ライカは100年の歴史の中でどんな役割を担ってきた存在だったのでしょう?
M型ライカは、オスカー・バルナックが発明したライカ初の量産35mmカメラ「ライカI」の正当後継機と呼べるカメラです。M型ライカの誕生から71年経っていますから、100年の歴史のうち、その多くをほぼM型ライカが作ってきたと言えるでしょう。
しかも、オスカー・バルナックが最初に考えたコンセプトの機能を現在も使っているのです。例えば、横走りのフォーカルプレーンシャッターシステムは、今もフィルムカメラの「ライカM-A」や「ライカM6」で採用されています。M型ライカは、ライカというブランドを研ぎ澄ましてきた重要な存在です。

M型カメラのデジタル化は長年の夢であり、勇気ある決断でもあった
── ライカにとって、デジタルカメラの開発は大きなターニングポイントだったと思いますが、「ライカM8」はM型ライカの歴史の中で、どんな位置付けにあるカメラでしょうか?
「ライカM8」が発売されたのは20年前のことですが、実は「ライカM8」の開発をする以前から、M型ライカのデジタル化は実現不可能だと考えていました。当時のイメージセンサーの特性では、私たちの求めるレベルに達しなかったからです。
しかしその一方で、M型ライカのデジタルカメラを作ることは、私たちの長年の夢でもありました。ですから、フィルムのレンジファインダーカメラとほぼ同じサイズのデジタルレンジファインダーカメラを作るという道を選んだことは、大きな成果だったと思います。つまり、20年前にM型デジタルカメラを開発したことは、ライカにとっては再発明とも言えるほど革新的なことだったのです。

──「ライカM8」をコンパクトなサイズで製品化できたブレークスルーの要因は何だったのでしょう?
具体的には、コダックと共同でデジタルカメラの中核となる部分の開発に取り組んだことです。コダックとは以前「デジタルモジュールR」の開発で共同研究をしていました。だからこそ可能だったとも言えるでしょう。コダックと良好な関係ができ上がっていたからこそ、コダックも私たちのことを信頼してくれました。
イメージセンサーにおける課題が解消され、私たちが目指すデジタルカメラが手の届くところにあるとわかったとき、すぐに試してみようと思いました。そうすれば「ライカの精神はデジタル時代になっても生き続けるだろう」と考えたからです。
そのためには、Mレンズに適合する専用のイメージセンサーを設計する必要がありました。

── レンズに合わせてイメージセンサーを開発したわけですか?
そうなんです。普通だったら既存のイメージセンサーに合わせてレンズを設計していくのですが、私たちは逆の方法で開発を進めました。M型のデジタルカメラを作るからには、1954年から続いてきた多くのM型レンズでも撮影できないといけないと考えたからです。
とはいえ、M型レンズを通して画面の周辺部まで十分に光を届けるのは厳しいことでした。そこで、イメージセンサーの上に載せるマイクロレンズをシフトさせる、ローバスフィルターを極限まで薄くするといったような、M型ライカに特化したカスタマイズをコダックと一緒に開発することで、M型レンズで使えるイメージセンサーを完成させました。それこそが非常に大きなブレークスルーだったと思っています。
──「ライカM8」の開発で得られた経験は、M型デジタルカメラの進化にどのようにつながっていきましたか?
「ライカM8」の開発は、すべてがうまくいったわけではありません。最初の試みでうまくいかなかった多くのことが、今でははるかに大きな財産になっています。この経験を経ていなければ、今の私たちはなかったでしょう。
その意味で「ライカM8」は、現在のM型デジタルカメラへと続く過程の重要なマイルストーンなのです。開発では、いわゆる産みの苦しみがありました。英語で言うところの「Teething problems (乳歯が生えるときの疼き)」のようなものです。「ライカM8」がなければ今のM型デジタルカメラは生まれなかったたわけですから。デジタルカメラの開発は勇気のある決断だったと思っています。

M型デジタルカメラの完成形に近づいた「ライカM11」
── 現行モデルの「ライカM11」ファミリーは、M型デジタルカメラの完成形に近い存在だと感じています。まだ到達できていない部分はありますか?
「ライカM8」ではイメージセンサーにAPSフォーマットのセンサーを採用しましたが、「ライカM9」ではフルサイズセンサーになりました。さらに「ライカM Type240」ではイメージセンサーがCCDからCMOSに変わったことで、ライブビュー撮影ができるように進化しました。そして「ライカM10」ではボディの厚みが「ライカM8」とほぼ同じになるといったように、M型デジタルカメラの4世代目までは毎回大きな進化がありました。
やりたいことが「ライカM10」の時点でほぼ達成できたため、「ライカM10」から「ライカM11」への進化ではバッテリーを大容量化しましたが、これまでのように大きなジャンプアップはありません。そういう意味でも「ライカM11」は完成形に近いM型デジタルカメラと言えるでしょう。

── 今後のM型デジタルカメラの開発では、さらに高画質を目指していくのでしょうか。それとも、使いやすさを追求する方向でしょうか?
使いやすさという意味では、例えば操作ボタンの数を減らしたり、メニュー表示を機種間で共通化するといったことをこれまでもやってきました。こうした取り組みによって操作性が向上し、使いやすくなっていると思っています。
もちろん、画質に関してもさらに上のレベルを目指して開発を進めています。今後のモデルに関しては、すでにいくつかアイデアがありますが、発表するにはまだ時期尚早です。
EVF搭載の「ライカM EV1」はライカMシステムにおけるツールの一つ

──「ライカM EV1」は、M型デジタルカメラの中でどのような位置づけの製品でしょうか?
「ライカM EV1」は、これまでのレンジファインダーカメラを置き替える存在ではなく、ライカMシステムというツールボックスの中の一つのツールと言える存在です。EVFのあるM型デジタルカメラを求める声が強くあったからこそ、このカメラが存在するのです。
マウントアダプターを装着して撮影したり、21mmの超広角レンズや100mm以上の望遠レンズをM型カメラで楽しむには、EVFを搭載した「ライカM EV1」が一番合っていると思います。外付けのビューファインダーを使って撮るというのもありですが、EVFや液晶モニターを使うメリットは大きいですからね。

古いカメラにもレンズにも対応するのがライカの哲学
── 新登場の「ノクティルックスM f1.2/35 ASPH.」はセンサーに合わせたレンズの登場と言えそうですが、いかがでしょうか。
このレンズと「ライカM EV-1」は、たまたま同じタイミングでの発表になりましたが、完全に独立したプロジェクトでした。「ノクティルックスM f1.2/35 ASPH.」は多くの新技術を駆使した最新設計のレンズで、1954年発売の「ライカM3」から現行の「ライカM11」まで、完璧に連携するように設計されています。
コンパクトなボディと最高の性能を融合することで、撮影の限界をさらに押し広げることができました。これは、このレンズの革新的な部分と言えるでしょう。

── レンズの性能を突き詰めていく中で「あえて守ったM型ライカらしさ」と言える点はありますか?
私たちは、将来のカメラにしか対応しないレンズではなく、例えば「ライカM2」でも素晴らしい結果が得られるレンズづくりを目指しています。「すべてのM型レンズは、新旧を問わず、あらゆるM型カメラに適合するべきである」というのが非常に重要なポイントであり、レンズ開発の核となる原則の一つなのです。古いカメラにもレンズにも対応する。これはライカの哲学の核心であって、完璧さを追求する上で重要な要素だと考えています。
また、ライカレンズの伝統としてもっとも重視している明るく高性能でコンパクトということを「ノクティルックスM f1.2/35 ASPH.」は忠実に実現しています。焦点距離35mmで開放値F1.2というスペックにも関わらず、非常にコンパクトなレンズに仕上がっています。
そういう点で「ノクティルックスM f1.2/35 ASPH.」は、ライカの伝統を体現しているレンズと言えるでしょう。もちろん、それを実現するにあたっては、さまざなま最新テクノロジーが採用されています。

──「ノクティルックスM f1.2/35 ASPH.」は、現代でなければ生まれることがなかったレンズということでしょうか?
そうですね。もう少し詳しく説明すると、明るく高性能でコンパクトなサイズを実現できた理由には、主に精密ガラス成形の新技術を開発したことが挙げられます。「ノクティルックスM f1.2/35 ASPH.」は、この新技術を核にして設計されました。
非球面レンズの多くは削って作られるのですが、「ノクティルックスM f1.2/35 ASPH.」に採用されているのは、すべてプレス加工によって作られたガラスモールド非球面レンズです。それを使う前提で設計しているので、高い性能を効率よく引き出すことができています。
また、硝材やコーティングも進化していますし、完成したレンズを検査する精度も高くなっています。こうしたことも、明るく高性能でコンパクトなレンズの誕生には欠かせない要因でもあります。今後出てくるレンズは、これらの技術をもとに開発していますので、より高性能で小型のレンズが登場することを期待してください。
M型ライカが守り続けないといけないものとは?
── 最後に、これから先の100年を見据えたとき、M型ライカが守り続けないといけないものとはどんなことだと思われますか?
100年先のことは答えられませんが、ライカが今後もMマウントにこだわり続けることは確かだと言えるでしょう。カメラとレンズをつなぐMマウントの互換性は70年以上続いてきましたし、今後も維持されていくべきものでしょうね。なぜなら、それがM型ライカの精神の一つだからです。
2つ目はレンジファインダーシステムです。ほかのカメラにはない、Mならではのシステムですから。
そして3つ目が、ボディのコンパクトなサイズ感です。M型ライカは、コンパクトなフルサイズシステムであり続けるでしょう。写真を撮るうえで、カメラのサイズは非常に重要なポイントになります。これら3点は、ライカがこれからも守り続けていかなければいけないものなのです。
── どうもありがとうございました。
