第43回(2017年度)木村伊兵衛写真賞が、小松浩子さんと藤岡亜弥さんに決まった。3年ぶりの2名受賞となったが、女性のみの複数受賞は、女性3名が選ばれた第26回(長島有里枝さん、蜷川実花さん、HIROMIXさん)以来となる。かつてのように女性の時代といった風潮ではもはやなく、そうした点にも時代の変化を感じる。
小松浩子さん(左)と藤岡亜弥さん(右)
木村伊兵衛写真賞は、故・木村伊兵衛の業績を記念して朝日新聞社と朝日新聞出版が主催。1975年の創設以来、毎年すぐれた作品を発表した新人写真家を表彰している。選考にあたっては、写真関係者が候補者を推薦し、選考委員会で受賞者を決定する。
今回、推薦人が挙げた候補は64名で、そのうち18名が女性候補。そこから4人の選考委員がノミネート写真家を絞り込むが、最終選考に残った6名はすべて女性になった。
小松浩子さんの写真展『人格的自律処理』より、展示風景。
小松さんは街にある小さな工場の資材や金属の廃棄物などをモノクロームで撮影している。大判のプリントに焼き付け、ロール紙のままで展示したり、床に置くなど、見る者を驚かせる見せ方を試みてきた。受賞対象となった作品展『人格的自律処理』は東京のギャラリーαMで2017年9月から10月に開かれ、『The Wall, from 生体衛生保全, 2015』はイタリア・ボローニャでのグループ展に出品されたものだ。写された資材や廃棄物たちはモノクロームのプリントに転写されることで、本来の意味から離れ、違う存在として目の前に現れる。そこから人は美しさや退廃、諦観、反逆、暴力など、さまざまな余韻を感じ取る。
藤岡亜弥さんの写真集『川はゆく』より。藤岡さんは同じ写真集で第27回(2018年)林忠彦賞にも選ばれている。
藤岡さんは写真集『川はゆく』(赤々舎)と、2017年5月に東京のガーディアン・ガーデンで開かれた写真展『アヤ子、形而上学的研究』が受賞対象になった。東京で大学生活を送り、各国を旅し、ニューヨークで4年間を過ごした。自らの日常を被写体として作品にまとめてきた。米国生活を終え、2012年から故郷の広島で生活を始めた。7本の川が流れるこの街に、1945年、原爆が投下された。その後、長い時間が流れ、街には普通の生活が戻ったかに見える。そんな風景から時折、戦争の影が顔を覗かせる。「川はゆく」は、作者自身が写真を撮り、見ることで、改めてヒロシマと広島をとらえ直した成果だ。
選考は写真家の石内都さん、鈴木理策さん、ホンマタカシさんに加え、作家の平野啓一郎さんが担当した。これまで選考対象は写真集や写真展、雑誌に限られていたが、現在は展示は海外にも広がったほか、写真を使った表現は写真家に限らず、インターネットで発表する作家も増えている。写真賞も新たな局面を迎えているようだ。
第43回 木村伊兵衛写真賞受賞作品展
東京
会 期 2018年4月24日(火)〜5月7日(月)
会 場 ニコンプラザ新宿 THE GALLERY
住 所 東京都新宿区西新宿1-6-1 新宿エルタワー28階
時 間 10:30~18:30(最終日は15:00まで)
休館日 4月29日(日)・5月3日(木・祝)~6日(日)
大阪
会 期 2018年6月14日(木)〜20日(水)
会 場 ニコンプラザ大阪 THE GALLERY
住 所 大阪市北区梅田2-2-2 ヒルトンプラザウエスト・オフィスタワー13階
時 間 10:30~18:30(最終日は15:00まで)
休館日 6月17日(日)
〈文〉市井康延