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レンズの進歩に大きく貢献した「人工蛍石結晶」を日本カメラ博物館で展示

キヤノンオプトロン株式会社は、自社で製造する人工蛍石結晶を2020年7月2日、一般財団法人日本カメラ財団 (JCII) に寄贈した。寄贈された人工蛍石結晶は、日本カメラ博物館の常設展示「レンズコーナー」内で展示されている。

人工蛍石結晶キヤノンオプトロンから日本カメラ博物館へ寄贈
▲寄贈された人工蛍石結晶。

 

キヤノンオプトロンは、1974年に人造蛍石の量産を目的として設立されたキヤノンのグループ企業。光学材料メーカーとして50年以上に渡って、人工蛍石結晶の量産化で培った高温真空技術や温度制御技術に磨きをかけながら、さまざまな光学用結晶材料を開発してきた会社だ。

高性能レンズの開発を目指すキヤノンは、蛍石の有効性にいち早く着目し、蛍石そのものを自らの手で開発し、高性能レンズを開発する「キヤノンF計画」を1966年にスタートさせた。

キヤノンFL-F300mm F5.6
▲キヤノンが初めて人工蛍石結晶を採用し、一般消費者向けに発売したカメラ用交換レンズ「FL-F300mm F5.6」。

 

キヤノンは、蛍石レンズを採用したカメラ用交換レンズを37機種 (うちEFレンズ28機種) 発売してきた。現在も10機種が生産されている (2020年7月2日時点) が、キヤノンオプトロンが製造する人工蛍石結晶は、キヤノン製のカメラ用交換レンズや放送用レンズだけでなく、天体望遠鏡レンズや紫外線顕微鏡など、幅広い光学製品で活用されている。

EF400mm F2.8L IS III USM&EF600mm F4L IS III USM
「EF400mm F2.8L IS III USM」「EF600mm F4L IS III USM」などの最新レンズにも蛍石が採用されている。

 

今回の寄贈は、国内外の貴重なカメラや写真を多数保有・展示する日本カメラ博物館に展示するために、JCIIの要請を受けて実現したもの。キヤノンオプトロンの人工蛍石結晶の製造を通じた、半世紀以上にわたる光学産業への貢献が評価されたものだ。

人工蛍石結晶キヤノンオプトロンから日本カメラ博物館へ寄贈
▲寄贈の様子。

 

日本カメラ博物館の市川泰憲運営委員は、「蛍石は極めて特徴的な光学特性や、可視光線から紫外線・赤外線領域までの幅広い波長の光を透過することから、古くから顕微鏡や科学写真用特殊レンズなどに使われてきました。今日のレンズでは特殊低分散ガラスの多用も進みますが、キヤノンは半世紀以上にわたり、高性能レンズの設計で蛍石を採用しており、結晶を成長させて得られる優れた特徴を持つ光学素材としての人工蛍石の存在は歴史的に意義あるものと考えます」とコメントしている。

日本カメラ博物館

住所 東京都千代田区一番町25 JCII一番町ビル地下1階
開館時間 10:00〜17:00
休館日 月曜 (祝日の場合は翌日休館)
料金 一般300円、中学生以下無料
TEL TEL 03-3263-7110

 

 

〈文〉柴田 誠