1950年代に撮影された青森のスナップ写真が、インスタグラムで話題を呼んでいる。フォロワー数は約1万1000人。それは日本だけでなく、海外の人も少なくない。みすず書房から2021年6月に写真集が出版される予定だ。
作者は青森の工藤正市さん。生涯海が好きで、青森の人々や日常風景を撮影した。この写真を撮っていたころは写真雑誌に投稿し、その頭角を現していたそうだ。だが仕事と写真の両立が辛くなり、きっぱり写真を止め、押し入れや天袋にしまい込まれた。
その写真が幸運にも発見されたのは、2014年に正市さんが84歳で他界した後のこと。娘の加奈子さんが遺品の中にプリントと少しのネガフィルムを見つけた。写された青森の風景に惹かれ、家を探すと大量のネガがあった。父から写真は全て処分したと聞いていたので、その存在に驚いたという。「最初は病床にあった母に見せるため、そのフィルムをデータ化したんです」と加奈子さん。
その後、コロナ禍で時間が生まれたことで、父の写真を一人でも多くの人に見てもらいたい一心で、インスタグラムに投稿した。それをみすず書房の編集者である小川純子さんが目にした。小川さんは2019年に奥山淳志写真集『庭とエスキース』を手掛けて以来、写真に詳しいSNSの投稿者を時折チェックしているそうで、そこで工藤さんのことを知った。
「写真を見て、ただの記録写真とは違うオーラを感じました。編集会議でも、その魅力はひと目で伝わりました」と小川さん。インスタグラムでの高評価も後押しして、出版が決まった。
〈文〉市井康延