『CAPA』本誌連動企画として毎月公開している、月例フォトコンテスト「学生の部」ピックアップ作品レビュー。今回は『CAPA』2021年3月号より、誌面に掲載された入賞作品に加え、全応募作品の中から審査員の鶴巻育子先生が目を留めた“気になる作品”をピックアップしてアドバイスします。さらなるレベルアップのためのヒントが満載です!
〈講評〉鶴巻育子
1席「残像」(3枚組)
今西海央里 (三重県松阪市 / 18歳 / 皇學館高等学校 / 写真部)
フィルムを二重に露光してしまったことで偶然できた画像。2つの過去が写る空間は、一体どこなのか。時空の歪みや宇宙という言葉が浮かびました。そもそも、これを失敗と取るか面白いと感じるかで全く別物に変わってしまう。写真の曖昧さを考えさせられます。
2席「渇き」
岩田昊大 (愛知県犬山市 / 16歳 / 愛知県立小牧南高等学校)
蛇口からの水を必死に飲もうとする学生たち。写っている物や事柄が理解できず説明的でない写真は、状況の把握や撮影意図を紐解きたくなり、ついつい長い時間眺めてしまいます。4人の演技力による効果はもちろん、光と影に分割されている構図も強い印象を受けました。
3席「奇妙な友達」
門田真亜子 (島根県大田市 / 17歳 / 島根県立大田高等学校 / 写真部)
画面の構成力が素晴らしい作品です。手前に見切れている人物の存在により、2人の間の空間から背後の山までのラインができて視線が誘導され、立体感が生まれました。緑を背景につま先の素肌が確認でき、逆立ちのポーズの美しさが際立っています。
入選「眠たい日」(4枚組)
森本羽音 (和歌山県田辺市 / 16歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
布団の中でむだな時間を過ごすことの幸せ。共感が詰まった組写真。なかでも印象的なのは、こたつに入った虚ろな目の男性。テレビのリモコンを近くに置いて、ここで1日中過ごしたのではと想像できます。
入選「晩秋」
難波 歩 (大阪府松原市 / 16 歳 / 大阪府立生野高等学校 / 写真部)
いい光が味方になって、ブラックバスを掴んだミサゴの迫力ある姿が印象的に描かれています。ススキを入れた縦位置のフレーミングが掛け軸をイメージさせ、日本的な雰囲気を感じました。
入選「喧嘩」
渡邊弘毅 (島根県大田市 / 17歳 / 島根県立大田高等学校 / 写真部)
俯瞰のアングルによって、重なった2匹の犬の形が違ったものに見えてくるのが面白い。地面に落ちた花びらがドラマチックな演出となって、喧嘩のシーンを盛り上げています。
入選「大好きな時間」
加藤安良波 (愛知県豊田市 / 17歳 / 愛知県立猿投農林高等学校 / 写真部)
ざらついた空の質感はデジタルにはできない表現。粒状感のあるプリントは、やはり一際存在感を放っていて目に留まります。印画紙に焼き付いた妹と愛犬の尊い時間は、心にもしっかり刻まれます。
入選「チームワーク」
今泉日和 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校1年 / 写真部)
宙に浮いた女性2人と手を伸ばす女性たち。うっすら見える彼女たちの真剣な表情。チアリーディングの場面とわかりながらも、宗教的で奇妙な行動に見えてくるのが不思議です。モノクロ化が成功しました。
入選「探し物」
保田桃子 (神奈川県川崎市 / 16歳 / 神奈川県立川崎北高等学校 / 写真部)
地面、枯木、緑、空と層になっている構図と色彩が目を引きます。動物が目立たない捉え方も面白い。美しいプリントが作品の良さを引き立てています。大きく伸ばすとディテールが見えて、さらに見応えがありそうです。
入選「里帰り」(4枚組)
中野 龍 (愛知県豊川市 / 豊川高等学校1年 / 写真部)
面白いのは、作者が実際に里帰りしたわけではなく、「里帰り」を想定して制作したところ。写真は嘘がつけるわけです。2Lサイズを繋げた軽やかで可愛らしい作りも作品にマッチしていました。
ここからは、惜しくも選外となった作品の中から、鶴巻育子先生が気になった作品をピックアップしてアドバイスします。
虫柱
山内葉月 (島根県大田市 / 16歳 / 島根県立大田高等学校 / 写真部)
主役の蝶の模様や色も綺麗ですが、写真全体の色味が目を引きました。白と茶色の蝶を中心に、ピンク、緑、青で構成された鮮やかな色のバランスが素晴らしい。
蝶の羽が画面上ギリギリなところが気になりました。もう少し引いて空間を取ると窮屈な印象にならなかったでしょう。
常連さん
下浦茉侑 (和歌山県田辺市 / 16歳 / 和歌山県立神島高等学校 / 写真部)
優しい散髪屋さんと常連のお客さんだそうです。営業中にこの場面を撮影してしまう図々しさに拍手! 光の捉え方も素晴らしく、2人の肌の質感や年季の入った店内の様子がドラマチックに描かれています。
2人の関係性が表れてはいますが、少々説明的に見えてしまいました。耳かきをされて気持ちよさそうなお客さんをメインにするなど、ターゲットを絞ってみてもよかったと思います。
あったかコーンスープ
野村優凪 (宮城県塩竃市 / 16歳 / 宮城県塩釜高等学校 / 写真部)
「冬になると自販機にコーンスープ、絶対あるなと思いました。さらさらよりとろとろ派です」とコメントがありました。感じたこと、目についたものを、ただストレートに写真にする。考える前に撮る写真は強い印象を受けます。しかも画面いっぱいに切り取っていて、インパクト大。このような写真は一枚で表現として成り立たせるのは難しいです。複数枚での表現がマッチします。ぜひこの調子で写真を撮り溜めて作品を作ってほしいです。